居酒屋で経営知識
66.限界(経済学)
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
「うー寒い。まだ、春遠しですね」
「でも、もうすぐですよ。テレビでは梅が咲き始めているって言ってましたし、もうすぐ3月ですからね」
「梅が咲いたら、すぐ桜ですか。寒い年の方がきれいに見えるかもしれませんね」
ふと見ると、カウンターに由美ちゃんが既に座っていた。
「あ、ジンさん。今日は遅かったのね。私一人で酔っちゃったわ」
「そういえば、今日は常連さんたちの姿が見えないね」
「商店街の旅行みたいよ。寒いから温泉へ行くんだって大森さんが喜んでいたわ」
「それにしても、随分飲んだみたいだね」
「もう、限界かも。でも、ビールって、最初は本当においしいって思うんだけど、3杯目になるとあまり感動がなくなるのが寂しいわよね」
「ははは。飲み過ぎなんだけど、そう言えば、経済学の限界効用逓減の法則の説明で良く例にされるね」
「え?限界効用?私みたいに限界になった人の効用・・・?」
「え・・あははは。そうか。そうだね」
「なになに。ジンさん一人で納得してもわからないわ。限界っていうのが何に効くって言うの」
「限界って言葉が悪いんだと思うけど、経済学でも、財務会計なんかでも出てくるんだよね。今の由美ちゃんのビールの例で言うとね・・・最初の一杯はすごくうまいと思うのに、二杯目になると若干その感動は薄れて、三杯目になると二杯目よりうまいと思えなくなるっていうのを、『限界効用逓減の法則』っていうんだ」
「経済学で、ビールのおいしさを研究しているって言うことはないわよね・・・」
「限界をひとまず忘れて考えてみるといいかも。この場合の効用っていういのは単純に言うとビールが『おいしい』ということだね。最初の一杯と二杯目、三杯目はビールの量は一緒だけど、『おいしい』という効用自体はだんだん小さくなる。つまり逓減していくということなんだ」
「それはわかるけど、それに限界をつけると限界まで飲むとか、おいしさに限界があるって言うことになるの?ますますわからないわ」
「この限界というのは、ビール一杯毎にと言う程度の意味なんだ。一般化すると、何かの量を量れる限界の単位1単位という説明になるかな。ビールの場合、常識的に考えるとジョッキで飲むなら、ジョッキ一杯だし、ビアタンなら180mlくらいだけど、それを1単位として考えるんだ。そうだなあ、モノを更に1個追加とかサービスをあと1回追加したとき、それから増える満足度の量が限界効用と言うんだ」
「ふーん。逓減って言うのは、単純に減っていくんじゃなくて、減る量が増えていくのよね」
「そうそう。だから、ビールの最小単位の1杯に対するおいしいという感覚を数字に置き換えてみるとね・・・最初の一杯の満足度が1、二杯目が0.9だけど三杯目が0.8と単純にならずに、より少なく0.7、四杯目になると0.4になるというようなことを逓減するというんだ」
「ビールの例はよくわかるけど、なぜ限界って言うのかがあんまりピンとこないわ」
「限界っていうのは英語のmarginalを訳したものらしいけど、限界っていうより境界という意味の方が若干分かりやすいかもしれないね。ある意味厳密な用語ではないような気もするけど、1単位として意味のあるギリギリの範囲とでも言うのかな。ビールの1単位を1mlとしたら、数字としてはいいけど、現実に1mlずつ飲んだときの満足度合いと言ってもわからないだろ」
「そうね。逆に生ビールの樽を1単位として、個人の満足度って言っても元々1単位飲むことが不可能だから、意味のある限界まで減らしていって、まあ、ジョッキ1杯だったり、グラス1杯だったりするわけね」
「わかったみたいだね。それじゃ、俺も限界効用逓減の法則を試してもいいかな。喉渇いたよ」
「あ、ごめんなさい。まだ、最初の1単位がまだだったのね」
(続く)
《1Point》
・限界
ここでは分かりやすいので、限界効用を例にしていますが、限界という用語は結構使われるので要注意です。
診断士の一次試験では、限界消費性向、限界生産力、限界貯蓄性向、限界費用、限界利益率などがキーワードとして出てきます。
考え方は一緒です。
例えば、限界消費性向とは、所得が1単位増えたときの消費に回る量を言います。
この場合の1単位も状況に応じて変化すると思いますが、例えば10万円の給与が増えた場合、その増えたことによってどれだけ消費が増えるかということですから、5万円小遣いを増やしたり、外食を増やすなら、0.5と言うことになります。
限界費用なら、生産量を1単位増やしたときの費用の増分となります。
言葉の単純な意味と異なっている用語には注意が必要ですね。
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