居酒屋で経営知識

51.経営者の条件(4)計画と行動

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

 19時を回った頃からみやびもピークの時間を迎えているようだ。大将も亜海ちゃんもフル回転だ。

「忙しくなってきたね」

「新入社員や異動してきた人の歓迎会の時期だものね」

「確かに。でも、上司と新人という組み合わせは少なくなったように感じるね」

 由美ちゃんとカウンターから店内を見回しながら話している。

「最近は飲み会に行かないとはっきり言う新人が増えたって、人事の係長が言っていたわ」

「一昔前とは変わってきたってことだね。コミュニケーションの取り方もよく考えないといけないという話が多く聞かれるようになってきたよ」

「そうね。飲ミュニケーションにばかり頼っていても、部下が付いてこなければどうしようも無いものね」

「お二人さん、注文も聞かずに申し訳ない。空豆と冷や奴をサービスしますよ」

「え?いいんですか。さっきから、つまみはサービスしてもらっているような気がしますが」

「ははは。宴会料理のキャンセルと注文の聞き間違いで随分あまりが出てるんですよ。突然忙しくなると効率が悪くなりますね」

「では、お言葉に甘えて。キクマサのぬる燗も追加お願いします」

「はいよ。亜海、ジンさんにキクマサぬる燗」

「はーい」

「それで、ジンさん。八つの習慣の続きだけど、なされるべきことと組織のことを考えるというのが、ビジョンの策定の段階と見るってことよね」

「そう考えているんだ。読書会メンバーでも、ここについては、なかなか具体的な議論が難しいようだったね。でも、この視点に対するこだわりを諦めないことが重要かもしれないね」

「そうね。難しいって諦めていたら、結局昔のままのやり方で満足してしまって、世の中の変化に取り残されていることに気づかないかもしれないわね」

「このビジョンの策定につながる習慣で『知るべきことを知った』とドラッカーは言っている。次は、行動だよね。『アクションプランをつくる』のが3番目になる」

「計画ね。ビジョンの達成のために計画を立てるということね」

「そう。行動の前に計画が必要だということだね。この流れについては、誰も異議は無いようだったね。ドラッカーの言い方だと、貢献すべき点を考え、成果と期限を決めた後、制約条件を考えるということになるんだ」

「貢献と成果、そして期限まではわかるわ。制約条件というのは、リスクということ?」

「その疑問も出ていたよ。ただ、その後で、コンプライアンスや自らのミッションなどを検討する言い方になっているので、リスクというよりは、それ以前のアクションの正当性を考えるとした方が良さそうだね」

「あ、ここね。倫理や法律って言ってるわね。その後に『アクションプランとは意図であって、絶対の約束ではない。拘束ではない』ってあるけど、これはアクションプランは守らなくてもいいってこと?」

「そうは言ってないはずだよ。それよりも、計画通りにいかないのが普通だと考えた方がいいね。成功も失敗も新しい機会につながるということで、変化が当たり前なんだ。だから、チェックポイントを設けて、常に修正することが重要だということだね」

「なるほどね。チェックポイントって言ってるけど、マイルストーンって言い換えても同じね」

「確かに最近の言い方だとその方がいいかもしれないね。次回にはみんなに披露してみるよ。そして、アクションプランを立てたら、当然行動だよね」

「行動とは直接言ってないわね」

「読書会でも、その点が出ていたよ。行動については、意思決定・コミュニケーション・機会・会議と4つに分けた習慣としているから、それぞれの関係について、結構議論になったよ」

「そうね。意思決定がなければ、組織では行動するのは難しいし、コミュニケーションは重要よね。もちろん、機会を捉えるのは基本だけど、これと同じように会議の生産性って言ってるのがちょっと違和感があるわ」

「ほとんどの参加者もそれを言っていたね。でも、同時に、よくわかるって言う意見も強かったよ。ドラッカーは企業の中身をよく見ていたから、多くの知識労働者にとって、会議が時間という重要なキーファクターを浪費していると見ていたのかもしれない。会議が多すぎるとか、資料の説明だけで多くの時間を取られる、誰も意見を言わない、トップや同じ人だけが発言するなどという具体例が多く出たのもこの部分だったね」

「それはわかるわ。何か問題が起こるたびに、その対処のための会議体が作られて、会議を開催することが目的になっているようなものも多いのよね」

「アリバイ作り会議ということを言っていた人がいたよ。特に、安全とか、リスク管理とか、なかなか成果を明確にするのが難しいものだと会議の開催と出席を成果指標にしてしまうことが多い。なかなか、やめることが難しいから、新しい発言に対応して資料が増えるなどという悪循環に陥るということもあるそうだ」

「わかるなあ。難しい問題よね。行動の習慣としてどうすればいいんだったかしら」

「その会議の目的を事前に明らかにすることとその目的に集中することだと言っているね。事前に目的が明確で、資料などは関係者に事前配布され、会議では目的以外の脇道にそれないことと、決めたことの共有・フォローをしっかりすることで、成果を上げ、かつ生産性の高い会議にすることができるというのが、合意事項だったよ」

「当たり前に思えるけど、実際にはきちんとされていないから無駄が多いってことね」

(続く)


《1Point》
「経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)『私は』でなく『われわれは』を考える

 (3)アクションプランを作る、で計画し、(4)~(7)が行動の重要な習慣です。これらをきっちり行えていますか?

 特に、会議は主催者が異なり、それぞれに当然必要性が謳われていますから、生産性を上げるには、やはりトップの決断が必要ではないでしょうか。