居酒屋で経営知識

38.限界利益

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度!」

「今日も気合いが入ってますね、大将!」

「正月もこの辺になると息切れする人が増えますからね。我々が元気出さなきゃ、お客も来たくなくなりますよ」

「確かにそうですね。元気をもらっていきますよ」

「はーい、ジンさん、生ビールおまちどおさま!元気つけてね」

「亜海ちゃん、サンキュウ。じゃ、乾杯!」

「ジンさん、今日はさっぱりと鱈と春菊の小鍋なんかいかがですか?」

「いいですね。新年会続きで胃も疲れていますので」

「でしょ?今日は、山口さんは来ますか?」

「ええ。質問があるって言ってましたので」

「いらっしゃい!今、噂していたところですよ」

 山口君がやってきた。

「いい噂でしょうね」

「もちろんですよ、ねえ、ジンさん」

 カウンターに並んで、生ビールで乾杯した。

「今日も鍋ですかね。東北の人間でも、この寒さは効きますね」

「へえ、そうなんだ。このくらい大丈夫だって言うのかと思いましたよ」

「東京の寒さはまた違うような気がします。雪がないこともあって、乾燥しているからですかね」

「なるほど。雪があれば、湿度は下がらないだろうね。それはあるかも」

「ところで、ジンさん、またお聞きしたいことが」

「どんなことですか?」

「今、損益分岐点分析の部分を始めたんですが、その中で何度も出てくる限界利益というのが、何のために出てくるのか、よくわからないんです」

「なるほどね。それはよくわかります。限界と言う言葉が悪いんじゃないかとも思いますが、しっくりこない用語だと思うのは、自分だけじゃないと思いますよ」

「やっぱりそうなんですね。固定費+利益が、限界利益と言われると、もう最後の、限界の利益と考えてしまいそうで、結局、固定費が増えれば、限界利益が増えるけど、別に利益自体が増える訳じゃないですからね」

「そういう意味で言えば、この考え方は、管理上の指標なんだと思った方が良いですね。固定費+利益=売上-変動費 という公式を使った管理方法が限界利益であり、損益分岐点分析という手法なんです」

「そうですよね。固定費というのは、すでに決まったコストですから、売上が上がろうが、それこそ無くてもかかる費用ですからね」

「そこなんです。ここで言う固定費は、事業活動の結果としての売上で賄って、かつその余剰である利益を出して、次の活動へ繋げていかなければいけない訳です。本来、何かが売れるたびに、固定費と利益が出てくる訳じゃないですよね。たとえば、100万円の固定費がかかる店が、2万円の商品を売っているとします。その商品の仕入れ単価が1万円だとすると、100個売れるとやっと固定費の支払いがすべて出来る訳です。そして101個売れると、1万円の利益が出て、その後は、1個あたり1万円の利益となっていく訳です」

「そうすると、100個売れるまでは、変動費である仕入れ原価以外は固定費を処理する利益というわけですね」

「そうです。つまり、ここで言う限界利益とは、この場合、1個売れるたびに店側で処理に使える収入ですから、もう一つ売れればいくらのお金が使えるようになるかを表したものなんです。つまり、限界利益が0の商品・製品をいくら売っても、固定費すら賄えないですから、事業は成り立ちません。先ほどの例では、仕入れ単価1万円ですが、1万円で売っていれば、あっという間に倒産するのは想像できます。でも、1万1円で売ったらどうでしょう。固定費が100万円ですから、100万個以上売れれば、商売として成り立つわけです」

「確かに、理屈ではそうですね。100万個売れるかどうかにかかってきますが」

「それが重要なんです。損益分岐点分析を勉強しているのでわかると思いますが、その100万個が損益分岐点売上個数になりますよね」

「そうか。つながっているんですね。限界利益を考えることで、事業全体を考えられるような気がしますね。先日の間接費の考え方にもつながりますね。普段は、1件ごとに固定費を変動費と同じ考えで、個別の原価として計算していますね。だから、年の初めでも、計算上は利益が何%と言ってますが、年度での利益と考えれば、年度当初は実際には通常我々の見ている利益はなくて、固定費を賄っているということですね」

「管理上はそう考えていかないと、売値を一定に出来ませんからね。逆に、純利益があまり出なくても、限界利益がどの程度あるかで、経営判断をすることも出来ます。そういう意味で、限界利益は重要な考え方です」

「わかりました。限界と言う言葉の感覚に引きずられてわからなくなってしまうのかもしれませんね。また、整理してみます」

「そういえば、限界効用という言葉も同じ概念なんですけど、この生ビールをもう一杯飲むとどの程度うまい!と思えるかというのも限界効用といえるんですよ。その効用を利益と考えれば、その方が分かりやすいかもしれませんね」

「もう1単位増やした時の増分ということですね」

「お、ちゃんと整理したじゃないですか。それが、限界という言葉の意味ですね」

「では、もう一杯限界効用を試してみましょう」

「了解。大将、小鍋できましたか?」

「もちろんです。すぐ、火にかけましょう」

「何の小鍋ですか。シンプルですね。鱈と春菊にネギですか」

「それじゃ、日本酒にして、我々の限界利益(限界効用)を最大限にしようか」

「賛成です」

(続く)


《1Point》
限界利益

 損益分岐点分析は、何となくわかるんですが、この限界利益という言葉がスッと入ってこないのは私だけじゃないと思います。

 固定費+利益と考えるとなんだかわからないので、あくまで、変動費以外を利益と考え、1単位増える毎に追加される利益が限界利益で、その限界利益から固定費を支払うんだと考えてはどうでしょう。

 私が、中小企業診断士の試験勉強でどうしても頭に入らなかった言葉なのですが、会社でも良く出てきますので、覚えておくべき用語の1つです。

 そのため、説明が教科書的でなくなっていますが、少しでも感覚で捕まえられたらうれしいです。