居酒屋で経営知識

39.標準原価計算と差異分析

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度!」

「大将、今日も山口君が来ることになっているので・・・早いね」

「今日は仙台からなんです。早めに着いたんですが、事務所に出るとここに来るのが遅くなりそうなので、直接来てしまいました」

「ということは、もう飲んでいるということですね」

「はい、大将から四季桜を勧められました。おいしいですね」

「え!大将、四季桜入ったんですか?」

「にごり生酒が入りましたよ。ジンさんもどうですか?」

「もちろんですよ」

 栃木の四季桜は、やはり名前からもこの時期に飲むことが多い定番酒の1つだ。

「うまい。これを飲むと春が近づいている気がしますね」

「ここにいると、単なる日本酒好きから日本酒オタクに変わりそうです」

「いいじゃないですか。オタクが世界を変えるって言いますから」

「日本酒で世界を変えますか」

「東京オリンピックには世界中から注目されますから、その時の日本文化の1つとして、いい日本酒を紹介していけば、世界の食文化に影響を与えるかもしれませんよ」

「それはいいですねえ。私にも何か出来ますか?」

「まずは、いい酒を飲んで、大いに宣伝しましょう」

「願ったり叶ったりですね」

 お通しには、菜の花の酢の物が出てきた。春爛漫というところか。

「山口君。そういえば、製造業者の見積と実際の利益を心配していましたよね」

「ええ。元々、受注生産メーカーの友人との話だったんですが、彼らはまず、見積をして、契約後実際の製造・出荷を行うので、どんぶり勘定で見積をしているようなんです。うまく利益が出ればいいでしょうが、我々がネゴした結果、大赤字となっても困るし、我々としても高い買い物は出来ないし、で悩ましいですね」

「コストダウンとコスト管理は、特に製造業では最大のテーマかもしれませんね。どんぶり勘定で、特に固定費や間接費を適当に見ていると大変なことになりますし、ネゴの場でも本来の適正価格がわからなくなってしまいますね」

限界利益の話の時にもありましたが、実際のコストは後になって確定するので、事前に標準的な見積というのを作らなければいけないでしょうね」

「いいところをついていますね。コストダウンのためにも、目標ともなる標準のコストを作って、実際にかかったコストと分析することが重要ですからね。現実に、標準原価計算というのが、そのためにあるんですよ」

「標準原価計算というのは、コスト分析にも使えるのですか?」

「そうです。差異分析という手法で分析するんです」

「どんな内容か、教えてもらえますか?」

「いいですよ。標準原価には3つの項目があります。標準直接材料費、標準直接労務費、標準製造間接費です。

まず、標準直接材料費ですが、標準価格×標準消費量で表します。単純化すれば、単価×数量ですね。それを、実績から目標とするコストダウンを加味して、標準価格とします。また、消費量も同様です。

標準直接労務費については、標準賃率×標準作業時間で表します。
標準賃率は、実際の作業者の賃金体系によっても変わってきますね。標準作業時間は、目標時間となります。

標準製造間接費は、若干複雑になりますが、標準配賦率×標準基準です。
標準配賦率は『変動費率+(固定費÷基準操業度)』となります。
標準基準は、時間や数量などですが、単位あたり時間が多いと思います」

「これは、いわば目標コストとなる訳ですね」

「そうです。後は、実績を整理して、実際原価を計算し、それぞれの直接材料費、直接労務費、製造間接費を比較し、分析するのが差異分析となります」

「差異分析とは、目標と実際の差を見ると言うことですね」

「そうですが、単に較べるだけではなく、たとえば、直接労務費であれば、材料費の価格差異と数量差異をそれぞれ見ることで、詳細な原因分析と新たな目標価格を設定することが可能になるという訳です」

「なるほど。差異の発生原因を分析して、次に活かすと言うことですね。これは、友人に教えられるように勉強してみます」

「それがいいと思いますよ。どんぶり勘定をいつまでも続けていると、方向修正が不可能になりますからね」

「それでは、四季桜をもう一本もらって、頭の整理をしてみます」

「それなら、更に付き合いましょう」

(続く)


《1Point》
・標準原価計算

標準直接材料費=標準価格×標準消費数量
標準直接労務費=標準賃率×標準作業時間
標準製造間接費=標準配賦率×標準基準(標準操業度など)

 これらを使ってコスト管理を行います。

 実際原価は、結果ですので、必ず標準原価と比較することが重要です。その際、単に材料費合計同士などの比較だけでなく、それぞれ、原因を分析するのが差異分析です。

1.直接材料費の差異
 (1) 価格差異 標準価格と実際価格の違いによる差異
 (2) 数量差異 標準数量と実際数量の違いによる差異

2.直接労務費の差異
 (1) 賃率差異 標準賃率と実際賃率の違いによる差異
 (2) 作業時間差異 標準作業時間と実際作業時間の違いによる差異

3.製造間接費の差異
 (1) 予算差異 予算額と実際額の違いによる差異
 (2) 能率差異 能率の良し悪しによる差異
 (3) 操業度差異 予定操業度と実際操業度の違いによる差異

 3の製造間接費の差異分析は、間接費のとらえ方が直接費と違うことから、若干複雑な差異分析となります。診断士の試験ではここが狙われますので、ご注意ください。
 製造間接費の差異分析には、「シュラッター=シュラッターの図」というものが使われますが、興味のある方は検索してみてください。