居酒屋で経営知識

53.経営者の条件(6)エグゼクティブ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「まずは、ビールください」

「はーい。ジンさんのエビスでーす」

「ありがとう。フー。うまい」

「今日は研修ではないですよね?原島社長のとこの」

「ええ、違いますが、ちょうど前回のメモが来ているので、明日までに見直しておかなければいけないんですよ。ちょっと、ゆっくり飲みながらカウンター使わせてください」

「もちろんいいですよ。しかし、自分の仕事の他に、大変ですね」

「いえいえ。これも好きでやってますから。お金をもらって、自分のレベルアップができるみたいで申し訳ないくらいですよ」

 今週は、「経営者の条件」の第1章に入った。参加者には、あらかじめ読んできてもらって、特に強い印象を持った部分をチェックし、なぜ、そこが気になったかを自ら分析してもらい、それを発表していくことで進めている。

 その発表内容について、ざっとメモを整理したものが送られてきたのだ。

(P20)
・「言われたことをする肉体労働者の能率の向上が、組織にとって最も重要な問題だった。」
・「IEや品質管理など肉体労働者の仕事を測定評価するための手法は、知識労働者には適応できない」
(P21)
・「知識労働者が生み出すのは、知識、アイデア、情報である」
・「すなわち、成果を他の人間に供給することである。靴のように、自らの生産物それ自体の効用をあてにするわけにはいかない」

 まずは、最初の部分で、肉体労働者と知識労働者の違いを述べている。特に、組織の中で、知識労働者を肉体労働者と同じように管理しようとする間違いが起こっているという意見が出ていた。

 本書においても、知識労働者は自らをマネジメントし、成果をあげることでしか貢献できないと言われている。上司ができることは、助力を与えることと明確な決定権限を与え、成果をあげるために強みを集中して発揮させることでしかない。

 また、知識労働者は、個別に製品などを生み出すのではなく、他のメンバーへの貢献となる知識、アイデア、情報を成果として生み出すのだ。だからこそ、組織としての生産性を大いに向上できる。

 知識労働者は、一人ひとりがスーパーマンであることを期待されるものでなく、場合によっては一つだけの強みを持って、個々の力を超えた成果に貢献できるし、それが、唯一でもある。

(P23)
・「組織のそのような能力に実質的な影響を及ぼすために、知識労働者は意思決定をしなければならない」
(P24)
・「責任は私にある。だが、どうするかを決められるのはその場にいる者だけだ」
・「知識労働者がエグゼクティブであるかどうかは、他人を管理しているか否かには関係ない」
(P26)
・私は、地位やその知識のゆえに、日常業務において、組織全体の活動や業績に対して、重要な影響をもつ意思決定を行う経営管理者や専門家などの知識労働者をエグゼクティブと名づけた」

 エグゼクティブとは、経営管理者だけではなく、組織の成果のために意思決定を行うものすべてを言う。

 多くの参加者が分かりやすいとしたのは、ジャングルでゲリラと戦う兵隊にとって、責任者は考えられる対処法を与える責任はあるが、実際の戦いにおいては、個々の兵士がその知識と自分の経験を駆使して決断するしかないという説明だった。

 いちいち責任者に指示してもらわなければ何もできない軍隊は、あっという間に敗走してしまうだろう。

(P28)
・「通常、彼らは自分ではコントロールできない四つの大きな現実に囲まれている」
・「第一の現実は、時間がすべて他人に取られてしまうことである」
・「第二に、日常業務に取り囲まれていることがある」
・「第三の現実が組織で働いていることである」
・「最後に、組織の内なる世界にいるという現実がある」

 成果をあげるにしても、現実には、組織にいるがゆえにその生産性を損ない、本来の成果から遠ざかってしまう現実がある。

「お、これは読書会のメモだな」

「脅かすなよ、雄二。いつの間に来てたんだ」

「大将の声も気づかないほど集中してたってわけだ。どれどれ」

「まあ、ちょっと一息入れるか。亜海ちゃん、生をもう一杯」

「はーい」

「ジン。ざっと発表のあった部分をページの順に並べたものらしいが、知識労働者やエグゼクティブとは何かという点はみんなも異論はなかったよな」

「そうだな。みんなも、自分がエグゼクティブだと言われて戸惑いはあったようだが、内容的には納得していたから、責任を強く感じたという意見が多かった」

「つまり、昔ながらのピラミッド組織で、上司の指揮に合わせて動くとか、一々上司の判断を仰ぐというのは組織の成果をあげるためにはマイナスとなるということになるというのが俺の感じ方だったけどどうだ?」

「必ずしもマイナスか、というとその組織の成熟度にもよるかもしれないという意見が合ったよな。たとえば、その時向かうべき仕事がメンバーにとって右も左もわからない状況なら、それを知っている上司やリーダーがある程度、細かな指揮を与えることはあるべしだって」

「そうだった。それでも、それは初期の立ち上げ時という考えだったよな」

「そうだな。問題は、立ち上げ時を超え、エグゼクティブとしての成果をあげなければいけない時に、日常や組織内部の対応によって邪魔をされるというところが一番だった。そういえば、ここに書かれていないけれど、独裁的なリーダーとして元々成果をあげてきた上司が、すでに成熟した組織として独り立ちしているはずの部下に対し、権限を与えられず、結果的に昔のままの管理を行っているという問題点が出ていたな」

「あ、それそれ。いざ、エグゼクティブとして自ら決定しなければいけないと思っても、その決定権限を渡さない上司という現実が結構あったぞ。それぞれ、今の体制になってよくなったけど、やはり、昔の成功があるから、周りもなかなか言えないというところもあるみたいだな」

「そこは、四つの現実に網羅されているところとも言えるだろうな。上司に見られるからあえて外している可能性もあるな。そこが、まだ、原島社長の目指す一人ひとりが責任と権限をもった組織になりきれていない部分かもしれない」

「組織文化は簡単に変わらない。あまり、無理してもうまくいかないかもしれないぞ」

「さすが雄二。そのために、次の問題点と改善のための習慣に繋げて書かれているわけだ。まだ、その部分のメモは来ていないので、どうまとめてくるか、それも楽しみだ」

「まだ、途中だったんだ。了解。先入観を持たないように、今日はここまでにしておこう。俺は俺で、ポイントはメモしているから、出てきたら送ってくれ」

「もちろんだ。明日には送ってくるらしいから、今週末に講師としてのまとめをしておこうか」

「賛成。日曜なら大丈夫だ。季節もいいし、どこかでバーベキューでもやりながら話そうか」

「結局、飲んでしまって尻切れトンボになりそうだけど、ベースのメモはあるわけだから、それでいくか」

「よっしゃ。由美も呼ぶだろう?」

「私も、私も。バーベキューだなんて、久しぶり。お願い」

「亜海ちゃん、もちろんだよ。大将もどうですか?」

「それは、若い人に任せますよ。問屋主催の利き酒会もありますし」

 週末の予定が埋まった。まあ、悪いことではないな。

(続く)


《1Point》
「経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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 前半の説明は、現在の組織の中で働く者のほとんどは知識労働者でかつエグゼクティブだという結論と解釈してもいいでしょう。

 特に、組織が大きくなると、多くの障害も出てきますが、それ故にエグゼクティブが成果をあげるためになされるべきこととして、日々の習慣が重要なのだということですね。

 組織は小さいほど、完全に近づくという記載もあります。しかし、組織が大きくても生産性を上げ、成果を挙げなければ、社会をより良くする方向に進むこともありません。