居酒屋で経営知識

97.OEMのメリット・デメリット

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「いらっしゃい。毎度」

「お、ジンさん、お待ちかね」

 大森さんから声がかかったので、いつものカウンターに目をやると新田さんが軽く会釈をしながら手を挙げた。

「新田さん、ご無沙汰してました」

「まったく失礼してました。今日は商店街の仕事だったので、北野さんに会えるかと思って寄ってみました」

「メールでも入れていただければ賭けをしなくてもよかったのに」

「突然でしたし、大森社長によると今日は必ず来るっていうんで信じました」

「大森さん。自分も宮仕えですから必ず来るなんて言えないですよ」

「ははは。新田先生が不安そうだったんでね。でも、確率は高いからね。案の定だ」

「まったく」

 生ビールで乾杯し、近況報告をしあって過ごした。

「ところで、新田さん。何か相談事があったんですか?」

「いつも飲んでいるところで申し訳ないんですが、ちょっと悩むところがありましてね」

「飲んで相談はいつものことですよ。どんなことですか?」

「前から付き合っているメーカーのことなんです。小さいながらも、自社開発の製品を中小企業向けに製造販売している堅実な会社なんですが、大手の企業からOEMでの製造を打診されて悩んでい
るんです。受ければ、利益率は下がるようですが、売上はこれまでとは雲泥の差ですから業績は大幅によくなることは確かなんです」

「なるほど。自社ブランドを持っている企業なんですね。技術力を買われて、大手企業のブランドでの製造を打診されているわけですね」

「そうなんです」

「それじゃあ、その会社の社長は何を悩んでいました?」

「一番には、これまでの取引先よりも今回の大手企業の注文を優先しなければいけなくなることを心配してました。それと、製造能力を大幅に増やさなければいけないので、設備投資が大きいで
すね。大手企業との契約書があれば、費用の手当ては何とかなるのですが、うまくいかなかった時や大手企業の方針が変わったりすると大損害を被りかねないです」

「自社ブランドの顧客を失うリスクと設備投資を回収できるかどうかがポイントですね」

「ええ、そういうことになります」

「これは結構難しい問題ですが、技術の高い中小企業では必ずと言っていいほど直面するようです」

「それじゃあ、事例は多いんですね。何か共通する解決策とか、ポイントはありますか?」

「事例は多いんですが、対応は千差万別で、結果だけみると成功した企業と失敗した企業の差はあまりないんです。つまり、明確な答えはないということです」

「やっぱり、そう簡単ではないんですね。どうしたらいいんだろう」

 新田さんは、あきらめのため息に変わっていた。

「新田さん。経営はすべからくメリットとデメリットを検討し、自社にとってのリスクを明確にして対応方針をだすことです。近道はないですよ」

「そうでした。それでは、OEM製造を引き受けることのメリット・デメリットやリスクの範囲というのはどう考えればいいでしょう?」

「では、まずは一般的に言われるOEMのメリット・デメリットを挙げてみますね。

メリットとして
(1)安定した生産量の確保、設備稼働率の向上→製造原価の低減
(2)相手先のブランド力が利用できる
(3)相手先の販売力が利用できる

そして、デメリットとしては
(1)自社技術の流出の恐れ
(2)自社のブランドが育たない
(3)自社の販売チャネルが育たない
(4)相手に価格主導権を握られる恐れ
(5)最終ユーザーの情報が直接入らない

ということが言われます。私は、デメリットの(5)最終ユーザーの情報が直接入らなくなってしまうという点を重視して検討すべきだと思います。
OEM契約が終了した後のリスクとして考えるといいと思います。
元々、自社に技術力も顧客との関係も築けているようですので、慎重に考えるべきですね」

「わかりました。これを考えてみるだけでも、社長の決断を促すことができそうです」

 新田さんとしての答えが出たようだ。あっという間にジョッキを飲み干した。

(続く)


《1Point》
・OEM(Original Equipment Manufacturer)

 相手先ブランド名製造などと訳されます。
 簡単に言うと、他社のブランドの製品を製造し、そのブランドで販売することを言います。

 よく考えると、Original Equipment Manufacturerという英語だけみると他社のブランドという意味は見当たりませんね。オリジナルの製品ということなので、それを自社のものではないオリジ
ナル製品を製造すると意味合いが変わったのかもしれません。

 これは、私の想像ですが。