居酒屋で経営知識

47.生産性分析(労働生産性)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「うまい!暖かくなってくるとビールが一段とうまくなりますねえ」

「ジンさん。もしかすると、おごりだから余計うまいとか」

「あ、それもあるかも。ごちそうさまです」

 大森さんに最初の一杯をおごってもらったのだ。

「いやー、いきなり付加価値の説明なんてやらせちまってすまなかったね。これで、のどの渇きも落ち着いたろう。で、その労働生産性だけど、従業員数当たりの計算だって言ってたね。割と簡単に考えるんだね」

「やっぱり、付加価値を生み出す最大の力は労働力ですからね。一人当たりどのくらい付加価値を生むかと見てみれば、業種が違っても生産性の指標としてはわかりやすいですよね」

「そりゃ間違いないね。ってことは、従業員を増やしても付加価値が増えなければ生産性の源泉が従業員ではないと考えるのかね」

「その辺は、単純に考えるわけにはいきませんよ。たとえば、新入社員を増やしても、短期的には見習いですから、生産性に寄与しませんから」

「そりゃそうだ。そうすると、労働生産性の面で改善を考えると付加価値を増やすのが一番というわけだな。そのためには、えーっと、利益を増やす・・・結局、売上かあ!」

「大森さん。生産性を上げるわけですから、人やモノの投入に対し、アウトプットが増える必要があります。ただ、そのアウトプットの中身は付加価値の各項目となるわけですから、どこに重点を置くかというのは経営判断でもあります。たとえば、人を増やすことで利益が多少減っても、付加価値には従業員の労務費も入っているわけですから直接に付加価値自体の減少にはつながらないと考えることができます」

「なるほど。人を多く雇えることは、付加価値が高い事業を行っていることでもあるわけだな」

「そういうことです。現在の経営環境では、利益を伴って売り上げを上げるのは簡単ではないですから、より効果の高い部門へ人を動かしてまさに労働生産性を上げる対応が重要です。そして、さらに、外部購入価値を減らして内製化することでも付加価値を増やすことにつながりますよね」

「そうかそうか。中小企業庁方式だったね。売上高から外部購入価値を控除することで付加価値を出していたね」

「そういうことです。外注費用のコストダウン自体でもいいですが、技術的に問題なければ、外部に出している部分を内部でやるのも一つの選択肢です」

「そうなのか。でも、アウトソーシングが効率化につながるという話もあったような気がするが」

「あ、そこが重要です。アウトソーシングする業務とアウトソーシングしてはいけない業務があります。それをよく検討しなければいけません。アウトソーシングする業務というのは、他社と差別化できない、言い方を変えるとどこでやっても同じ効果・結果となるようなものは積極的にアウトソーシングして、その部門は人員削減をすることになります。逆に、差別化の源泉となる部門や人材を増やし、もし、外部化してしまっているなら内製化することで高い利益と売上が期待できます。つまり、そこが、経営の判断すべき生産性向上戦略となります」

「なーるほど。経営判断が重要だって話だね。うちも、安易に人を増やすんではなく、生産性を向上させる方策を考えなければいけないわけだ。やっぱり、ジンさんに考えてもらわないと難しいなあ。経営をアウトソーシングしようかな」

「大森さん。そこは、すべてのコアですよ。間違ってもアウトソーシングできないのは、経営判断です。今の大森商店が頑張っているのは大森さんの経営が素晴らしいからです。付加価値も高い状態ですからね」

「ジンさん。すまない。そんな怒った顔をされるとつらいよ。もちろん、アドバイスはもらうけど、判断は自分でやるよ」

「怒ったわけじゃないですよ。ビックリしたんです。もちろん、冗談なのに私の方こそ申し訳ありませんでした」

「いやいや。これじゃあ、もう一杯おごらせてくれよ」

「さすが大森さんだね。でも、ジンさんにここまで話させたんだから仕方がないよね」

「黒さん。でも、結局付加価値が高まっているのはみやびじゃないか」

「そりゃ、そのためにこの空間と酒・肴を提供しているんですよ」

(続く)


《1Point》
 気づいた方もいるかもしれませんが、労働生産性の考え方は、コアコンピタンス経営につながると思います。

 自社のコアコンピタンスをアウトソースしてしまわないように気を付けましょう。

・労働生産性=付加価値/平均従業員数