居酒屋で経営知識
106.ビジネスモデル・コンセプト
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている 新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士
「へい、いらっしゃい」
「サブ~。大将、熱燗よろしく」
「あいよ。本当に今日は冷えますねえ。今日はお一人ですか?」
「あとで、新田さんが来ることになってます」
「新田さんは久しぶりですね。商店街の方はうまくいってるんですかね」
「具体的な指導に入っているようですね。なんでも、一番やる気のある店が2号店を出す計画をしているって言ってました。今日はその相談もあるようです」
「由美っペの会社の研修を手伝ったり、新田さんの相談を受けたり、大変ですね。それを無償でやっているってのが驚きですよ」
「サラリーマンの良いところは、生活費の心配をせず、時間さえ確保できれば、好きなことに手を出せるってとこですよ。時には、有償の仕事もありますし、飲み代を肩代わりしてくれる人も出てきますからね」
「あ、そうだそうだ。大森さんがジンさんの飲み代を出すって言ってましたね。逃げられないように契約書を作る話になってましたよ」
「あれは成果報酬でしょうね。まだ、成果が出ていないので、当面は自腹でいきますよ。まあ、常連の大森さんに飲み代を出してもらってしまうと逆に来づらくなるので、別の話にしようと思ってますがね」
「それは言えるかもしれませんね。あ、いらっしゃい。今、噂していたところですよ」
「北野さん、またお待たせしてしまいました」
「新田さん。みやびで待ち合わせするのは、時間を気にしないためですからね。立ってないでこちらへどうぞ」
新田さんが寒そうに身を縮めながらやってきた。
「燗酒のシーズンですが、どうしますか?」
「私もお燗をお願いします。冷え切ってきましたよ」
菊正の熱燗で乾杯をした。
「ところで、新田さんの指導しているお店が2号店を出すんですって?」
「うーん、2号店というより、もちろん事業拡大なんですが、ビジネスモデルを整理しようとしているんです。その上で2号店なども含めて考えようという話なんです」
「へえー。ビジネスモデルの整理ですか。商店街の個店にそこまで考えさせたなんて、新田さんがすごいんでしょうね」
「とにかく前向きなんですよ。まだ若いし、夢も大きく持っていますんで、応援しようという気になっています。そこで、北野さんにお力を貸していただきたいんです。ビジネスモデルを作ったり、業態を広げたりするなんて、直接指導したことはないですから、ここは中小企業診断士のテリトリーなんだと思います」
「テリトリーと言うことはないですけど、ほら、由美ちゃんの会社で新規事業を作るお手伝いをしているじゃないですか。ちょうど、今、ビジネスモデルを構築する段階にあるんです。それを一緒に見ていくことでいかがですか。そのお店とは新田さんが信頼関係を築いているので、私が交替して対応するより、新田さんがやった方がうまく行くと思いますよ」
「大丈夫でしょうか」
「もちろん。何かあれば、私も一緒に対応しますから」
「そう言っていただければ心強いし、私も勉強になりますね。是非、よろしくお願いします」
新田さんもその気になったようなので、これまでの研修の資料を送る約束をした。ただ、新規事業や起業ではないので、まさにビジネスモデルの見直しから取り組むのが良いだろうと判断したのだ。
「まずは、新田さんの言うようにビジネスモデルの見直しからやってみましょう」
「はい。現在のビジネスモデルについては、ヒアリングである程度は把握しつつあります。まず、最初に気をつけることはありますか?」
「その店主は大きな夢を持っているって言ってましたね」
「ええ。その夢に近づくためには今のままじゃダメだって思っているようなんです」
「では、その夢を具体的に表現するビジネスモデル・コンセプトを最初に創るのが良いと思いますよ」
「ビジネスモデル・コンセプト?ですか」
「ええ。簡単に言えば、キャッチコピーみたいなものです。例えば、ワタミの外食では『豊かで楽しいもう一つの家庭の食卓』を基本のコンセプトとしています。その上、各業態毎にコンセプトを作って、外部に公表しています。あとは、ユニクロの『良い服は世界を変える』とか、Amazonの『欲しいものを手軽に素早く』などもコンセプトとして、自社のビジネスモデルを創りあげています」
「なーるほど。夢を分かりやすく言葉にすると言うことですね。確かに、夢がぼんやりしているかもしれませんね。コンセプトとして明確にするための注意点はありますか?」
「そうですね。顧客を意識することに尽きますね。顧客にとっての利点は何か、その上で、その利点を最大にするような強みは何があるかと考えることだと思います。顧客にとっての利点をベネフィット、顧客のベネフィットを最大にする強みをソリューションと言ったりします」
「ベネフィットとソリューションですね。なるほど。明日にでも、夢について、じっくり話し合ってみます。それから、ベネフィットとソリューションを意識して、素敵なコンセプトを考えてみます。途中で、メールしますので、コメントください」
「了解。是非ワクワクするようなコンセプトを創れるように補助して上げてください」
(続く)
《1Point》
・ビジネスモデル・コンセプト
コンセプトを明確にすることで、ビジネスモデルが輝き出します。
これまで説明したペルソナなどが製品やサービスを利用しているイメージを描いてみると分かりやすいと思います。
【ベネフィット】顧客にとっての利点
【ソリューション】顧客のベネフィットを最大にする強み
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