居酒屋で経営知識

15.中小企業診断士1次直前対策(1)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃーい。まいどー」

「大将。いつになく声が大きいですね」

「ああー、ジンさん。面目ない。ここのところの暑さにやられたみたいで、空元気ですよ。寝不足ですかね」

「確かに、それはありますね。マンションの窓を全開にしてもエアコンの室外機からの排気が入ってくるような感じで首あたりからじっとりとしてきますからね」

「今年は特に熱帯夜が続きますから・・・あ、由美っペかい」

「はい、おじさんと常連さん方に」

「おお。かき氷タイプのカップアイスとは、懐かしいね」

 由美ちゃんのお土産をのぞき込んだのは、大森さん、近藤さんの常連コンビと大将に俺。

「商店街で飛ぶように売れてたわ。もちろん、本物のかき氷やさんの前には長蛇の列だし、人数分持ってこられないからこれにしたの」

「いっただきまーす」

 居酒屋で酒や魚を前にしてカップアイスを食べている姿はちょっと違和感あるなあと思いながらも手を伸ばした。

「ジンさんも、営業の外回りで大変でしょうね」

「さすがに堪えるよ。まあ、クールビズのおかげでノーネクタイ、ノー上着でも目くじらを立てる人が少なくなったので助かっているけどね」

「そういえば、原島さんの会社は、沖縄のかりゆしで仕事をするようにしたらしいわね」

「この暑さには最適だって、会社経費で注文したらしいよ。先週の診断士研修の時、俺もプレゼントされてしまったよ」

「あ、いいなあ。そういえば、もうすぐ中小企業診断士の1次試験ね」

「そうなんだよ。この一番暑い時期だからね。今年は、8月3・4日で早めだから大変だ」

「それじゃ、1次試験の直前対策ってところだったのね」

「その通り。田中君からも頼まれてね。彼は2次試験のみだけど、基礎知識の確認のために参加してたよ」

「私も忘れてしまったかもしれないから復習しておこうと思っているの。次回は参加するわね」

「次回は由美ちゃんに講師をやってもらうよ」

「うわ。いきなり言われても。先週はどんなことをやったの」

「実は、試験問題キーワード集を作っていたので、それを順番にやっていったんだ。まずは、人名とか名称を出して、記憶を呼び覚ましてもらったんだ。1次試験とはいえ、自分で説明できることが重要だし、それが、結局2次試験の勉強にもなるからね」

「そうね。そのキーワード集は今持ってるの?」

「Evernoteに入れてるから、ちょっと待って・・・これだね。これを順番に、ええーっとスキミングプライス戦略までやったかな」

「じゃあ、私もこれを使って良いのかしら。それなら準備も終わっているから」

「もちろんさ。でも、簡単にしか書いてないから準備は必要だよ」

「えへ。そりゃそうよね。ふーん。アンゾフからやったのね」

「アンゾフマトリクスは、定番だからね。2次試験に出たこともあって、その時はマトリクスの戦略名が書けるかどうかが問われていたね」

「そういえば過去問でやった記憶があるわね・・・・

【アンゾフ】人名:H・イゴール・アンゾフ

 ・戦略の構成要素として、
 (1)製品・市場分野・・・企業が提供する製品・サービスのニーズを明らかにすること
 (2)成長ベクトル・・・(1)で明らかになった事業を成長させる分野(方向)を考えること
 (3)シナジー・・・シナジー効果(相乗効果)を考えること (4)競争上の利点・・・競争上の強みと弱みを分析し優位性を考えること
 を挙げた。

 ・アンゾフマトリックス(製品・市場マトリックス)によって
考えられる成長戦略が有名。
 既存市場×既存製品=市場浸透戦略
 新規市場×既存製品=市場開拓戦略
 既存市場×新規製品=製品開発戦略
 新規市場×新規製品=多角化戦略

【売上債権回転率】(単位:回)
売上債権回転率(回)=(売上高)/(売上債権)

*売上債権は、通常、売上手形や売掛金の合計となる。
 財務分析において、基本的な収益性分析の判断基準である。
 キャッシュフローの面でも重要な視点になります。
 売上債権回転率の悪化原因と改善策は次のような点が考えられる。
○悪化原因
 ・取引先の資金繰りの問題や管理が悪い等での代金回収遅れ
 ・手形の差し替え(ジャンプ:)期限到来前に新しい手形に差し替えて結果的に回収が遅れる
 ・支払条件の延長
 ・請求忘れ
*改善策としては、
 ・できるだけ手形ではなく現金で回収する
 ・支払条件による回収期間の短縮
 ・債権管理体制の強化
 蛇足ですが、率と言いながら単位が「回」なので、試験対策上は気をつけること。

【現在価値】
 将来のキャッシュの価値が現在のいくらに相当するかを評価したもの。
 将来のキャッシュをリスクに見合った資本コストで割り引いて算定されるという言い方をするが、要は、現在の金利を使って将来のキャッシュを割ることで求めることになる。
 
 良く使われる例で、会社が100万円をくれると言うとき、今もらうか1年後もらうか選択せよ、と言われたらあなたはどうしますか、と言うのがある。ほとんどの人が今もらうのを選択すると思う。
 では、今なら100万円だが、1年後なら110万円だと言われたらどうしますか?
 
