居酒屋で経営知識

95.IT化とは

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「やっと夜になると涼しくなってきましたね。昼はまだまだ夏ですけど」

「9月も中旬過ぎて、仕込みや店の掃除をしている時間にも冷房を入れなくちゃならないなんて、あんまり記憶がないですね」

「そうなんでしょうね。あ、亜海ちゃん、ありがとう」

 生ビールとお通しがいつものカウンターに準備された。

「大森さん、毎度」

「お、ジンさん、早いね」

「大森さん、お疲れ様です」

 今日も1日の締めが始まった。

「そういえば、黒さん。パソコン買ったんだって?電気屋がさっそく知らせてくれたよ。どうしたんだい。みやびもIT化するってのかい」

「まったく、商店街の人たちは情報が早すぎますよ。インターネットなんていらないね」

「ははは。ホントだ」

「いえねえ。前から由美っペに言われてるんですが、伝票の整理とか税務申告とか、パソコンを使ったら随分楽になるって。去年の申告で大変だったし、ぐるなびとかホットペッパーとか、しょっちゅう話がくるんで、清水の舞台から飛び降りてみましたよ」

「飛び降りてしまっちゃあ仕方が無いけどな。由美も忙しいし、誰に面倒見てもらうんだね」

「そこは、亜海がコンピューターには詳しいんで、何とかなるっていうんでね」

「えへへ。私、こう見えてパソコンのプログラム競技会で入賞したこともあるんでーす」

「なに。亜海が・・・人は見かけによらないっていうのは本当だ」

「大森さーん(`´)」

「ははは。冗談だって。前にも聞いたもんな。でも、仕事そっちのけでパソコンばかりになっても困るから、よろしく頼むよ」

「はーい」

「私のパソコンも珍しいですが、大森さんだって、ジンさんにパソコンを使った営業ツールを作ってもらったじゃないですか」

「ああ、長年の顧客情報を営業所でも使えるようにしてもらったからな。確かに、ちょっとした使い方で随分変わるのは実感したよ。IT化のすごさだな」

「大森さんの会社の顧客名簿の情報は膨大でしたからね。年に1回くらいしか利用しない人を思い出すのは無理だけど、それができたらサポートがしやすくなると言うのが一番でしたね」

「ふーん。ねえ、ジンさん。パソコンを導入することがIT化なのかな。うちの学校でも、IT化は当然っていうけど、まあ、パソコンでネットワークつないで、検索したり、ファイルを共用する程度なんだけど、本来のITって、情報技術っていいうことよね」

「そうだね。ITの主役は情報ということだね。その活用技術としてパソコンの処理能力やネットワーク技術を使うのが一般的なITなんだけど、パソコンとかipadを導入することがITの目的になっているところも無いとは言えないよね」

「じゃあ、IT化って本来はどうあるべきなの?」

「亜海ちゃん。最近、鋭い質問が多いね。それじゃあ、ビジネスでのIT化の目的の話をしようか」

「やったあ」

「亜海。その前に、ジンさんにお代わりを持ってきてくれよ」

「はーい」

 二杯目の生ビールに口を付け、基本中の基本を整理した。

「IT化には3つの目的があると言われている。まあ、もちろん、それだけじゃないけど、最低でもこれだけは外せないものと考えた方がいいものだね。

ます、一つ目は、顧客との関係性強化という目的だ。これは、大森さんの会社で行った、それまでは個人にあった顧客との関係性、特に、主要顧客の情報をデータ化して、更に、滅多に来ない顧客や顧客とはなっていないけど、今後の潜在顧客の情報もデータ化して、活用できるようにしておくことが会社の継続にとって重要になるということだね。

二つ目は、もちろん、業務効率の向上だ。パソコンやネットワークの威力が発揮されるのは、定型的な業務を自動化したり、過去のデータの再活用などによるものが大きいよね。みやびでまず行おうとしているのがこれだね。

三つ目は、言わずもがなだけれど、情報収集・発信ツールとしての活用だね。現在のネット経由での情報収集・発信方法は様々なものが開発されていて、使い方によっては、新商品開発や新市場へのアプローチ、更に、全く関係の無かった商品・市場との出会いを創り出すことも可能になっている」

「へえー。一々納得ね。みやびでも業務効率だけじゃなく、顧客データの活用とかネットでの情報発信を考えていくべきね」

「おおー。亜海、すごいことになってきたな。黒さん。みやびは電脳居酒屋なんて言われる日も来るかもしれないな」

「うーん。大将。このカウンターは残してくださいよ」

「何をいきなりみんなで盛り上がってるんですか。みやびはみやび。安心して通ってくださいよ」

「そりゃそうだ」

(続く)


《1Point》
・IT化の目的として重要な視点

(1)顧客との関係性強化(人的関係性→形式知化)
(2)業務効率の向上
(3)情報収集(商品開発)

 今更IT化をテーマに上げることもないかと考えていましたが、実際の運用においては、目的を見失ってしまうことも多々あるようです。

 パソコンは必須になっているとは言いますが、時間つぶしの道具になっていないでしょうか。

 場合によっては、徹底的に機能をそり落として、古いシステムを思い切って変えてしまうことも必要でしょう。