平成20年度2次試験
2008年度中小企業診断士2次試験問題概観
全くの私感ですが、各問題をざっと眺めてみた解答の方向性、問題の求めているものなどを書いてみます。
事例1
事例1は、主に航空会社への機内食を提供するメーカーの事例でした。いままでとは若干毛色が違っているように感じられたかもしれません。
従業員も300名ですので、中小企業基本法の定義からすると大企業の事例となります。(製造業は資本金3億円以上か従業員300人以上を大企業としている)
上記コメントは間違っていました。お詫びして訂正いたします。
正しくは、製造業は資本金3億円以下か従業員300人以下を中小企業とし、それ以外が大企業となります。
上のコメントを修正すると「製造業は資本金が3億円を超えるか、従業員が300人を超える」企業を大企業としている、となりますね。
また、今回の事例文では、「約300名」ですので、特定できませんでした。
(吉崎様ご指摘ありがとうございました)
第1問では、強みを分析させています。第2問では弱みとなりうる背景を書かせようとしていますから、脅威に対する自社の課題ということになるのでしょう。基本はSWOTですね。
第3問では収益改善のために権限を移管した効果を問うていますので、組織人事のメインの問題と言えますね。
第4問は若干生産管理の事例3に出てもおかしくない問題となっています。製造業において流れ作業とくれば、多能工化を改善策とする場合が多いですよね。
第5問は新規事業開拓の成否を判断させています。
これは、第1問・第2問のSWOT分析を判断材料とさせていると考えられますので、解答に明確に入れることが求められるでしょう。
戦略としては、新市場開拓戦略であり、遊休資産となっている第3工場をどう絡めるか、という視点でいいと思われます。
なんか例年と違うなあと思ったのですが、小問のない単純な出題で5題しかないからですね。
すべて、100字か150字で答えさせていますので、文字数としては例年並(600字)ですが、盛り込む内容を選択するのに悩みそうでした。
事例2
引き続き、事例2(販売マーケティングの事例)を概観してみます。詳細な解説は各受験指導校が公表していると思いますので、そちらで確認ください。
事例企業は、老舗の高級(高価格)温泉旅館でした。実際のモデルを探してみたいような身近な事例だったのではないでしょうか。
まず、重要なキーワードは、「静寂さ」と「和み」を大切にして、客室一部屋に対して仲居1人というマンツーマンサービスを行ってるというところでしょう。
女将のお茶や毛筆での礼状など、きめ細かなサービスが強みとなっています。
脅威は最新設備の大規模ホテル、機会は、外国人観光客の増加とアウトレットモールが建設されるというのはすぐに気づきます。
更に、地元農家から仕入れる食材の購入ニーズとみかん狩りやいちご狩りのイベントニーズでしょう。
そんな中、空室が増えてきている状況を打開するため、老朽化する建物・設備をどうするか、その時、サービスの提供自体も変えようとしています。
さあ、どうしたらいいでしょうという問いかけのようです。
第1問、第2問はSWOT分析の抜き出しとなります。
支持された理由は、価格に見合ったきめ細やかな本質的なサービスと手書きで送られる礼状のアフターサービスが考えられます。
また、予約数の減少は、顧客ニーズの変化と競合の存在が私には気になりました。
第3問のマーケティング戦略上の問題ですが、既存顧客重視と口コミを中心としたプロモーション、そして、この旅館のコンセプトの強みを生かせなくならないか、という視点かなと考えます。
第4問と第5問は、メインの改善提言となります。
第4問はプロモーション戦略に絞ってあり、第5問が新規事業を問うています。
口コミという最強のプロモーションを強めている毛筆の礼状をしっかり残しながら、ホームページとの融合やテレビ取材などのパブリシティをどうかみ砕くかが課題ですね。
事例3
事例3は生産管理の事例と言われています。
事例企業は、中小企業の典型的事例企業である金型製作メーカーでした。
まず、小型から中型までの金型製作が「得意」であり、提案力があります。そして、生産規模と技術水準の高さはトップレベルで、評価が高い企業です。
脅威は海外現地調達や金型業界全体の経営環境の厳しさですが、C社は有力企業として有利な側にあります。
そんな中、大型の金型要請や短納期要請に対して、外注管理の問題と人員増で対応しようとする方針を問われています。
第1問は強みを生かした経営戦略という直球勝負に悩んだかもしれません。あとの問題との整合性が重要になりそうです。
生産規模と技術水準の強みを海外進出企業の現地調達にどう生かすかという視点を考えました。
第2問はC社が得意でない大型の金型要請です。機会は抜き出しでいけるでしょうが、設問2の生産面の課題をどう絞るかが悩みどころです。
簡単に考えれば、与件文にある機械設備の問題になります。ただし、ノウハウがないという点を見逃すわけにはいけませんね。
第3問は外注管理ですが、現在渡していないデータを共有化して、お互いに効率化を図る視点ですね。
第4問は、設問にヒントがあると感じました。
「グローバル化時代の経営戦略」と書かれています。つまり、仕上げ工を単純に国内で増員するのではなく、海外での仕上げ工という考え方もあるかもしれませんね。
いかがだったでしょうか。とにかくヒントは与件文にも設問文にもあります。
問題は、全体としての整合性だと思います。
この企業は、大型金型を作るべきと思えば、それに合わせて、海外ではなく国内中心となるし、海外へ目を向けていくのなら、工程の海外化で、国内を絞り込む必要があるのではないかと感じました。
中小企業診断士問題文2008事例3
事例4
事例4は、4つの事例の中で、点数がはっきり出てしまう計算問題があるのが大きな特徴で、逆に、計算を間違わなければ確実に点数を稼げる事例でもあります。
事例企業は、工業製品の塗装会社であり、同族会社です。
通例通り、事例企業は技術力は高く、特に出資しても良いという強い結びつきの取引企業を持っています。
そんな中で、老朽化した設備の更新のために出資を受け入れることによる、経営権の移動に対する問題を検討させようとしているようです。
第1問はお決まりの経営分析です。
今回は同業者との比較のため、悪いところを判断しやすかったと思います。定番の収益性・安全性・効率性で検討してみれば大きく外れないと思います。
ただし、問題点だけを出させていますので、第2問以下と関連性がある問題点、つまり、それぞれの改善策が出されている必要があると考えられます。
最初に決めつけず、第2問以下を検討してから、経営指標を確定するという手順が必要だったと思います。
既存設備で継続する場合からスタートしていますので、このままではキャッシュフローの現在価値がマイナスとなり、新設備の導入が必要であるという流れですね。
ところが設備投資のため、過半数を超える出資を受け入れると、経営権が移行してしまう恐れがあり、人材の流出が考えられます。
経営権を移行させないためには、議決権を制限した株式というのがまず思いつく回答かもしれませんが、他に考えられることはあるでしょうか。
負債と自己資本(出資)のバランスはどうでしょう。
問題は、第1問で取り上げた経営指標の問題点が後の問題でどう検討されるか、という点にあります。
この設問間のストーリーを鳥瞰できたかどうか、が岐路であると私は考えています。