居酒屋で経営知識
40.営業力とは
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度!」
「やっときたな。もう、2杯目に入ったぞ」
「すまん、すまん。仕事は予定通り終わったんだけど、行った会社の社長と雑談が長引いてしまったんだ」
「ジンさん。やっぱり営業って大変ね」
「ジンは、売上に関係ないところで客に好かれているからな」
雄二から声がかかって、由美ちゃんと3人での宴会だったのだ。
「とにかく、飲もうや。亜海、クイック!」
「はーい。おまちどおさまー」
「じゃあ、遅くなって申し訳ない。改めて、乾杯!」
「3人で飲むのって久しぶりね」
「そうなんだ。俺の知らないところで、新たな企みが進んでないかどうか心配になって声をかけたんだ」
「なにを企てるって言うんだ。こっちは、国内需要が伸び出して結構忙しくしてるんだ」
「ジンさんの会社もそうなのね。こんな時の営業って大変だものね」
「ジンのように無駄話ばかりしている営業が成績がいいってのは、やっぱり経営者の弱点を掴んでいるから売りつけられるってことだろうな。うちの営業にもコツを教えてもらいたいもんだ。最近、製品の不具合が多くてクレーム処理ばっかりしているんだ」
「そういえば、雄二の会社にやり手営業マンが入ったらしいと言ってたな」
「そうなんだ。百戦錬磨みたいだな。この間ははっきり言われてしまったよ。『社長。今のままでは製品力では売れません。壊れても致命的なクレームにならないような相手に売る営業力をつけて見せます』って言うんだ。相手の危機感をあおって、あまり使わないものでも売りつける話術に長けているようなんだよな。確かに、クレーム品でもいつの間にか契約を取ってるみたいなんだ。クレーム対応品の完成が遅れているので助かってはいるんだが」
「雄二。今の話はそのまま聞いている訳にはいかんぞ。営業力をはき違えているし、お前の会社は顧客の満足をミッションとしているんじゃなかったのか。経営者として放置してはダメだ」
「ん、ん・・・やっぱりそうだな。実は、クレーム品をそのまま契約した客にクレーム対応品が完成するまで待ってもらうように指示すべきか悩んでいたんだ」
「やるべきことはわかっているよな。本当の営業とは何かをすぐに示さないと社内が大混乱する」
「なんか、大変なことになってしまったわね。でも、良い悪いは別にして、契約を取ってしまうって言うのはすごい営業力ね」
「由美ちゃん。そんなのは営業力じゃないよ。個人的な話術で相手をだますのは詐欺力でしかない。営業というのは業を営むことであって、事業全体の推進なんだ。営業担当者というのは、そういう意味で、会社の代表として顧客に接しているということだ」
「そうね。安易だったわ。それじゃ、営業力って何になるのかしら」
「事業自体の窓口となるわけだから、マネジメントの目標であるマーケティングとイノベーションについて顧客とのやり取りをしながらつかみ取れる力だと思うよ。これは、個人的な持論だけど」
「ジン。営業担当者にも、経営者と同様のマネジメント力を要求するってことか?」
「それを理解することは必要だね。マネジメントの向かう先を営業担当者が理解していないと方向を見失い、詐欺まがいのセールスをしてしまうと思うんだ。もちろん、理解させられないマネジメント側の問題の方が大きいけどな」
「そういえば、前にも営業マンはセールスマンではないって言ってたわね」
「狭い意味でセールスは契約のやり取りだと考えたら良い。それはそれで必要な知識や技能だけど、自分の顧客が本当に必要としているものを見つけ、提案し、提供し、感謝されるというプロセス全体がマーケティングなんだ。それによって、売れる仕組みが出来上がるのであって、今の自社の製品・商品・サービスを必要としている顧客に最適な形で提供することがマーケティング面での役割だね」
「そして、イノベーション面についても営業の役割もある訳だな」
「もちろんそうだ。将来へ向けた新たなマーケティングを見つけ出すつもりで、今の顧客だけじゃなく、顧客となっていない人へも目を向け、変化を捉えて、その変化に対応できるよう会社を動かすことが必要だ」
「マネジメントの目標を牽引する部門が営業ということかな」
「そのくらいの気概を持って欲しいということだ」
「わかった。俺も迷ってしまったんだ。顧客志向を取り戻すよ」
「雄二の再出発に乾杯!」
「サンキュー」
(続く)
《1Point》
・営業力とは
これはたぶん持論ですので、皆さんも考えてください。
【セールス】
・売り込む、売りつけるのではなく、狭い意味での契約交渉だけをさすものだと考えたいと思います。
「セールス力で不要なものも売りつけ、営業成績を上げる」のではなく「顧客が本当に必要としているものを引き出し、提案し、感謝される」ことが重要で、この仕組みこそマーケティングだと思います。
【マーケティング】
・売れる仕組みを考えることです。
「セールスを不要にする」と言われます。
すまり、既存の製品・商品を必要としている顧客に最適な形で提供する仕組みを考えることだと思います。
【イノベーション】
・新たなニーズを捉えることですし、企業が永続するための必須条件です。
そのため「変化を捉える」ことが重要で、これからのマーケティングを見つけ出すと言ってもいいのではないかと考えています。
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