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居酒屋で経営知識

43.安全性分析(流動比率)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度!」

「大将。角の児童公園の梅が咲いてますね」

「今年は雪も多くてどうなるかと思いましたが、一気に咲き出しましたね」

「春ですね。早いなあ」

「ホントですよね。去年の花見の頃が数ヶ月前の気がしますよ」

「大将。この間は四季桜を飲んじゃいましたが、せっかくなので梅がつくお酒ありますか?」

「そういえば、雪中梅がありますよ。純米は未だ入ってないので、本醸造です」

「いいですねえ。いつものぬる燗でお願いします」

「はいよ。おや、由美っペ。ジンさん、来てるよ」

「良かった。急にお酒が飲みたくなっちゃって」

「由美ちゃん。ちょうど雪中梅のぬる燗を頼んだところだよ」

「すごーい。だってね、さっき、梅が咲いてるのを見て、お燗したお酒が飲みたくなったの」

「やっぱり、正真正銘の酒好きになったよ。俺も、角の公園で梅を見ながらやってきたんだ」

「いいわよねえ。春になるって、やっぱりパワーがあふれてくる感じがするわよね」

「それは言えるね」

 ちろりに注がれた雪中梅がいい頃合いになるのを待ちながら春談義に花が咲いたようだ。

「はい、お待ち遠様」

「じゃ、春のパワーに乾杯」

「おいしい!」

「ブリ大根とどうぞ」

「最高!」

 春の味に酔いながら由美ちゃんと居心地のいい夜を過ごしているなあ。

「さっき、大将と1年が早いねえって話していたんだよ。歳のせいかなあ」

「歳のせいだけじゃなくて、1年ってそんなに長くないのかも。ほら、財務諸表分析の短期安全性分析に使うのは流動比率でしょ。流動資産と流動負債って、1年以内に資金化できるとか、1年以内に返済するっていうくらいだもの。1年は短期よね」

「いきなり会社の話になったね。確かに、短期経営計画っていうのもまあ1年先くらいまでだからね」

「ジンさん。実は今、流動比率の話を思いついたのは、仕事で他社分析をしているせいなの」

「なーるほど。それで安全性分析なんて出てきたんだ」

「えへへ。ついでだから教えてほしいの。流動比率って、安全性分析のメイン指標で、短期借入金の返済能力を見るものよね。だから、安定していて、利益を上げている会社がドンと高くて、不安定な中小企業が低いのかと思っていたの。でも、全然違うの。どうしてかしら」

「たとえば?」

「トヨタ自動車なんて、前年度見たら109%しかないの。日産自動車で、160%くらいだし、バラバラね」

「なるほど。やっぱり単純じゃないんだよね。一般的には、日本では150%くらいあればいいといわれるし、欧米では200%といわれているけど、何%あれば安心とは言い切れないんだ」

「それじゃ、安全性分析にならないわよね」

「確かに。じゃあ、流動比率が高くても短期支払い能力や資金繰りに結びつかない、つまり安全性が低い場合というのはどんな状況か考えてみよう。

まずは、流動資産の中身だね。

基本的に流動資産というのは、1年以内に資金化されうる資産だけど、実際に資金化されるとは限らない場合もあるんだ。流動資産にはどんなものがあった?」

「現金・預金と売上債権、それと棚卸資産だったわね。その他としては、短期貸付金とか前払金ね」

「そうだね。それらを合算して流動負債に較べてどのくらいあるかを見る訳だけど、流動資産の中には必ずしも1年以内に資金化されるとは限らないものが入っていて、それが多くなると見かけ上と実態が大きく異なることがある」

「あ、もしかすると在庫ね。在庫が積み上がってくると見かけ上の流動資産が大きくなるわ。そして、その在庫が単なる売れ残りだと大変だわ」

「そういうことなんだ。その他には仮払いや短期貸付のはずが、ズルズルと延びることもあり得るだろう。

次に、流動負債について、あり得る話というと中小企業などで、信用力が低いと現金取引せざるをえない場合、流動負債が極端に低くなることになるから、結果的に流動比率だけは高くなるよね」

「売れない在庫がたくさんあって、結果的に現金商売だとものすごく高くなるかもしれないわね」

「流動資産といいながらも、現金化が遅い企業では、流動比率が高くても資金繰りが苦しくなってしまうこともあるし、逆に、小売店や飲食店など日銭が入ってくる業種だと流動比率が100%を切っていても全く問題ないことも考えられる」

「これだけで評価するのは危険ってことね」

「そうだなあ。流動比率を一番重視しているのは銀行かもしれない」

「どういうこと?」

「流動資産というのは換金価値とも言えるので、会社を清算した時を考えるとこれが高い方が安心って考えるんじゃないだろうか」

「なるほど。そうかもしれないわね」

「さあ、雪中梅が冷や酒になる前にお代わりしよう」

「あ、ごめんなさい。ありがとう」

(続く)


《1Point》
・流動比率(%)=(流動資産/流動負債)×100

 話の中であったようになかなかこれだけで安全性を測るのは難しいと思います。

 特に、棚卸資産がすぐに資金化されるかどうかが大きい場合が多いようです。そのため、もう一つの短期安全性分析の指標として当座比率というのがあります。

 これは、次回としたいと思います。

【改善策の具体的な例】
 
(1)固定資産を減少させ流動資産を増加させる
 事業に使用していない遊休資産を売却し現金化することは効果的な改善案です。

(2)固定負債を増加させ流動資産を増加させる
流動資産を増加させるためには、長期借入金や社債の発行をすれば、流動資産の現金及び預金が増加します。
しかし、返済までの期間内にその他の改善方法を実行する必要があります。

(3)資本を増加させ流動資産を増加させる
増資によって現金を調達し、流動資産を増加させる方法があります。
しかし、利益が獲得できないときには、自己資本の増加により、株主資本利益率(ROE;Return on Equity) が低下します。

*業界平均流動比率ランキングというページを見つけました。
この企業の信用度は知りませんが、参考にリンクを貼っておきます。→http://bit.ly/1ehWtkd