居酒屋で経営知識
93.競争優位
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。 新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士
昼間はまだまだ暑さが残っているが、夕方にもなるとさすがに涼しいと感じるようになってきた。
今日も、顧客回りに専念し、スマホからの活動報告を入力すると同時に、明日の顧客提出用資料について、アシスタントへ連絡
を入れた。
顧客ニーズに活動を集中し、新たな変化を掴むことが会社を支え、ゴーイングコンサーンを可能にするのだ、と社長が表明してから変わった。
「ジンさん。こんなところでボーッとしてどうしたの?」
突然、由美ちゃんに声をかけられ、我に返った。
「あ、由美ちゃん。イヤー、暑い夏が続いたせいかな」
「遠くから見ても、考え事をしているのはわかったけどずーっとそのままだから心配になっちゃったわ。今日も、みやびに行くんでしょ。私も行きたいけど、そうもいかないわね。もしよかったら、30分だけ喫茶店で時間貰えるかしら」
「うんいいよ。まだ、飲み出すには気が引ける時間だからね。それにしても、こうやって、会社に帰らなくてもネットワークで仕事を進められるっていうのはいいよね」
「ジンさんの会社が進んでいるのよ。スケジュールと日報が連携していて、簡単に記録や報告ができるって言ってたものね」
診断士の2次試験が控えている由美ちゃんは、まさに断酒の日々になっているのだ。
商店街の入り口近くの昔からの純喫茶!に入った。磨き上げられた木の手すりが重々しさすら感じさせる。最近では少なくなった喫茶店だ。
「由美ちゃん。勉強はどう?」
「お盆休み中に模擬試験を受けて、それ以外は過去問を解き続けているわ。でも、どうしても時間管理がうまくいかないわね。慎重にメモしていると書く時間が無くなったり、書く方に重心を移すと、ポイントの抜けが出たり。やっぱり、難しいわ」
「どうしてもぶつかる壁だね。試験である以上、時間の制約は仕方が無いと割り切って、とにかく自分のやり方と時間配分を身につけることが一番だよ。その上で、事例の企業を本気で良くしようと考えることと思いを大切にすることが重要だね」
「そうね。頭でわかっていても、時々疲れてしまってグチを言いたくなるの。その企業を良くしようという気持ちを忘れてしまうわ。うーん。その上でなんだけど、ジンさんに口酸っぱく言われた『目指すべきドメインを明確に』してというのは必ずやってるんだけど、どうしても次からは設問に振り回されてしまうの」
「設問に振り回されているというのは、まずいかな。たぶん、設問はアドバイスをくれているはずだよ。そうだなあ。ドメインが明確になったら、多くの事例の場合、『競争優位を確立する』という視点も整理して設問を見るというのも一つかもしれないな」
「競争優位の確立?ポーターの競争優位の戦略かしら?」
「大きく捉えればそうだけど、中小企業の戦略として求められている競争優位というのは、たぶん、『強み』を『機会』に適合させることによる差別化戦略になるんだ」
「そうね。コストリーダーシップじゃあないわね。そうか。それで、事例文を読むときからSWOT分析をしなさいってことなのね」
「そうだよ。時々、SWOT分析そのものを答えさせるくらい基本中の基本だよ。その時に、ドメインや経営者の思いを念頭に、強みを機会にぶつけることを戦略の中心に据えてみたらどうなるかを考えるくらいの余裕は必要かもしれない」
「ドメインを決めたら、SWOT分析から競争優位の形を見つけ出す流れね」
「ここまでがベースとして、後は設問文のコントロールに素直に従って答えるのがポイントだと思う」
「わかったわ。やっぱり、ジンさんと会えて良かった。今夜もすっきりしないまま設問をこなすだけになりそうで不安だったの」
蝶ネクタイのおじいさんがネルドリップで入れたブラジルの濃い香りを楽しみながら、この調子なら由美ちゃんは大丈夫だろうと感じられた。
「今の話を雄二に話して、すぐ反応できるかどうかが心配だな」
「でも、鳶野さんはなんだかんだ言ってもジンさんの指導で経営者になってるんだから、時間だけの問題じゃないのかしら」
「そうだな。あいつは受験指導校へ行っているから、あまり細かいことを心配しない方がいいかもしれないな」
「でも、今の話は私から伝えようかな。鳶野さんに説明できたら完璧になりそうだし」
「ああ、それはいい。教えることが一番の勉強だって言うからね」
「ありがとう。そろそろ自宅へ戻って勉強体制にしなくちゃ。ジンさん、おじさんによろしく言っといてください」
由美ちゃんと別れ、みやびの縄のれんに向かうことにした。
(続く)
《1Point》
・「競争優位を確立するため」に行うべきこと。
→「強み」を「機会」に適合させる=適合できていない場合は「強化」するポイントとして指摘、対策を見つける。
これも基本中の基本です。
もう一つ、必ず最初に行うSWOT分析ですが、たくさん出てくることが多いと思います。その際は、3Cの考え方で内部環境・外部環境を整理してください。
*3Cとは、顧客(Customer)、自社(Company)、競合(Competitor)の切り口となり、それぞれの視点で強み・弱み・機会・脅威を分類して設問に臨むと分かりやすいことが多いです。
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