居酒屋で経営知識

112.ビジネスモデル化

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「へい、いらっしゃい。毎度・・・あれ?ジンさん、どうしたんですか」

「わかりますか。どうも、風邪気味なんです」

「珍しいですね。じゃあ、今日は、飲むのは身体を温める程度にして、栄養のつく食べ物を食べたら早めに帰って寝た方が良いですね」

「そうよ。ジンさんったら、大丈夫、大丈夫って言うけど、身体は正直よね」

 研修の間も、若干の寒気がしていたが、元々滅多に風邪を引いたことはないし、酒で直してきたという自負があったんだ。

「なんか、二人にそう言われると自信が崩れるなあ。確かに、無理は禁物ですね。若いと言える歳でもなくなりつつありますしね」

「ジンさん。私が調子悪いときに飲んでいる生姜と蜂蜜をお湯で溶いたものですが、まずはこれを飲んでみてください。身体を温めるに限りますからね」

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「今日は、どうも喉の調子が変なので、聞きづらかったら遠慮なく質問してください。さて、ドメインもほぼ固まってきましたので、具体的なビジネスモデルを描いてみましょう」

「北野先生。基本的な質問で申し訳ないんですが、ビジネスモデルについて説明している本などを読むと、儲かる仕組みとか差別化の仕組みなどと書かれているんですが、いきなり儲かるとか、差別化とか言われても、なかなか閃かないんです。ドメインまでは、地道に考えてきて、いきなり壁があるように感じたんですがどうなんでしょうか」

「なるほど。その本では、ビジネスモデルというものを特別扱いしすぎているのかもしれませんね。ビジネスモデルというのは、どのように製品・サービスを提供し、顧客が満足して支払いをするかという具体的な流れを描くものです。例えば、ある製品を売るというビジネスの場合、デザインから材料の手配・製造・流通・販売という流れと顧客へのプロモーション・注文や支払いの方法・配送などの流れを決めることになります」

「それなら、特別に差別化とかを考えてつくるものではないんですか?」

「差別化や付加価値については、これまで検討してきたことの中でできあがっていますので、ビジネスモデルでは、それをより効率的に行う方法を考えると言うスタンスでいいと思います。もちろん、ビジネスモデルの具体化の中で、新たな付加価値を付け加えるなどの可能性はありますがね」

 ビジネスモデルというものに、特別な感覚を持っている人が多いようだった。

「それでは、これまでの検討事項を踏まえて、具体化しましょう。ベースになるのは、ドメインですね。誰に、何を、どのように、と検討したことで、ビジネスモデルのベースは出来ています。つまり、それらに、プロモーションの方法や価格体系、流通経路、自社の経営資源計画、メンテナンス方法などを加えて、実際に事業としてスタートできるデザインをすることです」

 各チームとも苦戦しているようだが、1回で出来るものでもないので、まずは、販売の契約方法や価格設定を検討するようにした。

 以下は、あるチームの最終の販売計画だ。このような考え方で作成するよう指導した。

(1)流通チャネル
・個別契約:WEB上でのコミュニティサイトとして個人会員への月額オプションとする。
・団体契約:老人ホーム等への団体契約
・既存チャネル:サービスプロバイダー等での会員サービスへの組み込み。サービス利用料(月額)
 ホームセキュリティ会社・保険会社のオプションとして販売。(月額)
・代理店販売:ライフプランニングでの提供サービスとして、ホームセキュリティ会社・保険会社と代理店契約。販売代理店として成功報酬および継続月額。

(2)販売価格、価格設定方針

1)個別WEB会員:基本サービス(コミュニティ・簡易シミュレーション・簡易自分史):無料
オプションサービス(詳細シミュレーション・自分史電子出版・訃報告知・Web葬儀等):有料 月額300円~3000円程度 電子出版等の単発:1000円~5000円程度
 例)
・パッケージ化 
無料会員:簡易的な自分史作成とコミュニティ参加
シルバー会員:世界のデータを取り込める自分史作成・Web葬儀サービス
ゴールド会員:シルバー会員のサービスに加え、訃報告知・自分史電子出版等
※その他はオプションとして都度加算

2)団体契約:メニューおよびID数 自分史作成と公開サービス:月額300円/1ID ボリュームディスカウント、年額ディスカウント有り
3)既存チャネル:現在の料金を勘案のうえ、オプションとして受け入れやすい価格で提供
4)代理店販売:各社の規定に準じた代理店販売契約料とする。
5)WEB広告:世間相場で広告受注

(3)販売方法とPR方法
・WEBでのコミュニティサイト・スポンサーサイトを中心に広告
・セキュリティ会社等への直接営業・提携契約
・老人ホームへの直接営業(約1300件:上位200社)
・高齢者向け交流会、NPO法人への直接営業
・セミナー開催、パブリシティ・口コミ

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「ビジネスモデルというのは、実際の事業の仕組みを作り上げるということになる訳ね」

「そうだね。確か、英語ではビジネスモデルではなく、ビジネスメソッド(Business Method)というんだけど、これを直訳すると商売方法なので、こちらの方が分かりやすいだろうね」

「え?そうなんだ。モデルなんて言うから構えてしまうのかもね。商売方法だったら、考えやすいかも・・・ジンさん。やっぱり、調子悪そうよ。早めに帰った方がいいわ」

「ジンさん。雑炊作りましたので、これを食べて帰ってください。明日は休みですから、ゆっくり休んでくださいよ。そうだ、由美っペ。明日は、ジンさんの調子が悪そうだったら、食事でも作りに行ってやりな」

「そうね。ジンさん、電話してもいい?」

「申し訳ない。大丈夫だと思うんだけど、最近、自分の体力に自信を持ちすぎるのが危ないと言われるんで、念のためお願いします」


《1Point》
・ビジネスモデル

 ビジネスの仕組み、方法

 儲かる仕組みなどと言われますが、基本はどのようにビジネスを行うかという仕組みや方法を描くことを言います。

 ビジネスとは、製品やサービスが良いだけでは成り立ちません。どう顧客に知らせるのか、顧客が満足する提供方法とは、など、全体の流れをしっかり作り上げる必要があります。それが、ビジネスモデルとなります。