居酒屋で経営知識
(14):リーダーシップについて
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい」
仕事帰りの一杯を飲むために、店の中は活気あふれている。
「大将、忙しそうですね」
「ジンさん、何の何の。忙しいなんて言っていたらバチが当たりますよ。まあ、常連さんが多いので、助けられてますがね」
セルフで空いた皿をカンターに持ってきたり、出来た料理を自分たちで運ぶなんてことが自然に見られる店ではある。それが、より店への愛着にも繋がっているのかもしれない。
「あれ?田中君。久しぶり。元気だった」
原島さんの会社の改革メンバーの1人で、昨年、中小企業診断士の1次まで合格した優秀な奴だ。
「北野先生、ご無沙汰しています。2次合格に向けて頑張っています」
「そうだよね。他のメンバーでも1次を受ける人が増えたらしいね」
「原島社長が宣伝したおかげで、一緒に勉強する仲間が増えました。社長にもお願いしたんですけど、また受験前のモチベーションをあげる研修をお願いします」
「原島さんからは連絡をもらっているよ。もちろん協力させていただくよ」
「ありがとうございます。あ、北野先生、ビール来てます」
「ありがとう。それにしても、その『先生』ってのはやめて欲しいなあ」
「あ、そうでした。すいません」
「再会を祝して乾杯!」
「ところで、北野さん。受検に直接関係することじゃないんですが、最近悩んでいることがあるんです」
「え、どうした?」
「実は、今年の春から課長にしてもらって、社長やみんなの期待に添えるよう頑張ってきているんですが、自分にはリーダーシップが欠けているような気がしてきて・・・」
「そうだったんだ。人の上に立つのって大変だからね。そうかあ。自分にはリーダーシップが欠けていると思っているんだね。じゃあ、田中君が考える必要なリーダーシップというのは何?」
「そうですね。まずは、人を惹きつける資質が必要だと思います。原島社長もそうですが、何か言われるたびにそうだ!って思えて、そんな引っ張っていけるものが欲しいですが、自分にはまだまだだと思うんです」
「なるほど。他にはある?」
「そうですね。惹きつける資質と同じなのかもしれませんが、仲間を作るのがうまい人が多い気がしますし、そんな仲間やそれ以外の人に対しても影響を与える力をもっていますよね」
「なるほど、なるほど。でもね。自分がリーダーとしての原島さんを評価する点はそうでは無いんだよ。それ以上に、例えば人を惹きつける資質というのは、人を盲目的に扇動するような資質であって、チームメンバー一人一人の強みを活かすリーダーでは無いと思うよ。仲間を作ったり、人に影響力があるという点についても、ドラッカーが言っているけど、それはリーダーシップでは無く、営業マンシップにすぎないと言い切っている」
「営業マンシップですか」
「つまり、リーダーというのは、自分でみんなをコントロールしたり、うまくおだてて買う気のないお客さんにものを買わせたりするような都合のいいものではないと言うことなんだ。田中君も、改革プロジェクトのメンバーだったからわかると思うけど、原島さんはみんなを煽って盲目的に作業をさせたりしたかい?」
「いえ。一人一人が得意な部分で目標を考えさせてくれたというのは、私たちもありがたいと思いました」
「そうだったよね。あの時、何度か取り上げたドラッカーは、経営者が成果をあげるには8つの習慣を身につければいいのであって、特別な能力はいらないんだと言っている。これは、すなわちリーダーシップのための原理とも言えると思うんだ」
「特別な能力では無くて、習慣を身につければいいんですか?」
「そうなんだよ。これは、原島さんも自分もなるほどなと思っている部分なんだ」
「どんな習慣が必要なんですか?」
「ドラッカーの『経営者の条件』という本によると
(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」でなく「われわれは」を考える
となっているよ」
「ええ?これだけなんですか。ふーん。なされるべきことを考えるとういのが難しそうですが、それ以外は一般的なことのような気がしますね」
「そうだろ?なされるべきことというのは、まさにその組織やチームの目的と方針を考え、今やらなければいけないことは何なのかを具体化すると言うことだろうね。つまり、目標の明確化がリーダーの第一の条件ということかもしれないね。あとは、日常的な習慣化によって出来そうだけれど、これが出来ていないのが実態と言うことなんだよ。よーく考えてみてごらん」
「あ!そうか、そうですね。8番目の『私は』ではなく『われわれは』を考える、というのは、まさに、自分が陥っていたところかもしれません。自分の意見がみんなより勝っていなければいけないと考えていたのかもしれません。私は、リーダーなんだと見せたいというのが、一番強かったのかもしれません」
「さすが、田中君。自分で答えを出したじゃない。それが、リーダーに取って必要な資質だよ。リーダーというのはスーパーマンがなるものじゃないんだ」
「ありがとうございます。前が見えた気がします」
「これもドラッカーが言っていることだけど、
『リーダーシップとは、人の視線を高め、成果の基準をあげ、通常の制約を超えさせるものである』
という言葉も覚えておいて損はない。
ほとんど、ドラッカーの受け売りになるけど、自分なりに咀嚼して考えたリーダーとは
・方向性を示す:経営理念・経営方針・目標他
・常に全体を見えるようにする:見える仕組みをつくる
・業務リーダーは変化する:状況を判断し、誰もがリーダーとして先導し、方向性を修正する
・短期的よりも長期的な組織の前進を評価する
・結果だけではなく、プロセスや貢献を評価する
ということなんだ」
「考えれば考えるほど言葉は分かりやすいですが、深い気がします。ありがとうございます。やる気が湧いてきました」
「うん。その切り替えの速さが田中君の一番の強みだと思うんだ。さあ、元気が出てきたのなら、飲もう!」
「はい。大将、生ビールもう一杯!」
「はいよ。亜海。田中さんとジンさんに生よろしく」
「はーい!」
(続く)
《1Point》
・「リーダーシップとは、人の視線を高め、成果の基準をあげ、通常の制約を超えさせるものである」(P・ドラッカー「現代の経営(上)」ドラッカー名著集2 P222 上田惇生訳 ダイヤモンド社
→http://amzn.to/16IBKEz
(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」でなく「われわれは」を考える
(P・ドラッカー「経営者の条件」ドラッカー名著集1 P2 上田惇生訳 ダイヤモンド社)
→http://amzn.to/rXd8ai
今回は、ドラッカーの「経営者の条件」と「現代の経営」から取り上げましたが、これまでもリーダーシップについては、何度か出ています。
わたしのホームページで検索をかけていただくと結構ヒットしますので、興味のある方はどうぞ。
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