居酒屋で経営知識

(81):経営戦略の基本・競争戦略論

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

 商店街の入り口に入る頃から、クリスマスや年末商戦ののぼり旗やポスターが所狭しと埋め尽くしているようだ。もう年の瀬なんだなあ。

「おーい」

 誰かに呼ばれたような気がすると手を振りながら大きな体を左右にゆすりながら大森さんが歩いてきた。

「お久しぶりです、大森さん」

「いやー、ほんとだねえ。最近、なかなか黒沢の大将のところに顔を出せなくてねえ」

「年の瀬ですから、商店街の会長としては忙しいんでしょうね」

「まあ、貧乏暇なしみたいなもんだよ。大将にはよろしく言っておいてよ。歳末抽選会と年始のイベントが決まれば、また常連に戻れるからって」

「了解です。抽選会楽しみにしてますよ」

「おう。今年は張り込んだからね。商店街で買い物してくれよ」

 寂れつつあった商店街だったが、大森会長が若い後継者を巻き込んで随分活気が戻ってきた。

「いらっしゃい。ジンさん、毎度!」

「大将。今、大森さんに会いましたよ」

「最近、忙しいみたいだね」

「ええ。年末年始のイベントが決まれば、また来ますって」

「ジンさーん。生ビールでいいですか?」

「亜海ちゃん、よろしく」

「はーい」

「はい、どうぞ」

「相変わらず早いね。サンキュ」

「大森さんって、そこの商店街を復活させたっていうすごい会長さんだったんですね。近所のお酒好きのおじさんかと思ってたのに」

「あはは。ほんとだね。でも、その近所のおじさんが、大手の新規参入の脅威に対抗して、今では集中戦略が功を奏したというところかな」

「??それって経営戦略の話っぽいですけど・・・」

 なんと、亜美ちゃんがニヤッとしたような気がする(^ ^)。

「そ、そうだね。最近、安易に経営用語を使うと突っ込まれそう」

「ジンさん、すいませんねえ。前には由美っぺ、今度は亜海ですか」

「大将。もちろん自分で蒔いた種ですし、こうやって、みんなが経営マネジメントに興味を持ってもらえるのは本意ですから」

「じゃあ、ジンさーん。新規参入とか集中戦略について、お客さんが来る前にお願いしまーす」

「じゃあ、一口飲んで、と。乾杯。うまい・・・で、そうか、亜美ちゃんはポーターっていう人を知ってる?」

「ええ。名前だけは。確か・・・マイケル・ポーターっていうアメリカの学者さんでしょ」

「お、さすが。そのポーター教授のもっとも有名な著作である『競争の戦略』の中で、5つの競争要因と3つの戦略を示しているんだけど、これは経営戦略の有名な理論の一つとなっている」

「競争の戦略なんてすごそうね」

「まず、5つの競争要因について分析し、市場の状況や自社の状況を把握することから始めるんだ」

「えっと、競争要因が5つなのね」

 亜美ちゃんは最近常に持ち歩いているノートを開いて学びの体制に入っている。

「5Forceと言って、

(1)新規参入の脅威
(2)既存競争業者間の敵対関係
(3)代替品の脅威
(4)買い手の交渉力
(5)売り手の交渉力

つまり、これらの5つが厳しい競争環境をつくる要因になるということなんだ」

「難しいなあ。新規参入の脅威・・・うーん。なんとなくわかりそうだけど。外から新しい競争相手がやってくるっていうことかしら」

「そうだね。ざっと説明するね。

(1)新規参入の脅威、というと亜海ちゃんが言ったように、これまで競争相手として戦ってこなかった他者が新規参入する可能性がどの程度高いか?という視点での分析になるんだ。

具体的には、大森さんの商店街にとって、実際、同じ商圏に大型ショッピングセンターができたことで、大変な思いをしたんだけど、こういうことがどの程度起こりやすいかということだね。

逆に、この脅威に対し、どの程度参入障壁が高いかという点も分析のポイントになるんだ。どういうことかというと、他者が儲かる商売だと思っても、参入しようとすると非常に大きな投資が必要だとか、ノウハウが簡単には真似できないというような障壁があると新規参入の脅威は少ないとみることができる。

(2)既存競争業者間の敵対関係
これは、現在の競争環境をみるものだね。たとえば、同規模の同業他社が多く、その市場の成長が鈍化していると競争環境が厳しくなると予想できるよね。

(3)代替品の脅威
代替品というのは、既存の製品などに置き換わってしまうものを言うんだ。例えば、しばらく前、テレビゲームがブームだった頃はゲームをするためには、任天堂やソニーなどのゲーム専用の機器を購入しなければいけなかったから、テレビゲーム市場というのは、機器メーカー同士の戦いだったと言えるね。ところが、気づいてみると、パソコンやスマホが主流になってしまっているよね。

(4)買い手の交渉力
買い手というのは、メーカーにとっては問屋とか商店であったり、まさに消費者だったりと当然、買い手は安く買おうとするので、競争環境が厳しくなる要因になるんだ。

(5)売り手の交渉力
売り手というのは、逆に、自社の製品に必要な原材料の供給者とか、上流の企業ということになる。例えば、コアとなる部品の供給業者が一社しかなかったら、その企業の交渉力は高くなり、自社はリスクを抱えることになる。

というところかな」

「ひゃー、大変ねえ。既存の業者同士の競争だけじゃなく、新規参入が来ないように、代替製品に取って代わられないようにって頑張らなければいけないのね。その上、買い手とか売り手にも常に気を使わなければいけないってことなのね」

「そういうことだね。昔ながらの商売だからって、いつまでも同じことをしていると、必ずどれかの脅威によって困難に直面することになってしまうということを言っているんだろうね」

(この内容は次回へ続く)


《1Point》

 ポーターの競争戦略の基本ファイブフォース分析についてです。

(1)新規参入の脅威
(2)既存競争業者間の敵対関係
(3)代替品の脅威
(4)買い手の交渉力
(5)売り手の交渉力

 これらの分析によって、現状の業界を分析することができます。もちろん、分析するだけでは戦略になりませんので、これらの分析を基に3つの競争戦略を示しています。

 その内容は次回とします。