居酒屋で経営知識

(5):ラグビー型の特徴

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 みやびでのラグビー型経営についての勉強会が続いている。

 これまで、ドラッカーの3つのチーム類型と野中郁次郎のチーム類型に似た分類の入っている5つの要件を見てきた。

「じゃあ、ラグビー型というものを考えるための特徴を考えてみよう」

「お、本論に入ったな」

「原島さん以外はラグビーのチームプレーの特徴をあまりイメージできないと思うので、わからなかったら質問をしてくれよ」

「私もジンさんの試合を応援に行ったくらいだから、細かい点はほとんどわからないわ」

「了解。それじゃ、まず、おおざっぱにラグビールールの特徴を見ておくね。人数はチームスポーツで最大と言われる各チーム15人だ。なんと言っても、ボールは、持っている人より後ろに投げなければいけないというのが一番だろうね。これをお互いの奪い合いしながら継続するので、なかなかボールが前に進まないことになるんだ」

「三歩進んで二歩下がるって水前寺清子はラグビーのことを歌ったのか?もちろん冗談だが」

「いやいや、そうでもないぞ。ボールとプレーヤーの動きを考えるとその通りかもしれないな。このルールがあるために、ボールを持っているプレーヤーより前にいる味方はプレーに参加できないということになるだろ。だから、ボールを投げたプレーヤーは、その瞬間プレーに参加できない。次のボールを持ったプレーヤーが自分を追い越して前へ行くか、自分が位置を下げるしかない。まさに三歩進んで二歩下がる必要があるんだ」

「とりあえず、一歩は進んでいる」

「雄二いいぞ。それが重要だ。チームとしての前進が目標でありマイルストーンだからな。たとえ、一時的に誰かが飛び出しても、次のプレーは必ず少し後ろからスタートする。それでも、全体として前進しているかどうかが判断基準なんだ」

「なーるほど。ところで、ドラッカーも野中氏もタイプ類型をしているみたいだが、そもそもラグビーを類型化すると特徴はどう整理できるんだ」

「そうだな。ドラッカーの類型の特徴を使ってみようか。まず、ポジションについて、野球、サッカーは固定的であり、テニスのダブルスが非固定的と言っているが、ラグビーは非固定というより流動的と言えるだろう。フォワードがバックスをしたり、バックスが密集でボールを確保するなんて常時行われているからね」

「確かにそうだが、ほら、大体身体が小さく、飛びながらボールを投げるスクラムハーフなんて専門職だろ」

「雄二の言うとおりで、確かにポジションは決まっているし、ラグビーの場合、ポジションと背番号が原則対応している。ただし、スクラムハーフもよく密集に巻き込まれて、近くにいるフォワードがボールを投げることも多いから、優先ポジションとでも言っておけば良いと思うな。

次に、プレーヤー相互のサポートと言う面では、野球は限定的と言えるだろう。サッカーでは分担しながら相互調整をするね。テニスのダブルスは相互補完の体制になるけれど、ラグビーになると常時サポートと考えていいだろう。ボールを持っているプレーヤーに近くの味方がいかに早くサポートには入れるかが勝敗の鍵になることが多いんだ」

「ラグビーのサポートというのは、All for Oneという言葉に表れているよな。ボールを持っていないプレーヤーは基本的に全員がボールを持っているプレーヤーをサポートする意識になる。同時に、次の戦術のために変化する」

「さすが原島さんです。それらの判断のための情報についてですが、野球型については必要な情報を状況から得るとされています。それに対し、サッカー型は監督から情報を得ると分類していますね。野球型は他のメンバーの得る情報とは関係なく、とされているので、サッカー型は全体の情報管理を監督が行っているということだと思います。

テニスのダブルス型については、他のメンバーから情報を得るため情報型組織への移行が必然と言っていますね。ラグビー型も同様だと思います。いかに情報の伝達を確実に行い、かつ全体を把握するかが勝敗の鍵を握ります」

「それじゃ、テニスのダブルス型とラグビー型の大きな違いというとどうなるんだ」

「テニスのダブルス型は規模が小さく相互補完によって機能するけれど、ラグビーは全員の常時サポートとリーダーが流動的に変化することで規模が大きくても機能すると言える点だと思う」

「ジンの言うように、テニスでは、相手の弱い点を補完することで分担が可能だが、ラグビーのような大規模な組織マネジメントを必要とするチームでは、弱みは無視して強みにフォーカスする必要があると思うんだ。必要な強みについては強烈な個性であっていい。足は遅くても、スクラムを強力にするために起用したり、身体が小さくても素早い動きとテクニックがあれば使えるポジションはある」

「そこがラグビー型で、マネジメントを考えるポイントだと思います。野球型は反復性の高い大量生産型製造業などでは有効だと思います。でも、変化が激しく、複雑なプロセスを必要とする現代の企業マネジメントにおいては、優秀なリーダーや闘将が指示を出したり、自ら先頭に立って従わせるようなやり方では対応が出来なくなっていることにみんな気づきだしています」

「それは同感ね。でも、だんだん難しくなってきたわ。ちょっと休憩しません?」

「そうだね。もう少し、ラグビーの哲学とか原理も考えてみたいんで、頭を休めようか」

 まだ、酒を飲める段階ではないので、珈琲を淹れることにした。そのために、珈琲豆を持参していたんだ。

(続く)


《1Point》
・ドラッカーのチーム類型

 何度か出していますが、次のコンテンツ「ドラッカーの言葉」で紹介中の「ポスト資本主義社会」P108~113にありますので手元にある方は、確認してみてください。