平成20年度2次試験

事例3

【C社の概要】
 C社は、自動車、電機、日用品など幅広い分野のプラスチック製品生産に使われる金型を製作している。たとえば、自動車分野では内装用金型、電機では携帯電話の外装用金型、掃除機等の家電製品用金型、日用品では特殊仕様の容器用金型などである。C社の特徴は、こうした幅広い産業分野に及ぶだけでなく、小型のプラスチック製品用金型から、成形する製品の長さが1メートルほどの中型までの金型製作を得意としていること、難易度の高い金型製作ができること、などがあげられる。また、これまでの豊富なノウハウを駆便し、生産性の高い金型製作を得意としているため、取引先に対して、小型のプラスチック製晶であるならば-型でとれる個数を最大限に増やす(複数取り)提案や、プラスチック製品製造におけるコスト低減に結びつく提案などを行うことができる。
 項在、従業員は102人、売上高は42億円である。売上高は、ここ数年、年率10%ほど増加するなど好調であったが、平成19年頃からいくらかかげりが見え始めている。その理由として、自動車分野ではプラスチック部品の標準化や共通化の流れが加速してきていること、新車開発の動きが鈍くなりつつあることがあげられる。また、電機分野では数多く手がけてきた携帯電話の外装用の金型製作が減少してきていることもその理由である。
 とはいえ、小規模企業が大半を占める金型業界にあって、C社は生産規模と技術水準の高さにおいてトップ集団を構成する1社であり、工場は国内のみであるが、グローバル展開を進める取引先の海外工場における金型調達や修理に応えることのできる企業と評価されている。
 
【取引先からの大型金型の生産要請】
 金型業として一定の力を備えているC社ではあるが、今後の発展については楽観視しているわけではない。それは、単に受注拡大にかげりが見え始めているという理由だけでなく、海外進出企業の金型の現地調達の進展や、国内生産の低迷による金型需要の縮小というわが国の金型業界を取り巻く経営環境の厳しさを受け止めてのことである。反面、C社を含む有力企業には金型発注が集中する傾向にある。
 そうした時代の変化の中で、C社は既存取引先から新たな金型製作を求められている。この要請とは、1メートルを超える大型製品用(たとえば、乗用車のバンパーなど)の金型製作である。C社では、この受注が一時的なものか、あるいは長期にわたって継続するかは定かではなく、その取り扱いに苦慮している。当面の要請にとどまるのであれば、多少生産性が悪くとも既存の機械設備で対応したり、大型の機械加工を得意とする企業に発注するという対応もあるが、長期にわたって受注の継続が期待できるのであれば生産効率面からも大型の機械加工に適した機械設備を導入することになる。
 
【短納期化と社内体制の整備】
 金型業界は短納期化の課題に直面している。業界では、受注から納品までが1週間とか10日といった短期間生産を標梼する企業が相次いで出てきている。C 社の場合、難易度の高い金型製作が多いこともあり、納期は長いもので2カ月、短いもので2週間となっているが、決して今日の短納期化の傾向から無線ではない。
 ところで、金型製作の概略的な流れは、CADを駆使する「金型設計」に始まり、完成品としての金型を構成する部品の製作工程である「金型部品加工」を経て、加工した部品の組立、調整、みがきなどを行う「仕上げ加工」となる。
 さて、納期の短縮化を図るには、「金型設計」が計画通り進捗することが何よりも重要であるとC社では考えている。この点、取引先からの設計変更、仕様変更による「金型設計」の日程変更、納期遅れはC社の責任ではないものの、他の金型設計に混乱を引き起こしているという意味で軽視できる問題ではない。C社では、こうした各種変更等による混乱を、CADによる金型設計要員は20人と決して少なくはないが、その設計要員の増強によってカバーすることを検討している。
 「金型部品加工」については、社内では作業指示票に基づき進捗状況が時間単位で管理されている。一方、多くを依存している外注企業に対しては、金型全体の図面ではなく、発注される金型部品に限定した図面と加工データが渡されるが、納入日の設定にとどまり、生産の進捗状況の把握は行われていない。しかし、こうした管理も、外部であるということから日程的に多少の余裕を持たせているため、これまでは最終工程の「仕上げ加工」の生産予定に影響するケースはほとんどなかったまた、C社は、短納期対応の課題の1つに、「仕上げ加工」における要員不足をあげている。現状では20人(このうち、50歳を超えるベテランが11人)の「仕上げ工」を、今後30人近くまで増やしていきたいと考えている。この要員不足を解消するために、新卒者の採用にこだわらず、中途採用を推進しているが、技能を前提としたものづくり現場である「仕上げ加工」については、要員増が即戦力増につながらないというのが一般的な認識である。
 
第1間(配点20点)
 C社の置かれている経営環境の中で、有効に活用できる「経営資源」を(a)欄に20字以内で1つあげ、それを生かした経営戦略を(b)欄に具体的に80 字以内で述べよ。
 
第2間(配点30点)
 これまで手がけてきた小型から中型の金型に加えて、取引先から大型金型の製作をC社は求められている。
 
(設問1)
 取引先からの生産要請に応えることは、C社にとってどのような機会としてとらえるべきかを、外部環境の変化という視点から100字以内で述べよ。
 
(設問2)
 大型金型の生産要請に応えるために検討すべき生産面の課題を100字以内で述べよ。

第3間(配点25点)
 外注企業に「金型部品加工」の多くを依存しているC社が、短納期化を図るには、外注企業との間で、どのようなデータを共有すればいいかを、具体的なデータをあげるとともに、そのデータの共有化が「短納期化」だけでなく、生産面でどのような効果を持つかについて140字以内で述べよ。
 
第4間(配点25点)
 C社では、「仕上げ工」の増員を考えている。一人前になるには何年もかかるといわれている「仕上げ工」を育成するにはどのような方法があるかを述べるとともに、「仕上げ工」の増員はグローバル化時代のC社の経営戦略にどのような可能性を持つかについて140字以内で述べよ。

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