居酒屋で経営知識
63.組織とは
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい。毎度」
寒さに震えながら縄のれんをくぐるとそこは別世界だ。あふれ出す会話と温かな肴や鍋の香りに包まれて、ホッと一息する。
「大将、今日も寒いですよ。やっぱり熱燗からいこうかな」
「了解。キクマサでいきますか?」
「もちろんです」
ビールはヱビス、日本酒はキクマサがベースになったのは、みやびのおかげだ。
「いらっしゃい。大森さんも寒そうだね」
「黒さん、外にいてごらんよ。冷え切るよ」
「朝の仕入れで身に染みてますよ」
大森さんも熱燗を頼み、定位置に収まった。
「ジンさんも聞いてくれよ。東京地区の同業者で作っている団体の年会費が高すぎるって話から、脱退者が続いたもんで、役員が連日集められて大騒ぎだよ」
「へえー。景気が悪いせいですかね。その団体はどんな活動をしているんですか?」
「まあ、役所に陳情したり、新しい法律の講習会をしたりするのがメインだろうな」
「役員会では、脱退者を引き留めようとしているわけですか?」
「一つはそうだな。このまま脱退者が出ていることが目立ち出すと俺も俺もとなるんじゃ無いかって危惧しているみたいだ」
「大森さんはそうは思わない、ということですか」
「うん、まあな。俺も役員だから大きな声では言えないけど、力の強い中心企業が牛耳って、中小を抑えようという組織になってるような気がしてるんだ」
「だったら、大きな声で言わなければいけないんじゃ無いですか。組織には共通目的が無ければいけないですよね」
「そうなんだが、この業界では他に情報交換する場はあまりないし、会員数も相当な数だから潰すのも惜しいというのが本音かな」
「組織の維持が目的になってしまっているなら、その団体から得られる成果は何なのかを見直して、本来の目的を考え直す必要がありますね。組織とは、目的ではなく手段ですから」
「組織とは目的ではなく手段、か。そりゃそうだ。成果ねえ。役所とのつながりで流れてくる情報とか、会員情報くらいかな。もしかすると、この団体がなくても不自由はないのかもしれない」
「組織の存在理由というのは、目的に対して成果をあげることです。だから、役員たちにも権限があるわけですよね。その権限を数の力で維持して、でも、一部の企業のためにしか機能しないんだったら存在理由はありませんよね」
「うーん。ジンさんの言うとおりかもしれない。昔からあった組織だから、無くなることが不安なんだよね」
「ジンさん、今日はやけに厳しいですね。会社で何かありましたか?」
大将が心配そうに声をかけてきた。
「あ、厳しかったですか。まあ、最近現状維持を望む声が大きくて、結局、組織や今の仕事を守ることが目的になってしまっているようなところが気になっていたんですよ」
「政治の世界でも、組織を守ることが目的のような状況じゃあ、仕方が無いのかもしれませんね。まして、一般庶民にとっては、不安が先に立ってしまいますから」
「でも、少なくてもビジネスの現場では、変化していかなければ先がなくなってしまいますから、それこそ危険だと思います」
「まあまあ、ジンさん。俺が、変な相談しちまった。でも、ジンさんの言うとおりだよ。どんな成果を望むのか、会員の声をもう一度聞いてみるように提案してみるよ」
「大森さん。それがまず第一ですね。特に、営利組織じゃない団体のようなものは、なかなか評価しづらいですから、目的とそれに伴う成果を意識しないと存続だけが目的になって、誰もありがたくないということになってしまいます」
大将の言うように厳しい言い方になってしまったかもしれないなあ。
(続く)
《1Point》
・組織とは
「組織が存在するのは組織自身のためではない。社会的な目的を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織とは、目的ではなく手段である」
「マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則」P9(P・F・ドラッカー 上田惇生訳 ダイヤモンド社)
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「組織とそのマネジメントの力の基盤となりうるものは一つしかない。成果である。成果をあげることが、組織にとって唯一の存在理由である。組織が権限をもち権力を振るうことを許される唯一の理由である。」
「ドラッカー名著集7 断絶の時代」P214(P・F・ドラッカー 上田惇生訳 ダイヤモンド社)
→http://bit.ly/xygWXD
組織によって個人では出来ないような仕事を成し遂げられるのですが、時として、組織が制約となることも経験することです。
日々の業務を変えることに抵抗を感じたら、まず、成果をあげているのかをもう一度考えてみましょう。
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