居酒屋で経営知識

67.現在価値と将来価値

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。毎度」

「ジンさーん。いらっしゃい」

 亜海が飛びついてくるのかと思った。

「亜海ちゃん。相変わらず元気だねえ」

「えへへ」

「ジンさん。亜海が20歳になったんですよ」

「あ、そうか。誕生日は2月の、えっと昨日だったね。おめでとう」

「ありがとうございます」

 大森さんが乗り出してきた。

「おおー、そうだった。残念だなあ。誕生日には小遣いやろうと思っていたのに過ぎちまったんじゃ、仕方ない」

「ええー!大森さん、ずるーい。ダメダメ。1日分の利子をつけてもらいたいわ」

「おいおい。大人になったからって、突然セコイこと言い出すなあ。今時、1日分の利子なんてないのと一緒だ。うーん、それなら利子つけて2年後に1万2千円贈るよ」

「え?大森さん、なんで2年後なの。うーん、でも、10%も利子をつけてくれるなら、考えてもいいかも」

「亜海。2年後は卒業予定だろ。卒業祝いになると思ったんだよ」

「ああ、そういうことね。それなら、来年の分は1年間の利子と再来年は利子が付かないから、1万1千円と1万円を足して、3万3千円貰えるわけよね」

「おいおい。本当に守銭奴みたいになってきたなあ。今時、10%で運用するなんて無理だから、良くて1%だな」

「男に二言は無いっていうのが、口癖だったのに-。嘘つきねえ。わかったわ。利子無しでいいから、今日3万円ちょうだい」

「亜海。あんまり大森さんに無理言うんじゃ無い。卒業祝いを貰えればいいじゃ無いか」

「でも、卒業できないとか、大森さんがそんな約束していないなんて言うかも・・・」

「ふーん。亜海ちゃんと大森さんの会話って、現在価値と将来価値の話をしているみたいだ」

「ジンさん、何の話だい。その現在と将来ってのは」

「あ、ジンさんの経営講座ね。うれしい!」

「ファイナンスの考え方です。2年後に亜海ちゃんが貰えるはずの3万3千円は、毎年の収入を単利計算で考えた将来価値と考えられます。まあ、普通は複利で考えるから、もう少し増えると思いますが。」

「あ、そうか。複利ってことはもっと増えるわね。今年の1万円が、2年後には1.21万円だから3.31万円ね。今日貰うなら、利息無しで3万円。きっと、それが現在価値ね」

「亜海ちゃん。そうは問屋が卸さないんだ。今日の1万円は当然現実だから1万円でいいんだ。でも、1年後貰えるはずの1万円は、今日の1万円じゃ無い」

「ええ?どういうこと」

「今は、利率を10%で計算しているよね。と言うことは、1年後の1万円を考えるときは、今日から10%で運用して1年後に1万円になると考えるんだ。それを1年後の1万円の現在価値と言って、その計算を割り引きというんだ」

「おお。ジンさんいいことを言うな。そりゃそうだ。早くもらおうって言うときは、手形でも割引するからな」

「考え方は同じですね。それで、1年後の1万円を現在価値に割り引くと・・・そうだな、亜海ちゃん。今の1万円の1年後の価値を計算するとどうなる?」

「さっきは、1万円×1.1=1.1万円で計算したわ」

「じゃあ、1年後1万円になる今の価値はどう計算する?」

「逆算ね。1万円÷1.1になるのね。だから、約9091円ね」

「そういうこと。だから、1年後の収入の1万円の現在価値は9091円になる。同じように、2年後の1万円は?」

「更に、1.1で割るのね。ええっと、ええ!約8264円になっちゃった」

「合計すると、27355円強だね。つまり、2年後にもらう、1万円×1.1×1.1+1万円×1.1+1万円=3.31万円を今日の現在価値にすると27355円になるということになるんだ」

「うーん。でも将来価値はリスクがあるから、現在価値で今日貰った方がいいみたいね」

「その亜海ちゃんの考え方はリスクヘッジの考え方だね」

「どうでもいいけど亜海に小遣いをやらないでいい計算は無いのか?」

「大森さん。約束は計算では消せないですよ」

(続く)


《1Point》
現在価値と将来価値

 考え方はわかりますよね。
 
 現在の1万円と将来の1万円は同じ価値で考えないということです。
 
 これは、投資効果を考えるときなどに必ず出てきます。