居酒屋で経営知識
(82):経営戦略の基本・競争戦略論(2)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
時間が経ってくると、そろそろ忘年会を口実にした連中が入ってきた。ちょっと、亜海ちゃんも忙しくなってしまった。
「大将、いよいよ忘年会のシーズン突入ですね」
「今年はどうなんですかね。同業者に言わせると選挙があると客が減るって言うんで、今回の衆院解散総選挙は逆風だって言ってますよ」
「ええ?どういう関係なんですか?」
「私には良くわかりませんね。まあ、うちの客で衆議院議員の立候補に関係ある人はいませんけどね」
「いろんな団体が関係する立候補者の応援活動をするということなんですかね??」
「はあー。やっと落ち着いたわ」
「亜海ちゃん、お疲れ。一気に入ってくると大変だね」
「そうなのよね。お客さんが来てくれるのに不満言ってたらバチがあたりそうだけど。ところで、今がチャンスなんだけど、ポーターの3つの戦略の話してもらえるかなあ」
「ばたばたしている最中に大丈夫?」
「ポイントだけ教えてもらえれば、復習しまーす」
「了解、了解。それじゃ、さらっといってみようか。ポーターは、大きく3つの戦略を提唱しているんだ。これは、自社の置かれた競争環境を把握した上で、競争優位を獲得する戦略だと言ってるね」
「競争で優位になるための戦略ということね。つまり、個別事業の戦略ってことね」
「そういうことだね。その3つの戦略とは、
(1)コストリーダーシップ戦略
(2)差別化戦略
(3)集中戦略(市場細分化戦略)
になる。
(1)コストリーダーシップ戦略というのは、文字通り、コスト優位な、つまり、競合より安い価格でも戦えるコストを達成できる企業が採用できる戦略と言われている。一般的な価格競争というイメージではなく、あくまでも、競合他社よりも低コストで提供できるから安く出来るというところが戦略要素だね」
「そうね。ただ、安いだけだとみんな共倒れになるんじゃないかって思うわ」
「そう。だから、この戦略を取れるのは、業界1位のリーダーと言われている。『乾いた雑巾をさらに絞る』などといわれるコストダウンができるのも、それだけの規模がないと難しいからだね。
(2)差別化戦略というのは、コストリーダーシップに対して、価格だけではないところで、競合他社と異なった機能などをメインに優位性を確保しようというものだ。
これは、古い例で、知らない人もいるかもしれないけれど、30年以上前のビール市場というのは、キリンの独壇場だったんだ。そこに大きな波を起こしたのが、アサヒのスーパードライだった。それまでのビールはキリンのどちらかという苦味のあるビールが主流だし、そういうものだと思っていた。そこに、すっきりした辛口という差別化を目指したマーケティングによって、いつしかトップの座を奪うまでになったんだ」
「ええ?知らなかった。でも、サッポロはどうだったの?」
「確か、キリン→サッポロ→サントリーかアサヒ、という順番だった気がするな」
「でも、サントリーもがんばっているわよね」
「残念ながら、サッポロの一人負け状態といわれても仕方がない状況だね。
(3)集中戦略(市場細分化戦略)に行くね。これは、市場全体を対象にすることを止めて、特定の顧客層とか、地域などニッチな市場に集中する戦略なんだ。
中小企業の取れる戦略としては、これしかないとも言われている。つまり、(2)差別化戦略は、チャレンジャー企業の戦略で、この集中戦略はそれ以外の新規参入企業や中小企業の戦略だろうね」
「中小企業にとってこれしかないといわれると、心配になるけど、結局そういうものなのね」
「まあ、集中戦略といっても、その中で、差別化を図るか、コストで勝負するかという点でも違ってくるけど、それこそ、自分たちの狙うニッチ市場のニーズをどうとらえるかにかかっているだろうね」
「亜海。話中、すまないが、鍋の準備を頼むよ」
「はーい。ジンさん、大体つかんだと思うわ。週末に、レポート書いてみるから見てみてね」
「了解」
「ジンさん、はい、これは亜海の講師料です」
「え?ふぐの白子ですか?」
「ええ。いいのが入ったんでどうぞ」
「ありがとうございます。大将のニッチ戦略は心に刺さりますよ」
「そりゃ、中小企業にってはその戦略しかないですから」
「仕事しながら聞いてるんだからすごいなあ。参りました」
(この内容は次回へ続く)
《1Point》
ポーターの競争戦略の基本ファイブフォース分析については念のため残しました。復習してください。
(1)新規参入の脅威
(2)既存競争業者間の敵対関係
(3)代替品の脅威
(4)買い手の交渉力
(5)売り手の交渉力
そして、厳しい競争環境の中で競争優位を獲得する戦略は以下のとおりでしたね。
(1)コストリーダーシップ戦略
(2)差別化戦略
(3)集中戦略(市場細分化戦略)
まずは、メジャー理論なので覚えておいて損はないと思います。
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