居酒屋で経営知識
(83):経営戦略の基本・競争地位別戦略
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」
「とうとう寒さが身にしみるようになってきました」
「毎回、早い早いって言うのが口癖になってしまいましたが、もう残すところ3週間ですからね」
「え?そうかあ。確かに。早いなあ。亜海ちゃんも早いけど」
「はーい。お待ちどおさま。まずは、エビスの生ビールですよね」
「このペースで正月に突入しそうだ」
「ええ?どういうことですかあ?」
「いやいや。若い亜海ちゃんにはそうでもないからいいよ」
筑前煮のお通しをパクつきながら年の瀬を考えていた。
「いらっしゃい。おや、由美っぺ。寒くなるから早く閉めて入ってきな」
「由美ちゃん、久しぶりだね」
「あー。やんなっちゃった」
「珍しい。いきなりため息だね。まあ、まずは飲もうよ」
「ええ。ごめんなさい。あ、亜海ちゃんありがとう。ジンさん、お久しぶりです」
由美ちゃんの飲みっぷりもだんだん様になってきた。
「で、どうしたの」
「まあ、仕事の話なんだけど。この間話した新規事業が順調に滑りだしたんだけど、やっと実績が上がってきたと思ったら、私たちのアイディアを真似したとしか思えない競合が出てきてしまったの。ここまで作り上げるのに苦労したからショックなの」
「そうだったんだ。確か、ニッチな事業だって言ってたよね」
「そうなの。既存の競合はいないのは確かだったし、ビジネスモデルも独自のものだったので、こんなに早く競合が出てくるとは思わなかったわ」
「どんな事業でも競合が出てくるのは宿命だから仕方がないよ。でも、先行者利益もあるし、何と言ってもニッチとはいえ、現在の市場はほぼ抑えているわけだよね」
「もちろんよ。ただ、今後展開するつもりだった地域へ先に出られると戦略変更が必要になると思っているの」
「由美ちゃん。コトラーの競争地位別戦略を覚えている?」
「もちろんよ。経営資源の質と量の関係で、自社の競争上の地位がどこにあるかを明確にすることと、それぞれの地位に応じた戦略をとっていくということね」
「そうそう。せっかくだから、復習しようか。亜海ちゃんも目を輝かせているし」
「あ、バレたわね。先輩方よろしくお願いしまーす」
「亜海ちゃんも最近経営に興味があるって聞いてたわ。わかった。
えっと、そうね。ある事業に対して、投入する経営資源、ヒト・モノ・カネって言われる経営資源の量の大小、また、その経営資源の独自性または質の高低で地位を明確化する考え方からきているのね。
量も質も大きい企業は、リーダー。
量はそれなりに大きいけど、質が少し低い企業は、チャレンジャー。
量は小さいけど、質が高い企業がニッチャー。
量が小、質も低い企業は、フォロワー。
この4つに分類して、自社の地位がどれに当てはまるかを考えるということね」
「ということは、由美さんの言っていた事業においては、由美さんの会社はニッチャーということなのね」
「あ、そういうこと。亜海ちゃん、よくわかっているじゃない。すごい」
「へへへ。最近、ジンさんに教えてもらっているの」
「亜海ちゃんには、タジタジだよ。ところで、由美ちゃん。ニッチャーであると認識してみると、どういう対応が考えられたかな」
「ニッチャーは、そうね。その市場ではリーダーであるっていう考え方だったわ。あ。そうか。リーダーの戦略は、差別化で追ってくるチャレンジャー企業に対しては、その強みを模倣したり・追随して差別化の効果をなくすというのがあったわ。でも、現在の競合企業は、特に差別化で脅威になっているわけじゃなく、どちらかというと私たちの真似をしておこぼれを狙うフォロワーかもしれないわ」
「そうであれば、それほど怖くはないね。ただ、よく見ておかないと差別化できる経営資源をもっているといきなりチャレンジャー企業に豹変するかもしれないよ」
「そうだったわ。そうか。明日、メンバーに話して、競合企業の経営資源や参入の状況を調べてみることにするわ。いきなり、気が楽になったわ。ジンさん、ありがとうございます。改めて乾杯しましょ」
「OK!亜海ちゃん、おかわりよろしく」
「はーい」
(次回へ続く)
《1Point》
コトラーの競争地位別戦略
(1)リーダー:経営資源力(量)=大、経営資源の独自性(質)=高
(2)チャレンジャー:(量)=大、(質)=低
(3)ニッチャー:(量)=小、(質)=高
(4)フォロワー:(量)=小、(質)=低
(1)リーダーの戦略:全方位型で、チャレンジャーが差別化で挑んできた場合には、その差別化の機能や技術を模倣したり、似た機能・技術を投入し差別化の効果をなくすのが常套手段と言われています。
(2)チャレンジャーの戦略:チャレンジャーはリーダーの差別化潰しに負けない、また、手が出せないような差別化で挑むことが第一です。目標は、リーダー企業になることになりますね。
(3)ニッチャーの戦略:これは、ポーターの競争戦略であった、集中戦略ということになるかと思います。つまり、ある特定の市場では、リーダーの戦略をとることも必要になります。
(4)フォロワーの戦略:フォロワーはある程度の規模の市場では、リーダーやチャレンジャーと真っ向対決をしなくても、ある程度の利益を稼げる場合は、じっと耐えて経営資源の量を増やしチャレンジャーを目指す戦略をとることになります。
また、市場を細分化し、他者が参入しないセグメントを見つけてニッチャーへの道をすすむことも戦略としてあり得ます。
ポーターの競争戦略とかぶるところがあると言われていますので、再掲しておきます。
(1)コストリーダーシップ戦略
(2)差別化戦略
(3)集中戦略(市場細分化戦略)
(82)経営戦略の基本:競争戦略論(2)←
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