居酒屋で経営知識
113.ビジョン策定
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。 新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士
「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」
「熱燗お願い。やっぱり寒い・・・」
「はーい。えっと、菊正の樽酒を54度ね。チロリに入れて・・・」
「亜海ちゃん、大丈夫?一升瓶落とさないで」
「あー。ジンさん、私よりお酒を心配したでしょう。酷いんだ」
「いや、そんなことないよ。一升瓶が重そうだからね。それにしても、最近はお燗付けも亜海ちゃんがやってるんだ」
「えへへ。やらしてもらってるの。花嫁修業って言ったら、何でもやらせてくれるみたい」
「亜海には助かってますが、花嫁とか卒業とか言われると寂しくなってしまいますよ」
「由美ちゃんも卒業してしまったし、亜海ちゃんも就活だしね。大将も、そろそろ本気で人員対策を考える時期ですね」
「そうなんですよ。アルバイトも考えているんですが、やっぱり、うちのような商売だと社員として一人雇ったほうが良いのかなと思うんですよ。リスキーだって言う人もいますが、中途半端にコロコロ変わられるとうちの売りのいい酒、いい料理、アットホームな店っていうコンセプトがうまくいかないと思いますから」
「由美ちゃんと作ったコンセプトでしたね。もちろん、大将の考えが正しいと思います。それが経営者ですね。応援しますよ」
「ジンさんにそう言っていただけると心強いですね。あ、いらっしゃい。毎度」
雄二がやってきた。
「お、熱燗が用意されているのは感心感心」
「これはジンさんのです。鳶野さんも追加注文ですか?」
「亜海。そんな冷たい言い方はないだろ。というか、ジンと一緒に飲むからぐい呑み追加でいいな。リーズナブルだろ」
「雄二。飲ませてやるから、早く戸を閉めろよ。寒いじゃないか」
「おお、スマン。しっかし、寒いなあ」
「まあ、まずは、暖まろう。乾杯」
燗酒で腹の中から温めるというのは良い習慣だ。日本人で良かったと思える一瞬だ。大げさだが。
「ふー、落ち着いた。昨日が研修の日だったな。そろそろ最終段階になってるんだろ」
「ビジネスモデルができあがったから、後はビジネスプランの形に落とし込んで、企画書として出来上がり、ってところかな。ブラッシュアップは、もう少し必要だが」
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「はい、それぞれのビジネスモデルが固まったので、後は、ビジネスプランとして最終形にしましょう。今回はもちろん、企業内起業としての企画書ですので、ミッションは会社のものとなるはずですが、ビジネスモデルの方向性がミッションと同じかどうか再検討してください。新規起業としてのビジネスプランであれば、ここで改めてミッションを考える段階です」
「北野さん。私のチームでは、元々ミッションへ向けた新事業と考えていますので、ミッションは問題ないと思います。ただし、現在の事業と違った分野でのチャレンジとなりますので、方針や目標などを追加する必要があると思います」
「そうですね。ミッションは大きな方向性を示していますので、そこに齟齬がなければ、より具体的なビジョンとしてまとめてみましょう」
「ミッションとビジョンが違うのは何となくわかりましたが、簡単に言うとどう表現したら良いでしょうか」
「そうですね。当社のミッションは、モノとサービスの流通で人々に明るい笑顔を届ける、と言うものでしたね。これは、いわば企業としての存在意義を宣言していると考えてください。つまり、社会に対する使命の表明です。それに対して、ビジョンとは、このミッションを見据え、具体的にあるべき姿や到達目標を描いたものと考えてください。ビジョンとは、見えるという意味ですね。これまでもいろいろなシミュレーションをしていますので、成功したイメージというのはあるんじゃないでしょうか。それをシンプルに言葉で表してみてください」
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「なるほど。ミッションとビジョンの再整理をしているわけだ。そこまで進めば、あとは確か様式の従ってまとめるだけだな」
「まあ、ビジネスプランとしては、一般様式があるからそれを使うというのも手だし、今回は、各チームでの比較が必要なので、その方が分かりやすいとは思っている。ただ、戦略の検討を簡単に様式の中でやってしまうと手抜きになる可能性があるので、基本的な戦略検討は別にやってから様式を出そうと思っているんだ」
「そりゃそうだな。特に、今回は社長もやる気になっている訳だから、すぐに具体的な事業開始につながるようなものにしないと研修報告書でしかなくなるからな」
「だから、時間がかかってしまうし、仕方がない。少なくとも年度内に経営陣の決裁に回せるようにして、4月からはスタート出来る内容にするつもりだ」
「おおー。楽しみだな。今回はファイナンスでの初期投資を会社が全面バックアップだから思い切ってできるしな」
「そういうことだ。逆に評価も厳しくなるとは思うが」
熱燗と煮魚で暖まった。鍋で締めるか。
《1Point》
・ビジネスプラン作成の流れ
これは、基本的に戦略策定のための構造的フローとして何度か示しているものと同一と考えています。
企業として、ミッション・ビジョン・ドメイン(環境分析)・全社戦略・事業戦略・機能別戦略という重要なフローの整理にリスク検討やファイナンスの検討を追加することでほぼ完成の内容にすることが出来ると考えます。
以下参考にフローの基本形を示します。
ミッション
↓
ビジョン
↓
(環境分析・ドメインの決定)
↓
全社戦略(成長戦略)
↓
事業戦略(競争戦略・競争地位別戦略など)
↓
機能別戦略(人事・財務・マーケティングなど)
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