居酒屋で経営知識

(13):4つの原理(4)プレッシャー

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。毎度。亜海、ジンさん到着」

「はーい。生ビールね。はい、どうぞ」

「生ビールの注ぎ名人になったね」

「ジンさん、わかった?」

「え?何」

「ジンさんには言ってなかったかな。今度、亜海がビール会社のビアマイスター研修に行ってきて、資格証をもらってきたんですよ」

「へえ。就活中によく勉強できたね」

「えへへ。だって、ジンさんやビール好きのお客さんにおいしい生ビールを飲んでもらいたいからあ~」

「じゃあ、マイスターの注いだ生ビールを、と。うーん、うまい。何だろう、泡がきめ細かいようだね」

「やったー。それが一番の誉め言葉なんだって」

 はしゃぎながら他のお客さんにも自慢しまくっているようだ。

「ジンさん、ラグビーで経営マネジメントを整理する勉強会はどうですか?」

「なかなか、シンプルに整理するのが難しいですね。今週末もここお借りしますね」

「ええ、どうぞどうぞ。その代わりと言っちゃあなんだけど、由美達が来る前に、一つ教えてもらおうかな」

「大将のご希望なら何なりと」

「先週のレジメって奴を見せてもらったんですけど、前進、サポート、継続・・・だったですよね。それは、攻撃的な話でわかったような気がするんですが、最後の『プレッシャー』が企業活動では何だろうって悩んでたんですよ。守備ってことですかね」

「大将も興味あるんだったら参加してくださいよ。その通りですよ。まさに、守備についてです」

「皆さんの足手まといになりますし、1日は休んでおかないと新しい情報に遅れてしまいますのでね」

「そりゃそうですね。整理できたらお渡しするようにしますよ」

「それをお待ちしますよ。それにしても、ラグビーの守備って言ったら、タックルかと思ってましたがね」

「うーん。そうですよね。ただし、ラグビーにおいては、ボールを持っているチームに主導権がありますから、ただ闇雲にタックルしても、そう簡単にボールを奪うことはできないですよ」

「そういや、そうですね。倒れても、すぐに密集が出来て、ボールが出てきますもんね」

「攻撃側は、何度も密集をつくりながら、左右にボールを動かして、守備側のギャップや穴を突破しようとするんです。それを防ぐには、すき間無い連携でプレッシャーを与え続けるしかないと言うことなんです」

「ギャップや穴を作らないというと具体的にはどういうことですか」

「一つは、相手の揺さぶりやスピード、変化に対応できる体制を常に維持することです。例えば、特に足の速いタックラーがいるからと言って、すぐに突入させてしまうとその他のメンバーとの間にギャップが出来てしまったり、サポートが遅れると守備のラインに1人少ない穴が出来ると言うようなことです」

「なるほど。常に、全員で揃って守備のラインを作るということですね。でも、それだけなんですか?」

「ラグビーの守備の原理はそれだけです。個人プレーでボールを奪うというのは、同じように攻撃側に付け入る隙を与えることになります。予想外の変化をしてきても、すぐに対処することで、高レベルのプレッシャーを与え、攻撃側のミスを誘発します」

「なかなか大変ですね」

「そのために、高度な連係プレーを継続できる自律した組織である必要があるというのがもう一つです。これは、ゲームだけでなく、日常的な活動すべてにおいて作り上げるものですから、企業にたとえれば、常に新しいものを吸収し、自分たちも変化し続ける企業文化・社風を持っていると言い換えられると思うんです」

「へえー。守備の力は社風からくると言うことですか?」

「それだけ、メンタルな部分が必要だとも思いますよ。最近トップを狙うラグビーチームは、管理する組織ではなく、自主性を前面に出した学習する組織になっているとも感じます。大将は、学習する組織って聞いたことがありますか?」

「え?いきなりですか。でも、何か聞いたことありますね。もしかすると、前にジンさんが商店街でやってた研修で出ましたか?」

「さすが。そうなんです。あの時は、組織というもの説明の中で、ピーター・センゲの言った学習する組織を説明しましたよ」

「思い出して良かったですよ。古い成功体験に縛られている状況から脱出して、全員で学習する組織が生き残るというような話でしたかね」

「そうです。プレッシャーを常に与え続けるには、外部の変化に対応して柔軟に自分たちを変えることが出来て、なおかつ共有されたビジョンに向かって組織的に活動できる必要があるんです。この学習する組織というのが、一つの考え方だと思っているんです」

「そうですか。ジンさんの言っていることは、一つ一つが大本につながっているんですね。それが、ラグビースタイルマネジメントですか」

「そう思っているんですが。まだまだ先は長そうです」

 大将に話をしながら、いろいろなものが繋がってくることを実感した。

 今日は、亜海ちゃんの生ビールだけで上がることにしようか。

(続く)


《1Point》
・ラグビーの4つの原理

(1)前進:個人ではなく組織の前進である
(2)サポート:チェックをし、準備をする
(3)継続:止まっているプレーは後退である
(4)プレッシャー:主導権は相手にある

 最後のプレッシャーについてです。

 ここで、ピーター・センゲの学習する組織を出しました。センゲの基本的前提としての説明は以下のようにされていました。

人は旧来の思考方法(メンタルモデル)をやめ、他人に対してオープンになること(自己マスタリー)を学び、会社の実際のありよう(システム思考)を理解し、全員が納得できる計画(共有ビジョン)をつくり、そしてそのビジョン達成のため協力する(チーム学習)ことである。
「ダイヤモンドオンラインより」

それぞれの()内はセンゲの学習する組織のキーワードになります。

過去に説明していますので以下にリンクを貼っておきます。興味のある方は復習してください。
http://bit.ly/14q0MXR