居酒屋で経営知識

112.BPRとは?

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

「ジンさん、毎度。生ビールが冷えてますよ」

「ありがたい。仕事納めには生ビール。来た来た。店中にカンパーイ」

 時々見かける顔の客たちも応じてくれた。
 お通しの冷や奴のチリメン&塩から乗せが涼しさを演出してくれる。

「うー、うまい。暑い中、がんばった甲斐がありましたよ」

「そういううれしそうな顔を頂けるとこの仕事をやってて良かったと思います」

 そう言う大将の顔が一番輝いてますよとつぶやいた。

「やあ、ジンさんも到着済みですか。商店街で由美に会ったんでデートしに来たんだけどなあ」

 大森さんと由美ちゃんがやってきた。
 
「大森さんも由美っペもまずは、この冷たいおしぼりで休んだ方がいい。汗びっしょりじゃないですか」

 額や首筋を汗が伝っている。入ってくる客はみんな同じようだが。

「かんぱーい。サラリーマンは大変だなあ。何でまた、そんな暑苦しいカッコしなけりゃいかんのかな」

 大森さんは7分丈の作業パンツに沖縄のかりゆしという格好だ。足元はもちろんサンダル。

「最近は、クールビズが浸透したのでずいぶん楽になりましたけどね。昔は、上着とネクタイは最低限の礼儀だと教えられていましたから大変でしたよ」

「業務スタイルもずいぶん変わったんでしょうね。格好もそうだけど、パソコンが仕事に入ってくる前はどんなだったのかしら」

「由美ちゃん、突然どうしたの。今は当たり前だから、若い子が疑問持つ方が珍しいよね」

「今、担当になった会社の担当部長が口癖みたいに言うから移っちゃったかしら。昔は、パソコンも携帯も無かったけど、今よりスムーズに仕事をしていたってぼやくのね」

「なーるほどねえ。ちょっとその会社がどんなシステムで業務を行っているかわからないけど、実はそういう感想を持つ会社って多いんだよね。特に、たたき上げの今の部長クラスかな」

「そうなんだあ。あの部長が特別というわけじゃあないのね。でも、パソコンでやってることは、何にも昔と変わった訳じゃないなんていうのね。まさか、そんなことはないでしょうけど、それでも、書類を作るなんて簡単になったはずよね」

「想像だけど、その会社は業務プロセスの部分部分をパソコンに置き換えて来ただけなんじゃないかな。実は、この問題は結構大きくて、そのために何年も前からBPRという手法の推進が提唱されたりしているんだ」

「BPR?残念ながら私の記憶にないわ。財務指標みたいだけど」

「Bussiness Process Re-engineeringの略なんだ。簡単に言うと、業務本来の目的に向かって、業務プロセス全体を根本的に見直してデザインし直すという考え方を言うんだ。元々、パソコンなどが業務に入ってきた時、それまでのプロセスの部分を効率化するという形で取り入れてきたところがほとんどだよね。紙と鉛筆がワープロの画面とキーボードになったように事務機器の高度化だったんだ。ところが、今のように、機器のみならず、情報ネットワークが高度に発展してくると、継ぎ接ぎだらけの部分がネックとなって本来の業務目的以外の整合性をとったり、修正したりという補助的な作業が負担になってくる」

「そうね。その上、扱うデータ量が膨大になって、より進んだシステムを取り入れたライバルに対して大きなハンデを背負うコトになるんじゃないかな。これは、口癖部長の部下の課長が言ってたんだけど」

「それも言えるね。つまり、今のIT情報関係の技術は、従来のやり方を補完するだけのものにとどまらなくなっているってことなんだ。組織も個人のスキルも価値観すら変化しているわけだから、経営者のマネジメント自体も変化しなければいけないという考え方がBPRにはあるんだ」

「組織や個人のスキルや価値観をどうするの?」

「ITのような情報技術は、技術そのものの変化だけじゃなく、我々に要求するものも変えてしまったというんだ。たとえば、昔の組織は大きくなるに従って、専門化し、分業型にすることで高度な要求に応えていこうとした。ところが、この細かい分業化(専門化)によって、各組織の壁が出来はじめてしまったという反省があるんだ。プロセスの分断などと言うね。つまり、各組織は、自部門の成績(責任)のみに注力する傾向が高まって、たとえば、成果給のような各部門や個人の差別給与システムを取り入れたため、結果的に全体最適を犠牲にしてきたという評価もある。それに対し、情報技術を最大限に生かすと定型的な業務や重複業務は組織に縛られず、自動的に連携することが可能になる。特に重要でなくても、ライン課長や部長が目を通さないと上に上がっていかない決裁書類がほぼリアルタイムで決裁されることが可能になるというような効果が出てくるわけだ。そのために、本当に重要なことは何なのか、必要な組織体制はどうあるべきなのか、人材はどうすべきか、など企業活動全体を1から作り直すような作業が必要になる。つまり、考え方はわかるがなかなか取り組めない手法とも言えるかな」

「うわー。でも、今の社会で勝ち残るためには、昔のやり方を引きずっていること自体が問題よね。変化に乗った企業が次の勝者なんだから、大変だなんて言っていること自体、仕事を捨てていることになるわ」

「手厳しいなあ。由美ちゃんもコンサル的になってきたね」

 
《1Point》
・BPR(Bussiness Process Re-engineering)

 BPRとは、既存のビジネスプロセスを見直し、仕事のやり方を抜本的に変更することである。(「MBAマネジメント・ブック 改訂3版」P236 グロービス経営大学院 ダイヤモンド社)
 
 実際にはERPパッケージを導入する方法をとって、BPRと称しているやり方が多いようです。
 
 ただ、本来は、ITの導入でなく、最終目標に向けた最適なビジネスプロセスの再構築こそが、BPRだといえるのです。

→(113)ペルソナ