居酒屋で経営知識
(96): 独占企業
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい。ジンさん、お帰りなさい 」
「大将。いや、ご無沙汰してしまいました」
「ジンさんが半月も顔を出さないなんて、今までないことでしたから、みんな心配していましたよ。インドへ行ってたんですよね」
「そうなんですよ。市場調査をしている現地事務所の手伝いに行ったんですが、やっているうちに大掛かりな調査になってしまって、帰るに帰れなくなってしまったんです」
「鳶野さんと由美が話して言いましたから、大体のところはわかりましたけど、食べ物は大丈夫だったんですか?」
「カレーとチャパティというパンの食事は結構美味しかったですよ。選択肢はあまりなかったですがね。でも、日本に帰ってくるとやっぱり違うなあって感じますよ」
「ジンさん、はい、生ビールです。お疲れ様でした」
「亜海ちゃん、ありがとう。じゃあ、皆さん、ご無沙汰でした」
常連の何人かが、杯を上げてくれた。
「ジンさん。インドの市場調査って言ってましたけど、先日、由美先輩と鳶野さんがシェアの上限の話をしてたんです。ある程度までシェアを伸ばしたら、あえて、他の競争相手に譲るなんてことはあるんですか?」
「え?『現代の経営』の話だった?たぶん、
『市場地位をそれ以上に大きくすることは賢明でないという限度が
ある。リーダー的な地位は企業を眠りに誘う』(P89)
のところだね。」
「そうだったわ。
『市場で圧倒的な力をもつことは、組織の内部においてイノベーショ
ンに抵抗する力を生み出し、変化への適応を危険なほどに困難にす
る』(P89)
のあたりね」
「なるほどね。独占的な規模になってくると、外からの規制が入ってくるというのはあるよね。ただ、M&Aなどで競合他社を吸収するというような形ではなく、自ら巨大化・独占化していったとすれば、途中で自ら抑えていくというのは難しいだろうね。でも、本当に競争状態がなくなっていったとすると、その市場は衰退の時期にあるかもしれないと思った方がいいと思うね」
「そうよね。民間で一社独占状態をずっと保っている企業ってあまり聞かないから」
「それが、独占的な地位を持った企業が、変化に対応できなくなった結果かもしれないね。どんな限定的な市場でも、あまりにニッチな市場で、競争できないようなところでなければ、変化が起こり、かつ、他社が参入してくるのが通常だからね」
「じゃあ、自社が独占的になりつつある企業はどうすればいいの?」
「まずは、他の機会を探求して、将来の市場への投資をすることだね。独占企業がその独占市場でビジネスを行うことは、居心地がよく、かつ楽に先が読めるからどうしても本気で将来への投資に力を入れられなくなってしまうんだ。それが、眠りに誘うという言い回しだろうね」
「やっぱり、企業って楽じゃないってことなのね」
「そう考えてしまっていいだろうね。楽が続いたら、おかしいぞと考えろということかな」
「さあさあ、ジンさん、久しぶりに海鮮の鍋にでもしましょうか?」
「それはぜひお願いします。キクマサの樽酒もよろしく」
「はいよ。亜海。鍋の準備とキクマサ」
「はーい」
(完:一応)
《1Point》
ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
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ちょっと、ペースがずれてしまい、前回の見直しで時間切れとなってしまいました。
企業が眠りに誘われるような独占的な力を持つことは、確かに、目標を確実に達成した結果だという考え方もあります。
短期的にはあり得るかもしれませんね。しかし、それが長期に亘るというのは、どこかに異常を抱えている可能性が高いです。
この辺りは、また別の機会に。
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