居酒屋で経営知識
65.DRMとCRM
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
ん?
「よお、ジン」
「ジンさん、いらっしゃい」
雄二と由美ちゃんが額を付き合わせるように座ったカウンターから振り返った。
「なんだ?悪巧みでも相談してるか?」
「ふーん。ジン。動揺が見えるな。妬いてるか」
「鳶野さんったら。ジンさん。先日のダイレクトマーケティングについて、鳶野さんと復習してるんだけど、わからなくなってしまったの」
「ああ、この間の話か。どんなところで迷ってるって?」
「一つは、ダイレクトマーケティングで調べるとダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)というのが出てくることがあるのね。まあ、これは、レスポンスが入っているか、入っていないかで顧客の声を聞くんだから同じものかもしれなとは思ったんだけど。でも、顧客との関係重視という考え方からすると、CRMも同じような考えじゃない?って思ったの」
「それで、俺に聞いてきたんだけど、DRMとCRMで考えれば1文字違いだし、似たようなもんだろうという結論なんだがな」
「当たりでもあり、外れでもあり、かな。Rは、DRMではレスポンスだから、まあ、反応ということだろうね。CRMでは、リレーションシップだから関係だろ。それに、CRMのMはマネジメントの略になっている」
「だから、3文字略語は嫌いなんだ」
「ジンさん、それは、私も説明できたんだけど、DRMって、直接顧客の声を聞いていく手法よね。CRMも顧客との関係性を強化するという思想だったと思うのよ」
ビールを一口飲んでから始めることにした。
「まず、ダイレクトマーケティングとダイレクトレスポンスマーケティングは、同じと考えていいと思う。手法とすると、顧客からの反応(レスポンス)を直接取って、そのデータに基づいて次の手を打っていくというものだ。例えば、健康食品のやずやとか、再春館製薬所のドモホルンリンクルなどが有名だよね」
「無料サンプルね。テレビでも広告しているから、マスマーケティングかと思ったけど」
「テレビでもよく、あと1時間以内とか、時間を限っているよね」
「あ、そうね」
「あれは、一つには迷っている人に最初の行動を取らせるための時間限定なんだけど、同時に、どの時間帯とか、どんな番組に広告を入れると効果的かなどの情報を明確にするための手法でもあるんだ」
「なるほど。マスメディアを使っているけど、一人ひとりの反応を個別に受けられるし、傾向の情報も精度良く取れる。そして、個別配送するから、次の一手を個々に打つことができるし、そこから注文が入れば、更に情報の精度が高まってくるわけだ」
「その通り」
「で、問題はそこからなんだ。由美からもグダグダと質問されたんだけど、原島さんの会社でも説明したCRM、カスタマー・リレーションシップ・マネジメントとは何が違うんだ」
「視点が違うということかな。でも、根本は同じだと考えても、そんなに問題はないと思う。どちらも、顧客との関係を維持・強化していくと言うことだからね。CRMでも、顧客毎に異なる好みやニーズを捉えていくには、DRMの手法をとることが有効だと思われるしね。そういう意味で言えば、DRMの方が、より手法に近いのかな。CRMとなると、情報管理とか、顧客価値の増大というように、マネジメントの側面が強調されるところはあるね」
「どちらも、顧客との関係性を強めるという点では同じということね」
「そういうことでいいと思うよ」
「そうなれば、鍋にいく前に、刺身でも注文しようぜ。大将が、睨んでいる」
「鳶野さん。そんな、睨んでなんていませんよ。由美っペに付き合ってもらっているだけでありがたいんですから」
「うーん。親心だ。まあ、この店では、CRMでがっちり押さえられているし、すべてDRMだしなあ」
「うーん。いつもながら、理解して言っているのか、でたらめなのかがわからないのが、雄二だなあ」
(続く)
《1Point》
・ダイレクトマーケティング(ダイレクト・レスポンス・マーケティング)
前回の説明で質問がありましたのでこのような内容としました。
レスポンスを入れるかどうかの問題だと認識しています。考え方は同じです。
CRMとどちらが親かという議論になると不毛ですので、単純に考えましょう。
・CRM(Customer Relationship Management)
顧客管理・顧客関係管理などと訳されるようです。
おおざっぱに考えると顧客との関係を強化する仕組みと言えるでしょう。
顧客情報データベースを中心として、常に、新鮮なデータが付け加わるような仕組みを作る必要があります。
そのため、POSレジや顧客カードなどを利用するというのが一般的な手法と言えるでしょう。
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