居酒屋で経営知識
2.マネジメントと管理の違い?
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
初回の顔合わせの後、由美ちゃんも講師補助として手伝ってもらうことになった。
ベースのカリキュラムは、すでに俺が作成済みなので、それをどう現実の仕事と組み合わせて学んでもらうか、を雄二と2人で検討してもらい本番に臨んだのだ。
「まず、今回の講座名のマネジメントについて、皆さんのイメージを聞いてみたいと思います」
前列の数人が手を挙げた。
「マネジメントというのは、マネージャーという言葉があるように、管理職の手法だと思います」
「スポーツの世界でマネジメントというと、選手の体調管理や競技管理だけじゃなく、その年の目標をキャッチフレーズにして、みんなを盛り上げたりしますよね」
「経営理論を言うんだと思います。SWOTで環境を調査し、事業戦略を決定すると教えられました。戦略を実行するためのいろいろな方法もマネジメントだと思います」
さすがに積極的に手を挙げた人たちの意見だと驚いた。
「すばらしいですね。それぞれがマネジメントの側面を捉えています。それでは、前回皆さんにお渡しした研修の概要にこう書いてありました。『マネジメントは大組織でも小組織でも変わらない』さて、これについてはどう思われますか」
今度は、ちょっと悩んでいるようだ。目のあった40代後半の部長代理を指名した。
「うーん。理論的にはそうなのかもしれません。でも、大組織になると機能的にも、管理しなければいけない部分が増えてくるんじゃないでしょうか」
「そうですね。現場での感覚からすると、たぶん、多くの皆さんがそう思っているかもしれません。それは、マネジメントの『管理』という側面だけを見てしまっているからだと思います」
もちろん、大組織となると、人事や労務管理、経理や総務などに多大な労力がかかります。
しかし、組織には目標があり、その目標を達成するために行うべき行動の基本原理は変わらないはずなんです。
管理(職)という言葉も、マネジメントの役割の一つであることは間違いないでしょう。ただし、皆さんの組織でも、単に管理することだけで、部下達は思うとおりに仕事をしているでしょうか?
問題が起これば相談されるでしょう。何のために、この業務を行うのか、理由を求められることはありませんか?
マネジメントというものには、判断をするための方針や方向性を示すという役割や自らの責任において決断をするという役割もあります。
組織のマネジメントについて、決定的な理論が確立していないように思えるのは、歴史が浅いせいだとも言われています。
それでは、現在の組織マネジメントというものはいつ頃から始まったと思いますか。
組織として事業を行う、つまり、企業組織というものが発生したのは産業革命以降であると言われています。それ以前は、職人が自分の家でものを作る、いわば家内制手工業が中心だったと言われます。
それ以外は、第一次産業が中心でしたから、ますます家族程度のまとまりの中で仕事をしてきたのですね。
つまり、事業を行う組織とは、僅か200年ほどしか経っていない最近の発明と言えるのです。
ですから、組織マネジメントというもの自体、現在も社会や組織の変遷に追随してまとめられている最中だと言われます。
それでは、200年という短い期間で、マネジメントはどう生まれ、どう変わってきたのかをおさらいしてみましょう。たぶん、学校で習ったようなことなので、今更と感じられるかもしれませんが、マネジメントとは何か?を考える上で、避けて通れないのでおつきあいください。
それでは、歴史を学ぶ前に、各グループで個人や家族程度でものづくりをしていた時代から工場などの組織で作るようになってきた理由について、意見を出しあってください。
・・・
みやびの暖簾をくぐると既にちゃんこ鍋で締めるグループもあり、いいにおいが胃袋を刺激する。
「あー、腹減った」
雄二の言葉を合図に、それぞれがつまみを注文し、乾杯をした。
「ジン。スタートとしては仕方がないのかもしれないが、社会科の授業みたいだな」
「ジンさんは、必ず、テイラーの科学的管理法からスタートするわよね。それが、マネジメントにとって重要な転機だからよね」
「そう思うんだ。工場制になったけれど成り行き任せだった状況の中、計画的な経営を目指した初めだったと言われるからね」
まずは、しっかりと基礎固めをしなければいけない。マネジメントとは何かを考えることからはじめる必要があると思っているのだ。
「みなさん、大変ですねえ。自家製シメサバがちょうどいい頃ですよ。いかがですか」
大将が作ったばかりのシメサバに全員が殺到し、組織的な動きからはほど遠い飲み会に突入した。
(続く)
《1Point》
次回、テイラーの科学的管理法を学びます。
その前提として、当時の工場の状況をイメージしてください。
・日々の労働は監督者の目分量だった。
・労働者にとっては納得できる目標があった訳ではない。
・つまり、ある程度の働きをすればいい状況で、がんばり損という雰囲気にあった。
・経営自体、成り行きだった。
こんな状況を目の当たりにしてきたテイラーは、自分自身が機械工だった経験から「科学的管理法」を実践の中で作り上げていったのです。
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→(3)テイラーの科学的管理法