居酒屋で経営知識

50.経営者の条件(3)なされるべきこと、組織のこと

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい。いらっしゃい。毎度」

「亜海ちゃん。生ビールよろしく」

「はーい。・・・・おまちどおさま」

「ありがとう」

 疲れた身体にスッとしみこむ。

「うまい!」

「今日のお通しは沖縄のラフティーですよ」

「ええ!珍しいですね。こりゃ、柔らかい」

「でしょ。試食会があって、こりゃいけるってんで直接沖縄の会社から取り寄せたんですよ」

「いいですね」

「ジンさんから合格点をもらったんで、メニューに載せることにします」

「こりゃ人気メニューになるかもしれませんね」

「いらっしゃい。ああ、由美っペか。ジンさんも今着いたところだよ」

「そろそろ来る頃かなって思ったの。ジンさん、今日は、研修の日よね。ドラッカー読書会って聞いたので、興味津々で来てみたの」

「うん。やっぱり面白かったよ。こっちが教えられることが多いよ」

「へえー。時間があれば、私も参加したいわ」

「由美ちゃんは、もう、何度も講師で行ってるんだから、いつでも大丈夫だと思うよ」

「それなら、次は休みとっても行っちゃおうっと」

 由美ちゃんと生ビールとラフティーで乾杯し、読書会形式の研修での中身の話になっていった。

「今日は、序章の八つの習慣の部分だったので、8つの各項目について、それぞれの経験からいろいろな具体例が出て面白かったよ」

「うわー。経営者の条件は私も読んでいたけど、どんな意見が出るのかしら。一般従業員の視点だと経営者や上司への注文になるような気もするけど」

「そう考えた人もいたね。たとえば、(1)なされるべきことを考える、に注目した人で、『なされるべきことこそ、上司の目標設定だ』という意見が出たんだ。それに対して、『なされるべきことは、上司が考えるだけじゃ無く、現場の担当者から上がってきた要望をふるいにかけ優先順位をつけて取り組む方針を出すのが上司の役割だ』というのがあったね」

「うーん。どちらも必要かもね。それぞれの立場でなされるべきことがあるような気がするわ」

「そうだね。役割分担という考え方だけじゃ無く、それぞれの立場から考えられる『なされるべきこと』を出しあうといことが重要だというのが多かったね。立場立場でなされるべきことが違ってくるという意見も出ていた。つまり、ここで言う『なされるべきこと』というのは、意思決定の時に、やりたいことに向かうのでは無く、大目標でもあるミッションや方針に向かって、やりたいことはこうだが、果たして今やるべきことなのか、という問いを発することが重要じゃ無いかという意見では多くの人が頷いていたね」

「なるほどね。なされるべきことというのは、強みにつながっていなければいけないのかもしれないわね」

「それそれ。得意なものに集中するという見方もできる。なされるべきことと考えると『やらなければいけないこと』とも考えてしまうよね。でも、多くのことをやろうとしてもうまくいかないから、なされるべきことには優先順位をつけ、一番優先順位の高いものに集中するという決断が必要なんだ。つまり、それが得意なもの、強みにつながる」

「なされるべきことというのは、成果につながらなければいけないから、集中して見えるようにすることね。それは、個人の成果と言うことではないわよね」

「そう。それで(2)組織のことを考える、ことが同時に行われる必要があると言うことだと思うね。『なされるべきこと』が同時に『組織にとってよいことか』と問うことが重要なんだという意見も出ていた。これらは、一緒に考えるべきだろうってね」

「なされるべきことが、本当に組織にとってのなされるべきことかというチェックをしろって言っているのね」

「そういう意見が多かったね。このあたりは、割と合意できる人が多かった。ただし、本当に『なされるべきこと』は何かというそもそもが難しいというのが、大勢を占めたかな」

「もちろんそうよね。それこそ、強みにつながるんだから、簡単じゃないわ」

「この二つだけで、今日は時間オーバーになったよ」

「でも、わかるわ。なされるべき、というのは、もしかすると企業の存在自体に関わることかもしれないから」

「うん。確かにその通りだと思うよ。組織にとってなされるべきことを考えるというのは、組織の存在意義を考えることにつながると思うから、ビジョンをつくることと大きな差はないかもしれないね。そうだ。由美ちゃんのおかげで、一つヒントになったよ。ミッションへ向けて考えるビジョンは、なされるべきことの総体に違いないね」

「そうかあ。そう考えると、すっきり考えられそうね」

 ラフティに添えられたほうれん草を口に運びながら、流れを感じた。

(続く)


《1Point》
「経営者の条件」ドラッカー名著集1 上田惇生訳 ダイヤモンド

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(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)『私は』でなく『われわれは』を考える

 今回、なされるべきこと、組織のことを考える習慣を「ビジョンの策定」と考えて見ました。

 これは、私の試論ですので、ご意見があればぜひお寄せください。(このメルマガの返信で私に届きます)