居酒屋で経営知識

(4):組織的知識創造を促進する要件

 【主な登場人物】
 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをている
 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
 原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「それじゃ、これらの要件を見てみよう」

 みやびでの勉強会は、野中郁次郎氏の知識創造企業の中身に入っている。

「『意図』『自律性』『ゆらぎと創造的なカオス』『冗長性』『最小有効多様性』ねえ。意図と自律性というのは、そうなんだろうなとは思うが、他はよくわからんな」

「雄二。まあ、そう急くなって。意図というのは、組織の意図ということなので、大きく見るとミッションとみていいんじゃないかと思う。つまり、最終目的地というところかな。著書の中では、コミットメントという言葉も使っているようだ。ミッションステートメント、もしくは、思い(志)と言い換えることができるだろう」

「北野。いつも、お前に言われる企業の存在する意味を言っているという考え方だな。スポーツの世界でも、大会で優勝するという目標ではなく、なぜ優勝するのか、優勝することで何を目指すのかという問いだな」

「原島さん。私の解釈と同じです。ここは、スポーツも事業も変わらないところとみていいでしょう。次に、自律性です。組織メンバーの一人一人が自律して、目標に向かって能動的に活動するということが重要だと言っています。野球型のように監督のサインに従うことが第一である組織マネジメントとテニスのダブルス型のマネジメントではレベルの差があると言えますね」

「あら、ジンさん。野球というスポーツを考えると自律していない選手なんていないんじゃないかしら」

「もちろんだよ。ただし、ここでの比喩を考えるとすると、試合を考えるといいと思う。日々のトレーニングにおいて、自律していない選手は、そもそも高いレベルのチームには入れないという点は置いておいて、試合の最中にどこまで自分の判断で進めるかと考えるとどう?」

「ああ、そうね。バントするか、ヒットエンドランを狙うかは、ベンチで決めるということね。自律しているかどうかというより、自律した判断をどこまで個々に委ねるかという視点ね」

「あ、さすか。そう話した方が分かりやすいね。これいただき。次が、『ゆらぎと創造的なカオス』だ。雄二の言うようにわかりづらい感じがするな」

「だろ。ゆらぎのイメージは、ある程度幅のある変化だと思うが、創造的なカオスって何だ?」

「ここは、俺の解釈だが、変化を受け入れ、また、あえて変化を起こして既存への執着から創造性のある行動に変えるということを言ってるんじゃないかと思うんだ」

「カオスって混沌とか、雑然とした様子よね。新しいことが生み出されるのは、論理的な検討よりも雑然とした様々な議論や疑問の中が多いって言う話を聞いたことがあるわ」

「由美ちゃんが冴えてるね。確かに、アイディアの作り方の本で言われていることだね。この調子で『冗長性』を考えてみようか」

「冗長性というのは、ITの世界で出てくるぞ。障害に備えて、余裕のある設計にすることを言っていたような気がするな」

「雄二も張り合ってるな。たぶん、効率優先で、必要最小限の情報の共有とするんじゃなく、ある意味無駄な共有を行うことかもしれない。テニスのダブルスでは、例えば、守備範囲を左右に分けるということじゃなく、お互いの反応できる範囲を重複させているはずだよな。ラグビーに至っては、複数の選手が固まって動くなど、冗長性の極みだろう」

「なるほどな。ラグビーを見ていて、本当に厳しいと思うのは、先に前に行って待っているなんて言うプレーができないところだよな。みんなが行ったり来たり走り回っているからな」

「そういうこと。そして、最小有効多様性だ。これは想像つくかい?」

「これこそ、全くわからん」

「この本は日本人が著者だけど、元々英語で書かれているんだ。だから、翻訳者がついている。元々の英語はrequisite varietyとなっているみたいなので、単純に訳すと必要な(必須の)多様性となるので、ちょっと翻訳上の意訳なんだろうな。どちらにしても、組織の中に多様性が必要だという指摘のようだ。平均化した、画一的な似たもの同士の組織では、新しいものへの対応が難しくなると言うことだと思う」

「もっと簡単な言葉にしないと使いづらいな。ミッションが明確で、自律したメンバーがいて、常に変化する環境を創り出し、フラットな情報共有と多様性が要件である、とかな」

「うまいぞ、雄二。確かに、日本語をもっとブラッシュアップすると分かりやすくなるかもな。ただ、この本のテーマは、新製品開発のための知識創造の要件だから、企業全体や一般的組織のマネジメントと考えるともう少し整理する必要があるというのが俺の考えだ」

(続く)


《1Point》
・第三章6「組織的知識創造を促進する要件
「知識創造企業」P109~124
に書かれていることを私流に解釈しています。

「知識創造企業」東洋経済新報社 (1996/03)
野中 郁次郎 (著), 竹内 弘高 (著), 梅本 勝博 (翻訳)
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・新しいアイディアを創り出す方法が書かれた「アイデアのつくり方」という本も参考にしています。900円程度の薄い本ですが、ロングセラーのなるほどと思わせる本です。
「アイデアのつくり方」
ジェームス W.ヤング (著), 竹内 均 (解説), 今井 茂雄 (翻訳)
http://amzn.to/SoF1RN