居酒屋で経営知識

54.経営者の条件(7)成果をあげる能力

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 天気は快晴だった。

 東京港というのはどこからどこまでを言うのかわからないが、とある埠頭の道路を突き当たりまで行ったところになぜか小さな駐車場と東京港と表示された海側に面した僅かなスペースがあり、バーベキューの穴場として利用している。

 振り返ると紅白のコンテナクレーンが首をもたげており、様々なマークのコンテナや倉庫が並んでいる。

 何年か前、道に迷って偶然見つけたのだが、割と景色もよく、地元の人であろう数グループが楽しげに過ごしていたので、それから時々やってくる。最近は、口コミが流れたのか、駐車場が一杯の時も多くなってきたが、それでもまだ穴場には間違いなかった。

「ジン。テーブル、椅子、タープ完了」

「OK。炭火もそろそろだ。食材を並べたら、ビールを開けるか」

「賛成。亜海。クーラーからビールを出してくれ」

「はーい」

 雄二、由美ちゃん、亜海ちゃんと約束のバーベキュー+読書会整理に来ているのだ。

「ヒャー。この天気にこのビールは最高だね」

「本当ね。ジンさん、炭火が落ち着くまで、読書会の続きを話してくれない?」

「さすが、由美ちゃん。バーベキューとビールだけの雄二とは違うな」

「バカ言うな。俺もメモはまとめてきたぞ。ほら」

「わかった、わかった。炭火にはもう少し待ってもらうか」

 読書会の担当者から送られてきたメモを簡単に読み上げながら、再確認をしていった。

(P31)
・「しかも外の世界の現実は、組織の中の基準によって咀嚼され、報告書という高度の抽象化されたフィルターを通して知らされる。」
(P32)
・「外の世界への奉仕という組織にとっての唯一の存在理由からして、人は少ないほど、組織は小さいほど、組織の中の活動は少ないほど、組織は完全に近づく。」
(P33)
・「しかも地位が上がるほど、外部の出来事よりも内部の問題に注意が向く。」

 組織が大きくなっていけば行くほど、その組織維持のための活動や役割が増えていくことになる。その上、本来事業が行われ、成果をあげるべき外の世界との断絶が起こりはじめると見ている人が多かった。

「確かに、会社が大きくなってくると、起業した時とは全く違ったマネジメントになっていくというのが実感だな」

「雄二の会社でもそうなのか?」

「俺も、改めて反省しているんだ。10人程度の従業員数だった頃は、家族みたいに過ごしていたので、俺の考えどころか、みんなの考えていることがわかっていた。だから、表現が悪くても、日々の会話の中で修正できたんだ。それが、今では、全員の名前なんて覚えられないし、報告書をすべて確認することもできない。何となく、俺の言葉だけが金科玉条のように捉えてしまう若手社員すら出てきている」

「ええー?鳶野さんって、大きい会社の社長さんなの?」

 亜海ちゃんが目をまん丸にしている。

「亜海ちゃん。鳶野さんの会社は、起業してまだ5年くらいだけど、急成長してるのよ。ジンさんが顧問で指導したからよね」

「亜海。聞いて驚くな。今では、パートさんや派遣従業員も入れると100人を超えた」

(P34)
・「組織が成長するほど、特に成功するほど、組織に働く者の関心、努力、能力は組織の中のことで占領され、外の世界における本来の任務と成果を忘れていく。」

 まさに、雄二の言う悩みはこのフレーズに表されているようだ。読書会でも、顧客の元へ行くこと自体が減って、社内の報告や会議資料作りが業務の多くの時間を割いているという意見が多かった。

(P34)
・「外の重要なことは、もはや手遅れという時期になるまで定量的な形では入手できない。」
・「根本的な問題は、組織にとって重要な意味をもつ外部の出来事が、多くの場合、定性的であって定量化できないところにある。」

 経営判断を左右する指標が、当然のことながら定量的なものとして報告され、それを元に外部報告をすることになる。つまり、定量化できないものは、情報としては二の次に置かれているのではないかとの意見が強かった。

 ここで言われているように、顧客情報で重要なものというのは、今後のことにつながるので、定性的な情報であることが多いというのは共通認識だった。

 しかし、日常の業務の中で、定性的な情報を咀嚼する余裕や取り上げようとするトップマネジメントは少ないのではないか。

(P36)
・「外の世界における真に重要なことは趨勢ではない。趨勢の変化である。」
・「分類によって数字は得られるが、そのような数字は現実の状況を反映していない。」
・「人は論理的には優れていないが知覚的な存在である。まさにそれが強みである。」

