居酒屋で経営知識

(3):知識創造企業のラグビーモデル

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 昼間の勉強会は、ドラッカーのスポーツチームでの類型から始めた。

 野球型、サッカー型、テニスのダブルス型の3つの類型で述べられていた。

「ジンは、第四の類型としてラグビー型を言いたいってことだな」

「結論としてはそうなるんだが、やっぱりスポーツと経営では単純に並べられないので、特徴的なポイントを切り口にする必要があると思っているんだ。それは、これからの作業という訳だ」

「北野とは、うちの会社をラグビーの切り口を使って変えていこうと話しているんで、その中で作り上げていくことになるだろう」

「ジンさんも本格的にコンサルタントデビューね。楽しみ。ところで、ジンさんの持ってきたもう一冊の野中さんって暗黙知・形式知の考え方を作った人よね」

「由美ちゃん、さすが。SECIモデルを提案した人だよね。『知識創造企業』の中でも暗黙知・形式知の相互作用がテーマとなっているんだ」

「それがラグビー型と関係するということなの?」

「まずは、この本の序文を見て欲しいんだ。いきなりラグビーのメタファーについて説明している」

「あ、本当だ」

「ラグビー」のメタファー(比喩)を用いた。開発中の新製品を、一団となって走るチームがパスしながら進めるラグピのポールに見立てたのである。(同書序文1ページ)

「これは、当時アメリカを圧倒した日本企業の新製品開発の速さと柔軟性を説明したものなんだ。チームで回すボールにメンバーの共通理解であるミッションやビジョンが詰まっていると言っているようだ。そのボールがラグビーでどのように連携されトライに結びつけるのかというところを比喩で説明しているんだ」

「ビックリだな。これほど、はっきりラグビーで説明しているなんて知らなかったよ」

「野中先生もチーム連携を類型化している部分があるから、見てみると面白いよ。『組織的知識創造を促進する要件』という項でタイプA、B、Cの3つに分けている。タイプAとはリレー競争のようにそれぞれの仕事が分割されていてドラッカーの野球型に似ている。タイプBはそれぞれのつなぎ目は混じり合ってそれぞれの調整をするがポジションは固定であることからちょうどサッカー型に対応しそうなんだ。そして、タイプCをラグビー型と言っている」

「お、そうすると、ドラッカーのテニスのダブルス型がラグビー型に置き換わるのか。それじゃあ、完成じゃないか」

「まあ、単純に見ればそうかもしれないが、比喩としてラグビーを使っているが、逆にラグビーのモデルによって、目指すべきチームマネジメントを目指すとなるとそうは簡単にいかない。野中先生を取り上げたのは、過去のモデルの分析として一部にラグビーを比喩として使っているということで一つの切り口として使えそうだということなんだ」

「面白いわ。でも、私のようにラグビーのルールもわからないと理解するのが難しいんじゃないかしら」

「そこは、本当のラグビーをする訳じゃないから、考え方のポイントを抑えておけばいいので、基本的なことを説明してあれば大丈夫だと思うよ」

「由美さん。北野の言うように、ラグビーを学ぶ必要はないけど、スポーツのいいところは、全体を目で見て確認できるというところなんだ。企業活動はそうはいかないところが多いので、分かりやすい視点をスポーツのポイントに置き換えると目で見えるように考えることが出来るんじゃないかと思っているんだ」

「そうね。目指す姿を見えるように出来れば、みんなの気持ちも一つにしやすいわね」

「由美ちゃんが納得したところで、この野中先生の5つの要件を見て欲しいんだ。

『意図』『自立性』『ゆらぎと創造的なカオス』『冗長性』『最小有効多様性』

言葉として難しいけど、考え方は割と分かりやすいと思うし、まさにラグビーというスポーツのチームマネジメントに必要な条件にも当てはまるんだ。まずは、この5つの要件を考えてみて、ラグビーとの類似性を見てみようかと思っているんだ」

「なるほど。勉強会らしくなってきたな」

(続く)


《1Point》
・第三章6「組織的知識創造を促進する要件
「知識創造企業」P109

 今回は、序文と上記部分から取り上げました。本書は、新製品開発という部分を分析しているので、著者も経営全体としてみると当時の日本企業も不完全だと言っているようです。

 少ししつこくなりますが、読み返すとますます気づきがあるので次回も続けます。

「知識創造企業」東洋経済新報社 (1996/03)
野中 郁次郎 (著), 竹内 弘高 (著), 梅本 勝博 (翻訳)
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ドラッカー名著集8「ポスト資本主義社会」ダイヤモンド社 (2007
/8/31)
P・F・ドラッカー (著), 上田 惇生 (翻訳)
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