居酒屋で経営知識

46.生産性分析(付加価値)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさ・・ん、あ、へいっくしょん!すいやせん。は・ふん・ひょうのようです」

「大将、花粉症でしたっけ?」

「いやー、突然なんですよ。これまでは、人の花粉症の話をおもしろがって聞いていたんですがねえ。鼻のかみすぎで鼻の頭が赤くなってきました」

「私も軽度の花粉症のようで、突然のクシャミ・鼻づまりになったりするんで、辛さはわかりますよ。入ってくる人に外で花粉を落として入るようにしてもらわないといけないですね」

「そうもいきませんからね。一応、病院で薬はもらってきたんですよ」

「せっかく、梅・桃・桜と花盛りが続いている時に皮肉なモンですよねえ。花見に外に行くのが辛いんですから」

「まったくだよねえ、ジンさん」

「大森さんも花粉症でした?」

 常連の大森さんが、奥のカウンターから身を乗り出していた。

「うちのかみさんが酷くてね。鼻と目に来るんで、店に出られないって仕事をほっぽり出しちまうんだよ」

「うーん。その気持ちもわかりますよ。生産性ががた落ちですね」

「仕方が無いので、バイトの数を増やしてるから、そういう意味で言うと生産性は上がっているんだけどね」

「うーん。揚げ足を取るようで申し訳ないですが、奥さんに加えてアルバイトを増やして、どの程度の付加価値が増えているかですね」

「ジン先生登場ですな。付加価値っていうのは、この間経営研修でやったような記憶があるなあ。まあ、付加価値って言うんだから、うちの店で付け加えた価値ってことかね。それが、増えたかどうかってのは今一わからんな。でも、売上自体は上がっているので、バイト代は賄えているというところかな」

「そうですよね。大森さんから見せてもらったテキストに出てましたんで、復習のつもりでした。まあ、付加価値というのは、大森さんの言うように企業活動などで新たに生み出された価値のことです。厳密には、いろいろな方式があり、決まったものは無いんですが、財務分析上は、いくつかに絞られています」

「ジンさん。すっかり忘れちまいました。付加価値にいろいろな方式があるって、計算式でもあるってことだったかな」

「そうなんです。控除法と加算法と大きく分けられますが、我々中小企業診断士に馴染みのある中小企業庁方式が控除法で加算法というのは日銀方式や日経新聞方式などがあるんです」

「へえー。付加価値って計算できるんだ。結構、感覚的なモンだろうと思ってたんだけどなあ」

「そこで、さっきの生産性の話につながるんですがね。分析の世界では、大きく資本生産性と労働生産性に分けられるんです」

「資本生産性ねえ。そういえば、資本に対する付加価値とかって言ってたヤツだね。するってえと、労働生産性とは労務費に対する付加価値ってことかな」

「惜しい!資本生産性はその通りです。

・資本生産性=付加価値/総資本

が一般的です。ただ、総資本とすると業種業態によって大きく変わってくるので、総資本を有形固定資産として計算するやり方もあるようです。

そして、労働生産性ですが、これは、実は、従業員数で割るんです。つまり、従業員一人あたりの付加価値と言うことになります。

・労働生産性=付加価値/平均従業員数

となります」

「なーるほどね。ところで、付加価値自体の計算ってのはどうやるんだい?」

「あ、そうでしたね。我々に馴染みの控除式で細かいことを抜きにして、ザクッというと『売上高から外部購入価値を控除する』ということになります。外部購入価値というのは、製造業などだと分かりやすいですね。原材料費、部品費、外注費など外部に発注して購入するものと考えればいいでしょう」

「外部購入価値ってのは、わかるような気がするけど、すると他のものが付加価値ということになるわけだよね。具体的には?」

「そうですねえ。加算法の方が分かりやすかったかもしれませんね。日銀方式だと

付加価値額=経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費

となってます。当然、利益は付加価値ですが、人件費や税金も付加価値です」

「なーるほど。それならわかるよ。税金を払うのも付加価値ということだもんな。おっと、店に入る早々、こんな話で、ジンさんがまだ飲んでなかったんだ。亜海、速攻でビール頼むよ。もちろん、こっちにつけとけよ」

「はーい。生一丁、お待ち遠様」

「ははは、いきなり大森さんと難しい話を始めるなんて、みやびも変わってきたなあ」

「じゃあ、大森さんのお言葉に甘えて、いただきます」

(続く)


《1Point》
 生産性分析の話が途中ですが、次回に先送りします。

 今日は、付加価値の部分を覚えてください。公式は覚える必要はありませんが、各方式で、何を付加価値としているか、を考えながら眺めてみてください。

 私はもちろん中小企業庁方式を覚えたのですが、以下に並べるため、WEBを検索し、新日本有限責任監査法人のページも参考にさせていただきました。
http://bit.ly/1kUoaIH

・中小企業庁方式
付加価値=売上高-外部購入価値(材料費、購入部品費、運送費、外注加工費など)

・経済産業省工業統計
付加価値額=製造品出荷額等+(製造品年末在庫額-製造品年初在庫額)+(半製品及び仕掛品年末価額-半製品及び仕掛品年初価額)-(消費税を除く内国消費税額+推計消費税額)-原材料使用額等-減価償却額

・財務省方式
付加価値額=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益

→営業純益=営業利益-支払利息等

・日本銀行方式
付加価値額=経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費

・日本経済新聞社方式
粗付加価値=人件費+賃借料+支払特許料+減価償却実施額+純金利負担+利払後事業利益

→利払後事業利益=営業利益+受取利息・割引料・有価証券利息+受取配当金-支払利息・割引料