「人は知覚的な存在であることが強みであるって言うのは、どんなことなんですか?」

 亜海ちゃんの質問。

「定量的な指標などは今は、パソコンなどで瞬時に計算し、表示することができるけど、その数字の裏側に隠れているものというか、数字では表れてこないことは扱えないよね」

「それはそうよね」

「ところが、人間は、その情報を受け取った時の相手の表情とか、関係ないと思われるような別の情報を無意識に比較して、時には、何か変だと感じたり、感覚で物事を捉えることができるんだ。その点で、優れているということだね。それが強みならば、その強みを使うことが人間の役割であり、成果をあげる能力だと言うことだと思うよ」

(P38)
・「したがってわれわれは、一つの重要な分野で強みをもつ人が、その強みをもとに仕事を行えるよう組織をつくることを学ばなければならない。」
(P39)
・「われわれに必要なものは、専門分野の一つに優れた人をいかに活用するかを知ることである。」

 組織をマネジメントする時に、一番重要なのは人事だと言うと、キョトンとする人が多かった。人事は人事部の仕事だから、適材適所とは言うが、各部署の必要性に応じてなされているというのが実態のようだ。

 ただし、やはり、人事こそが方針の明確化と成果をあげる組織をつくるためには最大の決断だと言えるだろう。

(P41)
・「私は、成果をあげる人のタイプなどというものは存在しないことにかなり前に気づいた。」
・「共通点はなすべきをなす能力だけだった。」
(P42)
・「言い換えるならば、成果をあげることは一つの習慣である。」
・「しかし身につけるには努力を要する。」
(P43)
・「卓越するには特別な才能が必要である。だが成果をあげるには人並みの能力があれば十分である。」

 人事は組織として、個々人の強みを把握し、成果をあげるために最善の配置を考えるものだ。同時に、個々人は、期待に答えると言うより、自分の強みを発揮し、成果をあげる点に集中するため、日々を習慣化するために努力が必要だと言うことになる。

 そして、その習慣的な能力を5つあげている。

【成果をあげるために身につけておくべき習慣的な能力】

(1)何に自分の時間がとられているかを知ることである。
(2)外の世界に対する貢献に焦点を合わせることである。
(3)強みを基盤にすることである。
(4)優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中することである。
(5)成果をあげるよう意思決定を行うことである。

「序章にあった『八つの習慣』に対して、これは『5つの習慣的能力』ということか・・・直接成果をあげるための習慣が『八つの習慣』で習慣的能力というのはそれ以前の基礎ということかな」

「そうだな。これらの習慣的能力は人並みの能力として言っている。偉大なピアニストでも、音階を弾くために血のにじむような練習をしてきている。特に基礎的な能力というのは繰り返しが重要なんだろうな」

「そういえば、英会話を今練習しているんだけど、同じだと思うわ。日本語は当たり前にしゃべれるけど、小さな子供って、何度も何度も、たどたどしいけど繰り返しているわよね。今、英語を話そうとして練習しているけど、きっとその基礎的な練習がされていないから、なかなか話せるようにならないと思うの」

「そうかもしれないね。ある程度完成されたフレーズやスピードで、始めようとするから身につかないのかもしれない。子供って、初めは声を出すところから周りの大人の真似をしようとして、少しずつ作り上げていくからね。音を捉えるとか、その音を同じように出すとか言う基礎的能力が付いていないのに、聞き取ったり、話そうとしたりするから成果が上がらないのかもしれない。成果をあげるというのは、同じことなんだ」

「なーるほどな。この5つの習慣的能力が列挙されて、この章は終了だな。次からは、その一つ一つについて、章が割り振られている。これこそ、基礎的能力をどうつけていくかの説明になるわけだ」

「雄二がまとめに入ったようだな。まあ、そろそろ炭も落ち着いてきたので、焼きだすか」

「やったー。バーベキュー始まり始まり」

(続く)


《1Point》
経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

http://amzn.to/rXd8ai

 ここから、成果をあげるための基礎的能力について学ぶことになります。

 結構、具体的な方法がでていますので、ハウトゥーだと思って取り組むことが一番です。

 ちなみに、バーベキューの場所は実在の場所をイメージしています。まだ、バーベキュー自体はやってませんが、何度か行って、穴場であることは確認済です。

 とはいえ、そんな情報はすぐに広まるんでしょう。これからの時期は場所取りが困難になるかもしれませんので、あくまで内緒です