居酒屋で経営知識

62.経営者の条件(15)最も重要なことに集中せよ

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。毎度」

 いつもの縄のれんをくぐると大将の声が飛びついてくる。そして、最近は、亜海ちゃんが目をくるくる回しながら、生ビール機に集中する。

「はーい。北野さん専用ビールでーす」

「専用って、同じエビスだよね」

「えへへ。気持ちが入ってるんですよぉー」

「そりゃ、ありがたい。しっかり味わうね」

「今日は、お一人ですか?」

「ええ。そういえば、最近は、雄二か、由美ちゃんが一緒でしたね」

 読書会を始めたからか、みやび参集率が高くなっているかもしれない。元々は、一人でぶらりとやってくる店だったのに、変わってくるものだ。

「大将、今日は何がいいですかね」

「天然物の鮎が入ってますよ」

「そうか。まさに旬ですね。もちろん、塩焼きで」

「はいよ!」

 1人では来たのだが、次の読書会のために由美ちゃんからチェック依頼の宿題があったので、ipadminiで確認しながら鮎を待つことにした。

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第5章 最も重要なことに集中せよ

(P138)「成果をあげるための秘訣を一つだけ挙げるならば、それは集中である。成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない」

 最初の部分だ。由美ちゃんのコメントメモ。

・集中とは、一度に一つの貢献だけを考えること。複数のことに対応できる有能な人であっても、重要なこと、機会に関わることには、集中したまとまった時間が必要。

『成果をあげる人というのは、多くの重要な仕事を持っているが、そのなかから最も重要なことに集中することで、着実に成果を積み上げると考えられる。あれもこれも手を出す人は、結局成果を出すのが遅くなるか、タイミングを逸するとも言えるのでは?』

 気づいた点を注釈として挿入していった。

(P141)「成果の上がらない人は、第一に、一つの仕事に必要な時間を過小評価する。・・・第二に、急ごうとする。・・・第三に、同時にいくつかのことをする。」

・成果をあげるためには、一つのことに十分な時間をとって、じっくり取り組むということを言っているのだろう。

『まさに、その通り。あまりに、当然のことのようでありながら、日々の仕事では、それを忘れてしまうのではないか。それは、きっと、重要でない仕事が多すぎるため、十分な時間を取れないことに一因があるという感想が多いと予想される。ここは、多くの人の意見を出させてみるべき』

(P142)「集中のための第一の原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである」

・過去を計画的に廃棄するとあるように、常に、陳腐化したものなど自分達が行うべきでない仕事を廃棄するというのは、言葉ではやさしいが、実際には困難が伴う。

『ここが、最も重要なことに集中するために必要な部分だと思う。昔からやっていて愛着があるから続けている仕事というのは結構あるものだ。成果が期待できなくなったものを捨てることが、本当の仕事に集中するための必須条件になるのかもしれない。以下の部分を参考に取り上げては?』

(P142)「完全な失敗を捨てることは難しくない。自然に消滅する。ところが昨日の成功は非生産的となったあとも生き続ける。もう一つそれよりもはるかに危険なものがある。本来うまくいくべきでありながら、なぜか成果のあがらないまま続けている仕事である」

『我々のようなビジネスにとって、過去の成功体験は常に危険なのかもしれない。あとは素晴らしい技術など、華々しく登場してきた新規事業などが成果があがらなくても続けてしまう可能性をもっている。この判断は、経営者にとって非常に重要になる』

(P146)「古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法である。アイデアが不足している組織はない。創造力が問題なのではない。せっかくのよいアイデアを実現すべく仕事をしている組織が少ないことが問題である。みなが昨日の仕事に忙しい」

・断捨離という言葉が流行った時期が合ったが、誰でも過去に集めたものは、捨てがたく、いつか使うかもという期待感がある場合もある。似たような気がする。まずは、曖昧なものは捨て去ってしまう勇気が必要なのかもしれない。

『勇気については、あとの方に出てくるので、ここと関連づけてはどうだろう。優先順位の決定のためには、分析ではなく勇気が必要と言っている』

(P151)「優先順位の決定には、いくつか重要な原則がある。すべて分析ではなく勇気に関わるものである。第一に、過去ではなく未来を選ぶ。第二に、問題ではなく機会に焦点を合わせる。第三に、横並びではなく独自性をもつ。第四に、無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ」

『この重要な原則をもって、成果という視点のみをもって過去を廃棄することが重要だ。ただし、今は目に見える成果は出ていないが、未来に向けて育てているということが明確なものであるなら、例外と考えてもいいのではないだろうか。それを明確にするのは、トップの仕事かもしれない』

(P148)「トップの本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく今日と違う明日をつくり出すことであり、それゆえに、常に後回しにしようと思えばできる仕事である。状況の圧力は常に昨日を優先する」

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「過去の廃棄にとって、重要なのはトップの強い意志しかないのかもしれないなあ・・・」

「え?ジンさん、何か注文しました?」

「あ、もしかすると独り言言ってましたか。でも、そろそろお酒のタイミングですね。鮎はどうですか?」

「ちょうどいい頃合いです。じゃあ、出しましょうか」

「キクマサの樽酒と一緒にお願いします」

「あいよ!亜海。ジンさんにキクマサの樽をよろしく」

「はーい」

(続く)


《1Point》
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 重要なことに集中するためには、重要でないことを廃棄し、集中するための時間を確保することが、ここの胆だと感じました。

 優先順位と同時に劣後順位をつけ、劣後順位にしたがって計画的に止める(撤退する、譲渡・売却する)ことをすることで、一番重要なことに取りかかれると言っているようです。

 過去の成功体験や会社の歴史にとって重要な事業については、聖域化されてしまうことがよくあります。前回の欠かせない人と同様、欠かせない事業というものはもう一度見直して見るべきです。

 本書の中でも言っていますが、今、この事業をやっていなかったとして、これからやりますか?と問うてみましょう。

 もし、やるべきと言う強い回答が出なければ、即座に止めると決定することが必要だと思います。