居酒屋で経営知識

113.ペルソナ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

「いらっしゃい。毎度」

 大将が声をかけ、亜海ちゃんが冷たいおしぼりをもって飛んでくる。最近のみやびは、新アルバイトのはずだった亜海ちゃんなしでは考えられなくなってきた。
 
「ありがとう。亜海ちゃんもすっかり看板娘になってきたね」

「えへへ。ありがとうございマース。ジンさんに言っていただくと、亜海、とーってもうれしいでーす」

「その言葉がうちに馴染むのか心配でしたけど、がんばってくれてますからありがたいです」

「マスターにまで誉められてうれしいでーす」

 若干反応に困る感じはするが。

「生一丁、お待ち」

「・・・ふう。うまい!」

 オーソドックスに枝豆と谷中ショウガを頼んで、おかわり。

「ジン、その谷中うまそうだなあ」

と言うまもなく口に運んでいる。

「こら、雄二。いきなりは無いだろう。まったく」

「あ、鳶野さん、いらっしゃいませー。全然気づきませんでした」

「お、亜海ちゃん、夏らしくていいねえ」

 でかい体だが、時々スッと現れるのが不思議ではある。ま、とりあえず乾杯だ。

「ジン、早速ですまんが、マーケティングで詰まっているんだ。何とかしてくれ」

「何とかってなあ。いきなり言われても、何がどう詰まってるんだ」

「ほら、前にマーケティングの基本で、顧客像の絞り込みをするのがスタートだって言ってたろ。ターゲッティングだったかな。それを、マーケティングチームでやってるんだが、どうもまとまらないんだ」

「まとまらないって言うのは、絞り込みがまとまらないってことか?」

「いや、絞り込みはして、ターゲットは明確にしているはずなんだが、そこからスタートして検討しているうちに、出てくる方向性がバラバラになってしまうんだ」

「どんなターゲットを想定しているんだ」

「ええーっと、30代の女性で都市部在住の独身者だ。これで、ニーズを検討して、シミュレーションをしてるんだ。ところが、シミュレーションで出てくる姿がまったく違ってしまうんだ」

「それは、セグメンテーションが曖昧なんだよ。そうだな。チームで検討するならペルソナをつくることがいいかもしれない」

ペルソナ?なんじゃそりゃ」

「架空の顧客像を詳細につくるんだ。これまでの市場調査があるのなら、そこから象徴的な一人の人間をつくり出すと考えるといいと思う」

「架空の顧客像?シミュレーションで出しているような条件をつけるのか?」

「うーん。たとえば、だなあ。32歳の独身女性。立教大学の文学部文学科英米文学科を卒業して、外資系の保険会社に入社した。血液型はA型で、趣味は最近ヨガ教室に通っているが、元々は文学少女だったため、身体を動かすようになったのはここ5年くらい。4年前から異業種交流会のコンパで出会ったIT系企業に勤めている同い年の恋人がいるが、結婚には二の足を踏んでいる・・・というようにとにかく具体的に作り上げるんだ」

「おいおい。お前の妄想じゃないのか。それをつくってどうするんだ」

「マーケティングチームのみんなで、そのペルソナに買ってもらうにはどうするか、買った後にどんな反応があり、どうフォローすべきなのかというようにビジネスモデルを作り上げるんだ」

「それは、つくるのは分かりやすいが。でも、そんな、特殊な一人のために作り上げていったら、他の人には興味すら持ってもらえないんじゃないのか?」

「そうかな。もちろんペルソナは、極端な人物像にしてしまったらいけない。いそうなイメージや実際の市場調査の結果から形作るわけだから、それほど嗜好の極端な人物像にはならないはずだ。それ以上に、チーム全員に共通する人物像が明確になり、最後までターゲットがぶれないからしっかりとしたビジネスモデルに繋がる効果があるんだ」

「うーん。ジンがそういうならやってみるか。確かに、ある程度のシミュレーションでターゲットの属性なんかは抽出しているからそれほど変な人物にはならんかもな」

ペルソナをつくることのメリットを整理すと、まず、検討するメンバーにとって具体的なシーンを想像しやすくなるということだ。その人物になりきって考えることができる。また、チームメンバーに限らず、関係する社内のメンバーにターゲットの顧客像として提示すれば、みんなのイメージにブレがなくなるということなんだ」

「なるほど。検討しているうちに、みんなの考えていることがずれていってしまうということが無いわけだ。それでも、一つの人物像だけでいいのか、という疑問は残るがな」

「それがそんなことはないと言われているんだ。曖昧なターゲットに幅を持たせて商品やサービスの提供・アフターフォローを検討するより、より多くに人に共感を呼ぶという評価が出ている。たぶん、何を提供するのかが明確に相手に伝わるので、安心感を持ってくれるということもあるんだろう」

《1Point》
ペルソナ(Persona)

 一般的に「架空の人物像」と言われているようです。
 
 できるだけ詳細な人物像を作り上げ、その人物が自社の商品・サービスに対し、どんな感情を抱き、どう行動するかなどをシミュレーションしながら、マーケティング上の課題を解決していきます。
 
 元来、ソフトウェアの開発手法としてつくられたもののようです。
 これが、マーケティングに応用するという形でメジャーになってきているのです。
 
 一度試してみてください。