居酒屋で経営知識

45.長期安全性分析

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 由美ちゃんと財務諸表分析の話で盛り上がっています。短期安全性分析では、流動比率や当座比率が出ていましたね。

「短期安全性の話をしたら、やっぱり長期安全性も整理しないとね」

「この辺は実務でやってる由美ちゃんの復習で大丈夫だろ」

「一応はね。長期と言えば、流動比率に対して固定比率ってことよね」

「もちろん。固定比率の意味はわかるよね」

「公式としては、

・固定比率(%)=(固定資産/純資産)×100

だったから、要は設備投資などの長期に亘って使っていく資産がどの程度、自分で賄っているかということよね」

「そういうことだね。固定資産というのは、製造業などでは大きくなるけど、土地や工場設備などだから、それを売って短期的に資金を回収するなどを前提にしていないよね。それらを長期間使うことで、事業を行って収益を上げるのだから、理想としては、自己資金で賄っている状態がいいと言える」

「100%以下が理想ってことね」

「そういうことだけど、なかなかそんな理想的な会社は多くないのも事実だよね。工場を作って事業を立ち上げる初期投資だけじゃなく、新しいニーズに応えたり、事業を拡大するのにも固定資産の増加は避けられない。そんな場合、会社はどうするだろう」

「増資をするか、借入をするか、よね。増資をして設備投資をするなら、固定比率は100%を超えずに済む訳ね」

「そうは言っても、増資をするというのは非常に大変だし、うまくいくとは限らない。むやみに増資をすると、株価が急落することも考えられるから、既存の株主が反対する可能性もある。そこで、次に検討するのが社債の発行、銀行等からの借入ということになるね」

「そうすると、固定比率は100%を超えてしまうかもしれないわね」

「そういうことだね。でも、実際には製造業などではその方が多いと思うよ。そこで、次に考えるのは、固定資産は、長期に亘って使っていくことで収益を生み出す元だから、社債や長期借入金などの固定負債から支払うことが重要だよね。そこで、純資産に固定負債を含めて分析するのが、固定長期適合率なんだ。これは覚えている?」

「そうだったわ。ちょっと覚えづらい用語だったのでなんども引っかかったわ。ええっと、

・固定長期適合率(%)={固定資産/(固定負債+純資産)}×100

だったわね。
これなら、100%は超えないということね」

「もちろんそうだね。80%程度が目安だと言われる。ただし、当然、100%を超えている企業もある。その場合は、一時的なものかどうかが重要だ。継続して100%を超えていると言うことは、非常に危険な状態だと思うからね。まさしく自転車操業をしている状態と言えるだろうね」

「あら?よく考えると、流動比率は、流動資産と流動負債を使っているから、固定長期適合率を合わせると貸借対照表を網羅しているってことかしら」

「いいところに気づいたね。細かく言えば、資産の部に繰延資産があるので、それが外れるけど、繰延資産はほとんどの場合無視していいから、横に二つに切った指標とも言えるね。ということは、どうなるかわかる?」

「ええっと。流動比率が100%を超えれば、流動資産より流動負債が小さくなるわよね。そうすると、全体としては、自動的に(純資産+固定負債)が固定資産より大きくなるわ。対応しているのね」

「そういうこと。流動比率と固定長期適合率は、どちらかがいいと両方いいというのが簡易的な判定になるわけ」

「短期安全性と長期安全性だから、違うと思ったけど、そうでも無いのね」

「もちろん、長期安全性としては、固定比率が良いことが第一条件だよ。その固定比率が低い場合、その補てんとして安定した長期借入金で賄えているかどうかということを見る必要があるということだね。ただし、長期と言っても、返済が1年と少しで一気に来る場合は、借り換えなどの対応が必要になるので、長期借入金の内容もよく整理する必要があると言う訳だね」

「やっぱり、単純では無いってことね」

「長期安定性を考えたので、古酒でも飲もうか?」

「そういえば、叔父さんが昔隠してたお酒ね」

「おい、由美っペ。聞こえたぞ。隠しておいたとは人聞きの悪い。暗がりで熟成させていたんだ」

「で、大将。その古酒は、今あります」

「まあ、ジンさんには隠せないですからね。でも、古酒として販売されているのがありますから、そちらをどうですか?」

「もしかすると、信州の八星霜ですか」

「あ、ジンさん、大正解。そういえば、前に話に出ましたよね。それで、蔵元を探して取り寄せたんでした」

「ええ。昔、上田に泊まった時に偶然入った店で見つけて、日本酒への考え方が変わったんで、随分大将にお願いしたんですよ」

「それじゃ、ちょっと高いですが、ドンと行きましょう」

「大将。ドンと出すのは私ですよね・・・」

「もちろんですよ。毎度ありー」

(続く)


《1Point》
・固定比率(%)=(固定資産/純資産)×100

・固定長期適合率(%)={固定資産/(固定負債+純資産)}×100

【改善策の具体的な例】
 これは、改善策というより固定資産投資について、しっかり前検討することが重要でしょう。
 事業の要でもある業種にとっては、金額だけで無く、能力やメンテナンスも含めて長期的に考えることです。

 もちろん、事業が変化していく過程で、遊休化した土地や建物・設備などの売却等を行うことで、改善は可能です。