居酒屋で経営知識

42.収益性分析(回転率)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「収益性分析って総資本経常利益率とその分解だけじゃなかったよな」

 雄二が鍋の中の具を丁寧にすくいながら思い出したように話し出した。

「そうだなあ。回転率もよく使われるな」

「なるほど、回転率ってのもいろいろあったな。ところでなんだったっけ?」

「そうだなあ。売上債権回転率と棚卸資産回転率が定番かな」

「売上債権って言うと売掛金と受取手形くらいか。それで売上高を割るという考え方だな」

「そう。

売上債権回転率(回)=売上高/売上債権

ということになる。
売上高が増加していても、売上債権が同じように増加していると資金繰りが厳しくなってしまうだろう。つまり、キャッシュフローが悪くなる原因の一つだな」

「要は支払い条件で不利なんだろうな」

「一番の問題はそこだろうな。取引先との力関係がどうしてもそこに出てしまうだろ。同業他社とこの指標を比較して、改善策が必要かどうか判断することも必要だろうな」

「売掛金の方か、手形かによっても対応の仕方が違うだろう」

「それをみるなら、売上債権をそれぞれ売掛金、受取手形にして比較するのも手法としてある。売掛金の場合、請求を忘れたり、入金のチェックをあまりしていないで、相手が支払いを忘れることもある。売掛金回転率が悪いなら、元々の条件とともに、売掛金の管理体制を改善する必要もあるだろう」

「受取手形は最近減ってきたけど、同じだな。棚卸資産回転率も収益性分析ということか。これも、式としてはこうだよな

棚卸資産回転率(回)=売上高/棚卸資産」

「棚卸資産というと、在庫もそうだし、仕掛品や半製品も含まれるだろ。見込み生産の企業や小売業では、在庫をどの程度持つかという戦略にも関わるので、簡単ではない。回転率を改善するには、在庫を必要最小限にする、製造から出荷までのリードタイムを短縮する、小売業などでは、納品から陳列までのリードタイムを短縮するなどが考えられる」

「なるほど。収益性って言っても、業種業態や戦略によってみる内容が変わってくる訳だ」

「まあ、こういう分析って言うのは、どんな指標を見るにせよ、方針一つで変わってくるので、慎重に扱う必要はあるよな」

「こんな指標を出されると、割と簡単に信じてしまうんだよな。気をつけなくては」

「うん。そう謙虚に考えていれば大丈夫だ」

「よっしゃ。謙虚に雑炊にでもするか」

「意味がわからんが、賛成」

(続く)


《1Point》
・売上債権回転率(回)=売上高/売上債権

 売上債権回転率が悪化した原因を追求するためにもっと細分化してみることも重要です。
 
 受取手形回転率(回)=売上高/受取手形
 売掛金回転率(回)=売上高/売掛金
 
 改善点はどこにあるのかを見つけ出すことが可能となります。

【改善策の具体的な例】
 売上債権回転率の改善策には、次のようなものがあります。

①管理強化:支払い期日の把握、遅れに対する催促など売上債権の管理を強化する。
②与信管理:同じ取引先で売上債権の偏りがないよう、与信管理を強化する。
③条件交渉:支払い期間の短縮など決済条件の変更をする。

ただし、売上債権の回収をゆっくりにすることは顧客にとってはメリットがありますので、あえて支払期日を遅めにして顧客拡大を図るという戦略を採用する場合もあります。

・棚卸資産回転率(回)=売上高/棚卸資産

 棚卸資産回転率が下がっているときは要注意です。利益は上がっていても、実は棚卸資産の増加で見かけ上の利益でしかないことがありえます。

【改善策の具体的な例】
①企業の戦略上の優先度と商品ごとの利益率を考えて在庫管理する。
②製造、出荷、販売までのリードタイムを短縮する。