居酒屋で経営知識

(86):マネジメントの3つの機能

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい、いらっしゃい。ジンさん、皆さんお待ちかねですよ」

「毎年の事だけど、みんな早すぎるよ」

 ここ数年、みやびは年末の大掃除の前に常連さんを呼んで忘年会をしている。今日もいつものメンバー貸切で今年の締めを始める。

「それでは、今年も大変お世話になりました。皆様のおかげで、一年を無事に過ごすことができ、また、来年皆様とともにスタートできそうです。ありがとうございました。それでは、カンパーイ」

「カンバーイ!」

 大森さん、近藤さん、雄二、由美ちゃん、原島さん、そして、商店街の役員も一緒に集まっている。

「北野。来年は『現代の経営』をまとめるんだったよな」

 原島さんが徳利片手に声をかけてきてくれた。

「そうなんですよ。今回は、近藤さんも参加することになっているので、いろんな視点から見られると期待しています」

「そうらしいな。まだ読んでなかったので慌てて買ってきたよ。まだ、目次を見ただけだけど、中身が濃そうなのはよくわかったよ」

「原島社長も参加されますかな」

 近藤さんも加わった。

「近藤さん。そりゃ、マネジメントの役割とか、仕事とか、目次を見ただけで、知らんぷりはできないですよ」

「そうでしょう、そうでしょう。私もなんども読み返して、自分や会社の仕事のやり方を見直したりしています」

「マネジメントの仕事といえば、やっぱり組織管理という事になるんですかね」

「原島社長でもそう思いますか。なるほど。さっき、ちょっと見直していた部分が、ちょうど、初めの頃のマネジメントの機能を3つに分けて説明したところなんですよ」

「それはどんな内容なんですか?」

「手帳にメモしていますから、ちょっと待ってください。えっと、これこれ。

まず、マネジメントとは何かについて、通常は、ボスとしての、つまり経営トップという考え方と人を管理するものという答えがあるということで始まっています。でも、それは説明になっていないと言っています。

そこで、マネジメントの機能へ続きます。

第一の機能とは、事業をマネジメントすること、です。
当たり前に思えますが、こう言ってます。

『マネジメントを構成する諸々の要素は、分析し、体系的に組織し、普通の人間ならば誰でも学習できるものにすることができる』(P10)

そして、『事業のマネジメントとは目標によるマネジメントである』(P14)と説明しています」

「なるほど。たぶん、企業理念に基づく目標を具体的に示していくということが重要だという点はよくわかります。ただ、マネジメントの要素について、学習できるものにするというのがちょっと意外な視点ですね」

「原島さん。ドラッカーはいろいろなところで、マネジメントは学べるということを言っています。それは、経営者として持って生まれた才能を待つのでなく、真摯に学習し、実践することで、成果が出せるんだと言うんです。そのために、仕事をきっちりと分析し、整理することが重要になりますね」

「続いて、第二の機能についてです。

ここでは、経営管理者をマネジメントすることとしています。経営資源の中で、成長と発展を期待できるのは人だけだから、そのために、きちんと組織の中で経営管理者を育てるマネジメントが必要だと言っていると思います」

「近藤さん。私も同感ですが、人の成長と発展はどう判断したらいいのでしょうか。感覚では、彼は成長したねと言いますが、具体的に成長を目標とするには何を基準とすればいいのか悩みます」

「それについても、この章で言ってます。

『人の成長ないし発展とは、何に対して貢献するかを人が自ら決められるようになることである』(P16)

つまり、指示された通りに動くのではなく、目標に対し、自分はどうあるべきで、何をしてその目標に貢献するのかを自律的に行う事できるようになることでしょうね」

「なるほど。確かに、なかなか部下に任せられず、なんでも自分で決めなければならないと思っている上司、つまり経営管理者が多いですね。そうすると、その部下は自ら決めることができず、組織の成長ではなく、上司の限界が組織の限界となってしまうのかもしれません」

「そういうことですね。人材をどう活かすかですから、さらに第三の機能として、人と仕事をマネジメントすると続きます。その中で言っているのは、『人を資源としてみること』(P18)『したがって、動機付け、参画、満足、報酬、リーダーシップ、地位と機能を要求する存在として人を見ることが必要である』(P18)ということです」

「近藤さん。やっぱり、今回の報告会に参加してもらうという判断は正しかったです。私が言うのも生意気ですけど、近藤さんは教育の才能があるかもしれません」

「ジンさん。おだて過ぎですよ。本から大事そうな言葉をピックアップしただけですから」

「マネジメントに一番重要なことというのは、やはりバランスだと思うんです。近藤さんはそのバランス感覚を持っているんですね。過去と現在と未来のバランスと言う意味ですが。そうそう。その後にこうありますよね。

『目覚ましい業績をあげたとしても、あとに燃え尽きて沈む船体を残しただけでは、現在と未来のバランスに失敗した無責任なマネジメントというべきである。』(P19)」

「忘年会の席で、一気にマネジメントの機能を教えてもらってしまいました。この休みにじっくり読む気が出てきました」

「それじゃ、原島さんも、そろそろ大将の料理に箸をつけた方がいいですよ。大将が寂しそうだ」

「そりゃそうだ。お造りをそのままにしていたんじゃバチがあたるね」

「原島さん。やっと気づいてくれましたか。次の料理を出しますんで、ぜひ味わってくださいよ」

「こりゃ、うまい」

(もちろん次回へ続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
ンド社を読み直しながら、進めていきます。

「マネジメントとは何か、何をするものか」という問いに対する答えは、事業、経営管理者、人と仕事のそれぞれをマネジメントする多目的の機関であるという答えしかない。」(P22)

そして、

「これらのうちいずれを欠いても、もはやマネジメントはない。企業もない。そして産業社会もない。」(P22)

 つまり、単なるボスでも管理者でもないということです。そして、それは、一人の経営者だけでもなく、機関なのです。