居酒屋で経営知識
96.最も重要なリスクとは
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。 新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士
「いらっしゃい。毎度」
「いやー、涼しくなりましたね」
「やっとですからね。さすがに今年はこたえました」
「暑かったですね。でも、ちゃんと季節は巡るということですね。秋が終わらないうちに、秋の味覚を味わっておかないと」
「そうでしょう、そうでしょう。ジンさん、他のお客さんには内緒ですが、今日は賄いに栗ご飯を炊いたんですよ。締めにいかがですか?」
「いいですねえ。是非お願いします。締めが決まれば、後は途中の肴は決めやすいですね。ええっと、メインはサンマの塩焼きで、その前に何かありますか」
「今日はきぬかつぎなんかいかがですか?いい子芋が入りましたよ」
「最高ですね。今日は二杯目は日本酒にします」
「はいよ。亜海。ジンさんの二杯目ビールを見張らなくっていいよ」
「はーい。じゃあ、日本酒はなんにしますか?」
「久しぶりに田酒でもいこうかな」
「いいですねえ。ジンさんのそのセンスも季節を感じさせますよ」
「おおー、やってるねえ。黒さん、我々の酒もよろしく」
「大森さん、近藤さん、お疲れ様です」
「ジンさんも。最近、我々より早くからやってるねえ」
超常連の2人がカウンターの定位置に腰を下ろすと亜海ちゃんの速攻一杯目出しも板についた。
「亜海。いいねえ。じゃあ、近藤さん、ジンさん、お疲れさん」
カウンターの両端からお互いの酒を軽く上げて口を付けた。
「そうだ。近藤さん、昨日の話、ジンさんにも聞いてもらおうよ」
「そうだった。ジンさんに会ったらまず聞こうって言ってたんだ」
「どうしたんですか。何の話ですか?」
「近藤さんの会社で研修があって、リスクについての議論があったらしいんだ」
「そうなんですよ。まあ、研修自体は経営全体の話だったんですが、その中で負えるリスク、負えないリスクという話があったんですよ。そこでも議論になったんですが、最大のリスクはなんだろうってことで結論が出なかったんですよ」
「それで、俺なんかは、銀行から見放されることだっていったんだけど、近藤さんは取引先の倒産だっていうし、まあ、それぞれなんだろうけど、ジンさんならどう考えるかってね」
「リスクですか。負えるリスクと負えないリスクですか。その研修では、リスクを二つに分けたんですね?」
「ああ、そうだったよ。リスクを考えるときは、負えるリスクと負えないリスクを明確にすべきだという流れだったね」
「なるほど。いいですね。機会にはリスクが付きものですから、自社として負えるのか、負えないのかをしっかり考えることが重要です。それにもう一つ視点を加えるとすれば、負わなければいけないリスクということですね」
「負わなければいけないリスクって、損してもやらなければいけないってことかい?」
「最も重要なのリスクを避けるために負わなければいけないリスクもあるというのが私の考えです」
「ん?最も重要なリスク。それが最大のリスクということか。知りたいね。倒産じゃないのかい」
「いえいえ、倒産とかは、極論すれば結果ですから、最大のリスクを取ってしまえば結果的には倒産と言うことにもなるでしょうが」
「まあ、わかったかな。ところで、その最も重要なリスクってなんなんだい?」
「顧客の信用を失うということです。日常的に言えば、品質や納期を損なうことにつながるものはすべて顧客の信用を失うリスクということになると考えます」
「そうか。なるほど。顧客の信用を失わなければ、一時的な危機であっても再チャレンジが可能だからね」
きぬかつぎと田酒が目の前に置かれた。
「あ、ジンさん。それいいねえ。今日の最も重要なリスクは、それを食べ損ねることだ」
「大森さん。自分で頼んでくださいよ。今日は、リスクが多い秋の味覚だなあ」
(続く)
《1Point》
・最も重要なリスク
これは状況によってもいろいろな考え方がありますが、すべての中心を顧客に置けば、やはり、顧客の信用を失うということになると思います。それが最大のリスクと言えるでしょう。
リスクとは、変動の幅ですので、リスクのない事業に発展性はないとも言えるでしょう。だから、負えるリスクと負えないリスクを明確にすることが重要なのです。
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