居酒屋で経営知識
41.収益性分析の基本
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度!」
「さすが、大将。店の前には全く雪の気配がありませんね」
「ジンさん、わかってくれてうれしいですよ。結構苦労しました」
「週末の大雪には驚きましたね。日陰などはまだまだ残っているのも仕方が無いですが」
「いらっしゃい。鳶野さんも一緒でしたか」
「ん?ジンも来たところか。偶然だけどね」
「まあ、寒いですからこちらへどうぞ」
東京にも大雪が降り、まだあちらこちらになごりが残っているためか、より寒い気がする。
「雄二、この寒さだ。熱燗で始めるか?」
「御意。もちろんだとも」
「大将、キクマサの熱燗と煮込みよろしく」
「はいよ」
「ところでジン。収益性分析をしたいんだが、売上経常利益率くらいでよかったんだっけか?」
「おいおい。診断士の資格を持っているはずじゃあなかったのか?」
「一通りは当然勉強したが、実際に企業診断しようとすると知ってるだけじゃ無理だ」
「実務補習は?」
「もちろんやったさ。その報告書もあるが、確か面倒な財務諸表分析は、同じチームの一番真面目そうな奴に専属でやらせたんで覚えていないんだ」
「まったく。状況がわからんが、基本の基本というなら、まずは総資本経常利益率からみていった方がいいだろう」
「総資本経常利益率か。そういえば、そこから売上経常利益率と総資本回転率に分解していったんだった」
「思い出してきたようだな。とりあえず、公式を思い出してみてくれ」
「よっしゃ。頭が回転してきた。
総資本経常利益率(%)=(経常利益/総資本)×100
これに売上高を使って分解すると、
(経常利益/売上高)×(売上高/総資本)×100
それぞれが、
(経常利益/売上高)×100=売上高経常利益率(%)
(売上高/総資本)=総資本回転率(回)
ということだったよな」
「さすがに覚えているな。まずはそれを計算して、時系列で分析するのか、同業他社分析をするのかはわからないが、後は、どういう視点で改善していくかという経営判断になるだろうな」
「ちょうど熱燗も来たし、その改善の仕方を教えてくれ。さあ、乾杯。おおー、良い塩梅の熱燗だね、さすが大将」
「本気で聞いているのかどうか怪しくなってきたな。でも、やっぱり熱燗だなあ。うまい」
「そうだろう。この季節になると日本人で良かったなあと思うよ。話は本気で聞いているんで、その改善の方法を頼むよ」
「そのために分解しているんだということだ。売上高経常利益率と総資本回転率のどちらをどの程度重視して改善するかは、業種や業態、自社の方針によっても変わってくるので一概には言えない。たとえば、高級ブランド品を扱う場合は、利益率を重視することになるが、ディスカウント店では、利益率自体は低い商品を扱うので、店舗など固定資産にコストをかけず、回転率を重視することになる、というように考えていくんだ」
「なるほどなあ。少し前までは、景気の先行きが見えづらかったので、売上経常利益率を改善するのは難しかったところが多かった。それで、遊休資産の土地や建物を売却して総資本を減少させることで、総資本回転率を上げて、全体的な総資本経常利益率を改善したと言う分析になる訳だ。人件費の削減などは売上高経常利益の改善につながるということか」
「全体的な分析としてはいいところを突いているだろうな。今は、景気の先行きに明るさが見えるから、利益率の高い商品を扱ったり、店舗に高級感を持たせて来客率を上げるなど、どちらから攻めるかの判断の見せ所だろうな」
「よっしゃ。見えてきたよ。ありがとう。さあ、熱燗のお代わりとちゃんこ鍋といこうか?」
「さすがに飲み込みが早くなったな。頭を使うのは終了で、飲むか」
「大将、熱燗二本とちゃんこの用意をよろしく」
「はいよ」
(続く)
《1Point》
・総資本経常利益率
財務諸表分析のうちの収益性分析の基本指標です。
貸借対照表の総合計である総資本額と損益計算書の経常利益を使って収益性を測定します。
・総資本経常利益率(%)=(経常利益/総資本)×100
収益性の総合的な指標と見ることができますので、まずは、この指標を計算して、経年比較や他社比較を行います。
また、この式を分解して、
総資本経常利益率=(経常利益/売上高)×(売上高/総資本)×100
1)(経常利益/売上高)×100=売上高経常利益率(%)
2)(売上高/総資本)=総資本回転率(回)
の二つの指標にして分析をすることで、改善策を具体的に検討することが可能となります。
*総資本は通常期末時点の額を使用しますが、期首と期末で大きく変わっている場合などは、(期首+期末)÷2で出した平均額を使用することがあります。試験においては指定などに注意ください。
【改善策の具体的な例】
会話の中でも出てきますが、改善策の代表的なものは以下の3つが考えられます。
・新規設備投資
新製品を投入したり、生産性の向上を目指して投資を行い、売上高を上げる・費用の削減を行うことを目指します。
・人件費の削減
費用の削減として正社員を削減することが良くありますね。最近は、正社員をパート、アルバイトなどの置き換えることも良くあります。もちろん、それが、社員のモチベーション低下や能率やサービスレベルの低下など経営に対する大きなリスクを抱えていることを忘れてはいけませんね。
・遊休資産の売却
遊休なので売ってしまえばいいという考えもありますが、将来規模を拡大しようとする時に必要となる可能性もあります。また、時価が下がっていれば損失となります。
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