居酒屋で経営知識

52.経営者の条件(5)われわれは

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 原島さんの会社の研修の一つとして、ドラッカーの著書を読んで、お互いに感じたことを述べあう読書会を始めた。
 今日は、みやびでその1回目の状況について、由美ちゃんと話をしている。

「へい、いらっしゃい!おや、鳶野さん、ちょっと遅かったですね」

「経営者は忙しいってね。ジンと由美で何こそこそしているんだ。また、俺に内緒でいやらしい企みをしてるんだろう」

「雄二。よく来られたな。今日は経営者クラブだっていうから無理だと思っていた」

「それにしても、鳶野さんっていつも自分が仲間はずれみたいに言うのね」

「二人から同時に攻撃されたら対応できないだろうに。で、ジンの質問には、今日は欠席者が多くて割とすんなり終わったってことだ。年度初めで、経営者は何かと忙しい。それと、由美の仲間はずれ疑惑は、言いがかりだ。俺は常に場を和ませようといじけて見せているだけだ」

「まあ、言い訳だけはしっかりしているということだな」

「それで、読書会はどうだったんだ?」

「覚えていたんだな。由美ちゃんに報告していたところだよ」

「ふーん。まあ、遅くなっちまったから仕方がない。まだ終わってないんだったら続きからだけでも聞かせてくれよ。全体は、メモになって回ってくるんだろ?」

「ああ。話の骨子は当番制で記録しているから、週末には回ってくると思うよ」

「鳶野さんも気になっていた八つの習慣については、やっぱり、議論白熱みたいだったわ。今、7つ目の会議の生産性まで話してもらっていたところよ」

「そうかあ。やっぱり、出席してみんなの話を聞きたかったなあ。結構、硬軟入り乱れてというか、分かりやすいところとえ?と言うところがあるからなあ」

「雄二にとっての特に気になる習慣はどれだ?」

「そりゃ、まずは、『なされるべきことを考える』だろうな。それと、結構難しいのが、『会議の生産性をあげる』かもしれない。最後の、『われわれは、を考える』も今一ピンとこないような気がする」

「なるほどな。なされるべきことと組織のことを考える習慣は、ビジョンの策定につながるのでは、というのがわれわれのとらえ方なんだ。会議の生産性については、会議の目的を明確にして、いかに運営するかということで、やはり議論が多かったよ」

「なになに。なされるべきこと、組織のことを考えるというところをビジョンの策定と考えるのか。なるほど。それは分かりやすいかもしれないな。ところで、われわれは、を考える習慣については、まだなんだろ。亜海の持ってきたビールが温まってしまうから、まずは乾杯させてくれ」

「そりゃ、そうだ。じゃあ、お疲れ様、乾杯」

「うまい。仕事の後はこれでなきゃな。ところで、われわれ・・・」

「わかった、わかった。8つ目の『私は』でなく『われわれは』を考える、と言う習慣は、割とすんなり考えた人と雄二のようにピンとこないと感じた人に分かれたんだ。それも、ドラッカーの説明があまり細かく書かれていないからかもしれない。でも、ここで重要なのは、権威というものがそれを持つ人のニーズと機会に対応するのではなく、『われわれ』という組織のニーズと機会を考えることに生じるものだと言っているんだと思う。そこで、ドラッカーはおまけを付け加えている」

「あ、本当におまけって言っている部分ね。『聞け、話すな』だったわね」

「そうなんだ。これは、おまけとして言っているので、別の内容に思えるけど、組織のことを考えて、それを『われわれは』と表現するためには、組織メンバーの言葉を『聞け』ということを言っているんだと思う。つまり、組織のことを考えるためには、自分の考えを押しつけていてはダメだ。自分の意見をまずは封じ込め、耳を傾けていろいろな視点からの見え方、考え方を出させることが『われわれは』に通じるんだと思わないか」

「そう言われてみるとそうかもしれないな。あまりに簡単に説明しているから、単純に話をする時に『われわれは』と言えばいいのか?と思っても見たんだが」

「習慣としては正しいんだ。『われわれは』と話そうとすれば、自然にみんなの意見に耳を傾けることになると考えているのかもしれない」

「そうねえ。みんな偉くなると自信が出てくるのか、自分のことばかり話そうとするような気がするわ。それこそ、『私は』こうしてきた、とか、『私は』こう思う、とか、『私は』ばかりかもしれない」

「読書会では、こんな話が出ていたよ。まあ、原島さんが社長になる前の話だけど、親会社から天下りの社長や役員が来るたびに、若い人の話を聞きたいと言っては、フリートーキングとか、昼食会、夜の懇親会などを開催するんだけど、結局、自分の前の会社での成功物語を長々と話すだけで、若手の意見をじっくり聞いた人はいなかったって。それどころか、若手が意見を言い出すとすぐさま自分の考えで説き伏せてしまうなんてことが続いたらしい。『聞け、話すな』と言わざるを得ない状況に陥りやすいんだろうな」

「なるほど。それは、よくわかる。経営者クラブでも似たような状況だ。人の話をよく聞ける社長というのは非常に少ない」

「やはり、強く意識し続けて、習慣にまでしていかないと身につかないということだな。そして、誰でも身につけることができるとも言っている」

「そこが、ドラッカーのすごいところね。だから、私たちも自信を持って取り組めるのね」

「次の課題は第1章の『成果をあげる能力は修得できる』だから、更に、具体的な意見交換になりそうだね」

「次はなんとしても参加するぞ」

「それじゃ、みやびのサービスに頼ってばかりだから、軽く鍋で締めようか」

「そうね。明日も早起きして頑張りたいものね」

「大将。鶏肉のちゃんこを少なめにして、軽くうどんで締めますのでよろしく」

「あいよ。亜海、鍋の準備よろしく」

「はーい」

(続く)


《1Point》
経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)『私は』でなく『われわれは』を考える

 (8)の『私は』でなく『われわれは』を考える、というのはすべてを網羅する習慣だと思います。常に、『われわれは』という言葉を使う習慣にするだけでも変わってくると思います。

 そのためにも、自分の考えを話すのではなく、みんなの意見・考えを傾聴し、それぞれを検証することが上に立つものの重要な役割としなければいけないと思います。

 部下や同僚の声に本気で耳を傾け、『われわれは』こうすべきであると言えていますか?