居酒屋で経営知識

(90):企業の目的

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい、いらっしゃい。毎度」

「大将、今日も寒いですね。鍋日和ですよ」

「ジンさん、もちろんですよ。いつも以上に出汁を取ってますから、いくらでも注文してください」

「さすがにいつも以上には食べられませんがね」

「ジンさん、はい、生ビールお待ち遠様。ちなみにジンさん、マスターが、天気や近所の企業の飲み会のタイミングを調べて仕入れを変えていくのは、マーケティングですよね」

「おいおい、亜海。マーケティングなんて大そうなことことなんてしてないよ。ほとんど勘だよ」

「大将。亜海ちゃんの言うように、歴としたマーケティングですね」

「ほーらね。たぶん、市場を分析して考えることがマーケティングなのね」

「亜海ちゃん。半分は当たりだけどね」

「え?あと半分は何?」

「じゃあ、まずは、企業の目的から考えようか。みやびも企業と考えていいよ。さあ、企業の目的とはなんでしょうか」

「それは、えーと。そうね。製品やサービスを売って、利益を出すことよね。利益が出れば、人をたくさん雇ったり、新しい製品を開発したりできるものね」

「なるほど。じゃあ、利益というのはどうすれば出るんだろう」

「それは、安く作って、それなりに高く売るということでしょ。みやびでも、魚や野菜を安く買って、魅力的なメニューにして出せば高くても注文してくれるから利益が出るわ」

「亜海。俺は、自分の店を利益のためにやってるつもりはないよ。利益が出なくても、お客さんの喜ぶ顔を考えればやっていける。もちろん、借金ばかりになってしまったら続けられないから、それなりの粗利は必要だけどね」

「マスター、ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないの。この店は特別だって思うの」

「亜海ちゃん。みやびが特別だって考えていては、答えは出ないよ。みやびのように、大将が全体を把握していて、だいたい、どの程度の売り上げがあれば、仕入れや亜海ちゃんのバイト料、店のテナント料なんかを払えるかわかるからいいけど、大きな企業になってくると簡単にはいかない」

「うん、それはわかるわ。でも、利益を出さなければ、潰れてしまうから、安く仕入れて高く売るということになるんじゃないかしら」

「利益というのは、まず第一にお客さんが買ってくれなければ産まれない。利益を目的としてしまうと、企業は誰でもなんでも儲かることを探すだけの機関になってしまうから、いいものや新しいものをお客さんのために開発するなんて考えは無くなってしまわないかい?」

「うーん。そう言われればそうね。詐欺商法とかしないまでも、すれすれのことを考えそうね」

「ドラッカーは、企業の目的について、こう言っている。

企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。』(P46)

つまり、企業というのは、人の不満や欲求を見つけて、それを解消したり充足させたりする製品やサービスを提案する。それを知った人が、欲しいと思うことで市場が生まれ、買うという行為につながることで、顧客となるんだと思う。つまり、企業は、そんな顧客を創造することで社会に必要とされ、その対価として、売り上げと利益が得られるんだ。つまり、利益というのは、顧客によって生み出されるので、企業の中で生み出されるわけではないということだね」

「ちょっと、難しいけど、こういうことかなあ。利益は顧客がくれるものなので、その顧客を得ることが目的にならなければいけないという感じ?」

「その考えでいいと思うな。つまり、企業の目的が顧客の創造であると考えれば、次に企業は、その顧客に対し、魅力ある製品やサービスを提供し続け、また、顧客を増やしていくために活動する機能が必要になってくる。それを、マーケティングと呼んでいいと思うよ」

「でもそれなら、さっき言った市場調査をすることでいいんじゃない?」

「もちろん市場調査は重要だよ。ただ、調査をして、その結果に従って売るだけではマーケティングとは言えないんだ。たとえば、この間のシアーズ物語であったけど、地方に散らばっている農民は、当時自動車もなく、店舗に出向いて買い物をするのが困難だというところに目をつけたよね。この時、通常の市場調査をすると、農民を顧客として考えることはせず、人が集まり、より多くの需要がある都市部をターゲットとするという結論になってしまう。ところが、顧客の創造を目的として認識している企業は、シアーズのように、どうしたら彼らを顧客とできるかを考え、カタログ販売や返金サービスを考えて、実行したよね。これが、本来のマーケティングなんだ」

「それで、企業の目的が重要だったのね。そうか。マーケティングっていうのは、単純に市場調査をするだけじゃなく、目的を達成するための方法まで考えるということなのね」

「そういう意味でいうと、マーケティングとは、『顧客の観点から見た全事業である』(P49)ということになるんだ」

(続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
ンド社を読み直しながら、進めています。
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 マーケティングとイノベーションを一緒に述べなければいけないと思いながらも、マーケティングについてだけで、話が長くなりそうだったので、止めました。

 同書P48において、サイラス・マコーミックという人を、『マネジメントの父』と称していることに気づきました。

 マネジメントの父と言われるドラッカーが言うのでどんな人かと調べてみましたが、ドラッカーが書いている通り刈り取り機を発明した人くらいしかありませんでした。

 しかし、彼は、割賦販売によって、刈り取り機を変えなかった農民たちも買えるようになったということで、マーケティングとイノベーションを行った人であることをドラッカーは看破したのです。