居酒屋で経営知識
107.仮説、SWOT分析(1)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている 新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士
「はい、それではさっそく続けていきます。前回の宿題としてビジネスコンセプトを整理してもらっていると思いますが、これがそうですね」
研修がスタートし、事前に課題としていたビジネスコンセプトが表示された。
『自分らしくあるための、自分らしい終着点』
「なるほど。終着点ですか。インパクトありますね。ちょっと、簡単に説明していただけますか?」
今回のまとめのリーダーが立ち上がった。
「はい。今回のコンセプトをまとめる上で重要だったのは、自分の死というものを正面から捉えるお手伝いをすると言う点でした。50代独身というペルソナを考えていく中で、自分のこれまでの人生を振り返る自分史を作成するというものを一つ考えています。同時に、生活のセキュリティとライフプランのシミュレーションによって現在~将来に向けた人生設計やもしもの場合の死亡通知や葬儀についても提供できるのではと考えました」
「随分具体的になっているようですね。引退後のペルソナもありましたよね」
「これは、老人ホームなどを提供している法人との契約がポイントだと思っています。老人ホームや保険会社、セキュリティ会社にとっては『死』を前面に出すのはタブーになっていると思うんです。そこを自分らしい終着点ということで前向きに捉えられたら、過去~将来までの自分らしさを明確にするお手伝いが出来そうだと思っています」
「すばらしいです。皆さんはコンセプトをまとめる過程で、既に多くの仮説を立てながら、ビジネスモデルの骨子を作りつつある段階です。ここからは状況に応じていろいろなオプションが考えられます。一つには、ビジネスモデル全体の仮説を作って、その仮説を検証するという方法があります。また、今回のようにある程度のまとまりで一旦おいておいて、環境分析から再度ビジネスモデルを検証することも考えられますね」
「北野先生。私たちの場合、ある程度、こんなものというたぶんビジネスモデルに近い形がすでにあるんです。ただ、それが本当に私たちに行えるものなのか、また、行うべきものなのかが不安なんです。その辺はいかがでしょうか」
「それでは、環境分析をすることで、その不安を検討してみましょうか。皆さんは、SWOT分析というものを知っていますか?」
由美ちゃんをはじめ半分以上のメンバーが手を挙げた。
「さすがですね。簡単に説明しておきますと社会や市場などの外部の環境を分析して、それが自社の行う事業にとって機会となるか脅威となるかという分類をしながら書き出します。また、自社内部の強み・弱みも書き出して、4つのマトリクスにして考えるものです。Sは強みStrengths、Wは弱みWeaknesses、Oが機会Opportunities、Tが脅威Threatsの頭文字を並べているので、それぞれの英単語を覚えておくと忘れずに済みます」
研修メンバーはすでに経験済みのようで、難しそうな顔をしたものはいなかったので注意点だけ言っておけば大丈夫そうだと判断した。
「まずは、内部環境分析をしてみましょう。皆さんはすでに経験者が多いようですので、何かこれまでの経験での質問はありますか?」
すぐに手が上がった。
「確かに、ブレーンストーミングで出していくといろいろ出てくるんですが、その時のメンバーによって全体を網羅しているのかとか、偏りが出てしまうんじゃないかと思うんですが。重要な抜けが出ないような方法はないでしょうか」
「良い質問ですねえ(^.^)意見を出しやすくするためにもいくつかの視点で考えた方がいいです。よく使われるのは、ヒト・モノ・カネという視点ですが、すでにしっかりとした企業での検討ですので、将来に向けてバランススコアカードの視点を使ってみてはいかがでしょうか」
すかさず由美ちゃんが説明した。
「バランススコアカードの視点というのは4つでしたね。財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点」
「由美さん、バッチリです」
バランススコアカードの視点について、簡単に説明し、まずは、内部環境分析を行うこととした。
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「結構難しかったわ。実際に事業を始めようと思うから、試験問題なんかとは全く違ったわ」
研修を終えて、由美ちゃんとみやびに来ている。
「単純に強み・弱みだけじゃなく、バランススコアカードと言ったから、その視点自体の考え方で時間を取ったところもあったね」
「ええ。でも、切り口って言うか、いくつかに分けて考えることで意見も出やすかったわ」
「視点をそろえることで大きな漏れがなくなるしね」
「お二人さん。そろそろ鍋が出来ましたよ」
「うわー。今日は水炊きですね。まずはダシを飲ませてもらって良いですか」
「もちろんですよ。さあ、どうぞ」
「うまいなあ」
「ホントねえ。あったまるし、おいしいし。もちろん、日本酒ね」
(この回続く)
《1Point》
・SWOT分析
「S」は自社の強み(Strength)
「W」は自社の弱み(Weakness)
「O」は外部環境の機会(Opportunity)
「T」は外部環境の脅威(Threat)
以前テーマとして書いていますので参考にどうぞ
→http://bit.ly/SW9c4m
・バランススコアカード
1)財務の視点:簡単に言うと株主の視点。財務分析の領域になる。
2)顧客の視点:数字だけ見ていてもいけない。顧客の視点から評価する。
3)業務プロセスの視点:財務の視点や顧客の視点から見た課題を解決するために、どのような業務プロセスを取るべきかという視点で業務を見ていく。
4)学習と成長の視点:目標を達成するためには、従業員自体の能力を高める必要がある。能力開発などを評価する。
これもテーマとして以前に出ています。
→http://bit.ly/TNXkTc
(106)ビジネスモデル・コンセプト←
→(108)SWOT分析(2)