 ここで使えるのが、「現在価値に割り引く」という考え方になる。
 つまり、1年後の110万円を今の価値にして、同じレベルで比較すると言うことだ。
 
 例えば、期待できる利益率が5%ある時、1年後に110万円にするには、今いくらを運用すればいいのだろうか。
 
 110万円÷1.05=104.76・・・万円となる。
 
 つまり、約105万円が1年後もらえる110万円の「現在価値」と言うことになる。
 
 他にリスクが無ければ、1年後に110万円もらった方が得であると判断できる。

【将来価値】
 現在のキャッシュの価値が将来の一時点のいくらに相当するかを評価したもの。
 
 現在のキャッシュをある期間、相当の金利で運用した結果、将来生ずる価値という言い方をするが、要は、現在の金利を使って複利計算をすることで求めることになる。
 
 例えば、5%で運用できる場合、今もらった100万円は、1年後105万円(100万円×1.05)になる。これを1年後の将来価値と言うわけだ。
 5%で2年後の将来価値は、100万円×1.05×1.05=110.25万円
となる。

【市場細分化】または【セグメンテーション
 企業は経営資源に限りがあるため、最大のマーケティング効果を上げようとするならば、対象とする市場を絞りこむことが必要になる。
 つまり、制約条件である経営資源を最大限に活かすことのできる市場を見つけることが市場細分化(セグメンテーション)である。
 
 →市場細分化の前提条件(by フィリップ・コトラー)
 (1)測定可能性:細分化した市場の規模や範囲が容易に測定できること
 (2)到達可能性:細分化した市場の顧客に対し接近や到達ができること
 (3)維持可能性:細分化した市場の規模が十分な利益を見込めること
 (4)実行可能性:細分化した市場でマーケティングの結果の反応がある(示される)こと
 
 →市場細分化の基準(変数)
 (1)デモグラフィック変数(人口動態的基準):年齢、性別、職業など
 (2)ジオグラフィック変数(地理的基準):居住地域、都市、気候など
 (3)サイコロジカル変数(心理的基準):ライフスタイル、性格、思想など
 (4)アクティビティ変数(行動変数的基準):ブランドに対する態度、購入頻度、サービスに何を求めるかなど

【浸透価格戦略】
 新製品の価格戦略の一つ。
 初期低価格政策、ペネトレイティング・プライス戦略などとも言われる。
 当初から低価格を設定し市場への浸透を早めることで、高いシェアを確保し、スケールメリットを獲得しようとする戦略だ。
 利点は、急速に市場普及を図り、シェアを抑えてしまうことと、スケールメリットによるコスト削減で追随する競争企業への優位性を築き上げることができる点にある。
 
 この戦略を取ることが、現在の主流かもしれないが、シェア獲得に失敗すると多大な損失を築き上げることになる可能性もある。

【スキミング・プライス戦略】
 新製品の価格戦略の一つ。
 初期高価格政策、上澄み吸収価格戦略などとも言われる。
 高価格であっても購入しようとする消費者を対象に販売して、高収益をあげることを目指す価格戦略である。
 利点は、早期に開発費や設備費を回収できるが、急速な市場普及が困難であり、規模の経済性を発揮できないという課題がある。

 現在では、高級なバックや希少価値の高い商品に採用されており、特に強みのない商品では困難な戦略とも言える。

「うわー。覚えているようで、結構曖昧になってるわ。復習しなくちゃ」

「そうだろ。じゃあ、今週は頼むね。もしかすると出張になるかもしれないので安心したよ」

「わかったわ」

「それじゃ、アイスの味も消えたので、ビールにしようか」

「私も」

(続く)


《1Point》
 あと、3週間ちょっとで1次試験でした。
 直前対策ですので、試験を受ける方は改めて自分で説明できるか確認してください。

【アンゾフ】
【売上債権回転率
【現在価値】
【市場細分化】【セグメンテーション
【将来価値】
【浸透価格戦略】
【スキミング・プライス戦略】

 あと2回は同じように記憶を呼び覚ます回としますので、ラストスパートをかけてください。