居酒屋で経営知識

(85):マネジメントの役割

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度。今日は鳶野さんと一緒ですか。毎度!」

「大将。とうとう年末だねえ。巷はクリスマスだっていうんで、アベックばっかりだよ。それなのに、ジンと二人とは寂しいもんだ」

「俺が誘ったわけじゃないぞ」

「まあまあ。今日はもう一人来るはずですから」

「由美が来るのか?うーん。やっぱり、俺はここで引き下がって、ジンと由美にクリスマスイブを過ごさせてやるか」

「なんで、そこで恩着せがましいことを言い出すんだ。今日は、年末の宿題を整理しながら、クリスチャンの真似事はしないって言い出したのはお前だろ」

「まあ、そうだが。お前達もそろそろ大人になった方がいいんじゃないかって考えてみたんだ」

「いらっしゃい。あ、ジンさんたちがもめてるから、早く入りな」

 由美ちゃんが紙袋を持って入ってきた。

「寒〜い。商店街を通ったら、美味しそうなクリスマスケーキがあったので、買ってきたわ。後で切り分けてね。もちろん、おじさんと亜海ちゃんの分もね」

「わー。うれしい。由美先輩、ありがとうございまーす。ジンさんたち、クリスマスが羨ましくて揉めてましたけど、由美先輩と私がいるから安心してほしいわ」

「ははは。亜海ちゃんにかかると揉め事も収まってしまうね」

「さあさあ。ビールも揃いましたので、どうぞ」

「じゃあ、神道の我々ではあるが、メリークリスマース」

「メリークリスマス」

「さて、ケーキでも食べるか」

「ええ?鳶野さん、もう食べちゃうんですか」

「別にいいだろ」

 雄二の提案?で、ケーキを食べながら、クリスマスイブの居酒屋談義がスタートした。

「・・・へえー。近藤さんが現代の経営のまとめ会に参加するなんて、楽しい話になってきたわね」

「そうなんだ。近藤さんは、官庁出身の技術者とはいえ、民営化の組織マネジメントに深く関わってきたし、今の建設会社でも、積極的に組織改革チームを指導してきたからね」

「ところで、皆さんに質問があるんですけど、マネジメントって人のことなの、それとも経営者がすることを言ってるの?」

 亜海ちゃんの質問開始だ。

「たぶん、両方の意味を持っていると思うわ。トップマネジメントというときは、まさに経営者層や経営者自身を指していると思うし、経営者に限らず、組織の中で人や経営資源をコントロールしながら事業の目的に向かって仕事をしている人はマネジメントをしている人ということじゃないかしら」

「由美ちゃんの言うとおりかもしれないね。マネジメントは動詞であるとともに、それを具現化する人を指す名詞でもあるということじゃないかな。確かに、普通に話していると混乱するかもしれないね」

「そういえば、亜海は『もしドラ』読んだって言ってたよな。あれなんて、野球部のマネージャーの仕事を調べていて、間違ってドラッカーの『マネジメント』を買ってしまったことが話のスタートだったろ。マネージャーという言葉になると管理者っていう意味に近くなるよな」

「やっぱりそうよね。マネジメントって、結構みんな口にするけど、実際何を言っているのかわかっているのかなあ、って感じるの。単に、上司が部下を管理して、仕事を効率的にさせているっていうのを、マネジメントなんて大仰に言ってるんじゃないのかしら」

「亜海ちゃん、鋭いわ。私も時々よくわからない時もあるかも」

「ちょうど、現代の経営の初めにマネジメントの役割という章があって、その中でこう言っている。

『マネジメントとは、事業に命を吹き込むダイナミックな存在である』(ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」P2 上田惇生訳 ダイヤモンド社→以下、「現代の経営(上)」P◯◯のみとする)

『文明が存続するかぎり、マネジメントは基本的かつ支配的な機関として残る』(「現代の経営(上)」P3)

ここでは、存在としてのマネジメントと言っているので、スタートは経営者などの企業・組織のリーダーなんだと思うね。同時に、次に言っているのは機関なので、人が担う役割として、言い方を変えると職務としてマネジメントと言っているように取れるかな」

「もちろん人しか担えないものだし、その地位にいるからできることでもないということなのかもしれないなあ。マネジメントをできない経営者もいれば、職位は低くてもマネジメントを実行しているチームリーダーもいるということだろう」

「そうね。私も現代の経営を読んで参加するわ。常に、考えなければいけない内容のような気がしてきた」

「そういうことで、クリスマスイブの続きは、日本酒にしたいなあ」

「飲むときのマネジメントはジンさんしかできないわ」

「褒められているのかどうかわからないコメントだなあ」

(次回へ続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモンド社を読み直しながら、進めていきます。

 ドラッカーのマネジメントに期待する言葉がありました。

「マネジメントとは、現代社会の信念の具現である」同書 P3

それに続けて、こうあります。

「それは、資源を組織化することによって人類の生活を向上させることができるとの信念、経済の発展が福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現である」同書 P3

 いかがでしょうか。マネジメントの役割です。