居酒屋で経営知識

42.生産性分析

(前回まで:財務諸表分析のうち、生産性を考える前段として付加価値について説明しました)

【復習】
・付加価値とは?→企業活動の結果生み出された成果を言う。
 *利益だけではなく、人件費等も付加価値であることがポイントです。

 付加価値の話をしていると大将が一升瓶を大切そうに抱えてやってきた。
 
「さあ、ジンさん、鳶野さん、由美っペの家庭教師代に一杯おごりますよ。長野の大吟醸古酒なんですがね」

「うわー。大将、ありがとうございます。日本酒の古酒を飲むのも久しぶりだなあ」

「お、ジンが喜んでいるってことは良い酒なんだな。大将、俺にもよろしくお願いしますよ」

 大振りのショットグラスに注がれた酒は見るからにトローっとしている。

「なんと言うんだろう。濃厚な舌触りで複雑な味なんだけど、喉元でスーッと吸い込まれていく感じだね。八星霜、か。良い古酒ですねえ」

「ジンの言うとおり日本酒とは思えないなあ。軽いブランデーとでも言うのか。古酒と言うことだと、手間暇かかってるんだろうなあ」

「ジンさん、鳶野さん。信州旅行へ行ったお客さんが、上田でたまたま飲んで感激して買ってきてくれたんですよ。8年古酒ですね」

「8年か。この時間と手間が付加価値だね。そうだ、由美ちゃん。簡単に考えれば、手間暇が企業の付加価値を産んでいると考えておけばいいかもね」

「そう言うことなのね。付加価値を加える活動が企業活動って言ってたわよね」

「そう言うこと。大将、頭が冴えるようにもう一杯おねだりしてもいいですか?」

「もちろんですよ。鳶野さんもいかがですか」

 古酒の余韻に浸りながら、今日の講義もそろそろ締めになるかなと考えていた。
 
「元気が出てきたんで、さっそく生産性分析を説明するね」

 2人が生徒の顔に戻った。
 
「生産性は一般に、労働生産性と資本生産性で見ることができる。簡単に言うと、労働生産性は従業員一人あたりの付加価値額で、資本生産性は設備あたりの付加価値額だね」

「ここで、付加価値が重要って訳なのね。企業の目的は付加価値を産み出すことだけど、生産性を上げていかないと利益が出てこないと考えるのよね・・・」

「由美ちゃん、こう考えてみようよ。元々付加価値額の中に含まれているのは何だった?」

「ええっと、人件費は入っているわよね。それと、材料費なんかは入らないけど、設備費は付加価値額になるの?」

「設備投資によって新たな価値を産み出すことになるので付加価値として見ることになるね。そこで、一歩下がってみると、付加価値額に含まれている人や設備で付加価値総額を割るということだから、人とモノが付加価値を産む源泉だと言い直しているようなものだ」

「なるほどな。でも待てよ。最近の生産現場じゃ、どんどん人が減って、ロボットなんかに置き換わっているっていうじゃないか。そうすると、労働生産性は上がって、資本生産性は下がる方向にあるんじゃないか」

「そこまで考えられれば合格だな。念のため公式を言っておくと、

・労働生産性=付加価値額/平均従業員数
・資本生産性=付加価値額/有形固定資産

となるね。
雄二が言ったように、労働生産性と資本生産性はトレードオフの関係があると言われている。人を減らした分、設備を増やすんだからね。ただ、一般的に言って、人件費は雇っている限り常に発生するけど、設備はメンテナンスはかかるにしても、1回購入すればずっと働いてくれるから長く使えば生産性は上がってくることになるよね」

「そうなると、どんどん人が働かないでロボットが働くようになってしまうわね」

「由美ちゃん。でも現実はそうでもないみたいだよ。生産の現場での人は減るけど、間接的な管理部門が増えていたり、メンテナンス要員が増えていると言われている。企業が継続するためには、新しい事業を考えたり、マーケティングするためにより一層ヒトの頭脳が必要になるからね」

「うーん、そうすると、労働はロボットに任せて、人間は遊んで暮らすという未来予想図は夢なのか・・・」

「たぶん、夢じゃないか。人間は遊んで暮らすことはできないようになっていると思うよ。必ず、現状では満足できなくて上を目指す人たちが出てくる。ロボットがマーケティングやイノベーションをするようになってくるとは思えないしね」

「ま、働かざる者食うべからずだし、働かずに酒だけ飲んでいても、うまいとは思えないだろうな」

「間違いない」

(続く)

《1Point》
生産性分析

 ・労働生産性=付加価値額/平均従業員数
 ・資本生産性=付加価値額/有形固定資産

 トレードオフの関係があると説明していますが、要は両方チェックしてバランスを検討するという使い方になるのでしょう。
 
 労働生産性を上げるときの現実のポイントは、付加価値をほとんど産まない間接部門をアウトソーシングすることで、経営資源を集中させるという方向にあると思います。
 
 これからは、設備投資で付加価値を産むと言うより、強みに投入される優秀な人材の「能力」が重要になる社会になるでしょう。

(41)付加価値額