居酒屋で経営知識

63.経営者の条件(16)意思決定とは何か

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長

「へい、いらっしゃい。毎度」

「亜海ちゃん、ビール!」

「はーい」

「ジンさん、暑そうですね」

「とうとう夏到来という感じになってきましたね。特に、まだ湿度が高いので、ジトッとしますよ」

「はい、ジンさん。とりあえずの枝豆とエビスでーす」

「・・・うまい!枝豆も味が濃くなりましたね」

「へい、いらっしゃい。おや、今日もお揃いですね」

 雄二と由美ちゃんが到着した。

「すぐ追いつくって言ったのに、もう飲んでるんか。まったく、少しは待てないのかね」

「無理だって。亜海ちゃんも飛んでくるしね。ほら、2人分もう出来そうだ」

「よっしゃ。何はともあれ、乾杯」

 暑くなると特に最初の1杯のうまさが増すような気がする。

「おいしいわ。今日最大の意思決定がみやびという現場にすぐ行くだったけど、行動が早かったわね」

「俺たちゃ、成果をあげるエグゼクティブだからな」

「ま、そういうことにしておきましょう」

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「それでは、いつものように進めますのでよろしくお願いします。
今日は、第6章の意思決定とは何か、に入ります」

「私から発表します。意思決定については、エグゼクティブの決定として書かれていますが、一般人であっても原則は一緒だろうと考えました。その中で、特に注目したのはこの部分です」

→「圧倒的に多く見られる間違いは一般的な問題を例外的な問題の連続として見ることである。一般的な問題としての理解を欠き解決についての基本を欠くために、その場しのぎで処理する。結果は常に失敗と不毛である」(P168)

「この部分は問題解決の意思決定に関わる部分だと思いますが、現場での問題対応についても同じように感じるんです。本当は、全体に及ぶ原因があるのに、例外的な問題として対応するから、結局は、似たような問題が次々に起こることになってしまいます」

「それは同感です。我々は、メンテナンス部隊ですが、数年前までは、配管からの漏れは、常に個々の取り付け壁面の条件による例外的な問題として、1件ごとに現場合わせで継ぎ手を加工していました。それが、新しく来た技術部長が各現場の調査を自らして、その原因は機器の振動を直接伝えてしまう継ぎ手設計の問題であって、振動を吸収する継ぎ手をある位置に取り付けるという設計変更で解決してしまったんです。これなどは、一般的な問題として見ることで正しい意思決定を行うことができた例じゃないかと思いますね」

「なるほど。まさに、事例として皆さんに共有してもらうべきでしょうね。ありがとうございます」

「では、次は私の番です。私は、主に研究開発を担当していますので、この部分に目がとまりました」

→「今日にいたるも、研究活動が真に生産的であるためには、組織の破壊者、未来の創造者、今日の敵にならなければならないということを理解している企業人があまりに少ない」(P158)

「研究開発で一番難しいのは、今の仕事に寄与しないことをやっているので、遊んでいるように思われてしまうことなんです。特に、これまでのやり方を根本的に変えるような新しいものなどは、やっかいものとしてお客さんに提案することすら抵抗されることがあります」

「そうですか。この事例はベル研究所についてですが、寸前にこう書かれていますね」

→「しかし事業がいかに能率的であって、そのような状況を自らの手で陳腐化させることを目的とする世界で最初の企業研究所だった」(P158)

「具体的には何がその時の事業を陳腐化させたのかまでは、わかりませんが、陳腐化させると言うことは、より先端的なものを開発していったということですよね。研究所というのはそういうものじゃないか?って私たちなどは思ってしまうんですが、この会社の研究開発でも実際にはそうなっていないということですね」

「事実、研究開発に携わっていると不安になることがありますね。ちょっと、一般的なコメントの部分ですが、やはりここにポイントがあると思っています」

→「事業を運営するものには自由を与えなければならない。責任と責任に伴う権限を与えなければならない。何が出来るかを示す機会を与え、あげた業績に対して報いなければならない」(P162)

「自由を担保するには、責任と権限が必要となってくるんだと思います。そこを明確にせず、現状の利益につながる部門や個人に権限を残したままにする状況が多いのではないでしょうか。つまり、過去の成功した事業や仕組みを守ることで継続を図ろうとしてしまうんです。当然、まだ結果が見えない新規の研究開発に権限を与えることは出来ないですよね」

「ここまで出てきた意思決定の対象は、問題に対するものと新たな事業に対するものだと思いますが、これらは区別すべきなんでしょうか」

「区別する必要はないのではないでしょうか。ただ、一般的な問題なのか、真に例外的なのかの区別はしっかりしなければいけないと言っていると思っています。そのためにも、現場を見ることを日常的な活動として、現実から乖離しないようにする必要があります」

→「成果をあげるエグゼクティブは、原則や方針によって一般的な状況を解決していく」(P173)

→「自ら出かけ、自ら現場を見ることを当然のこととしないかぎり、ますます現実から遊離する」(P188)

→「自ら出かけ確かめることを怠れば、適切でも合理的でもなくなった行動に固執することになる」(P189)

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「意思決定のために重要なのは、明確なミッションというのは不動だね。それがなければ、原則として一般的な問題に対処できない。次に、一般的な問題と例外をしっかり見極めること。そのために、自ら現場に出て確かめること。そこがポイントだったと思うわ」

「大きく捉えるとそうだったね。前提条件が曖昧だと結局、責任をもった意思決定は難しいということだね。特に、目の前に利益や成功体験がある時に、そこから先に進むのは大きな決断が必要だから、曖昧なままにしていてはいけない」

「目の前に、大将自慢の玉子焼きがある場合、現場では食べることが必要だというのがわかるんだがな。いいかな」

「雄二が気弱に聞いてくるなんて珍しい。そろそろ、次のステップに進もうか。さあ、飲もう」

「オッケー。今日のまとめが送られてきたら、確認よろしくね」

 意思決定は常に現場で行われる・・・なんちゃって。乾杯!

(続く)


《1Point》
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 意思決定については、その場になった時を考えて見るのでしょうが、なかなか具体的に対処するのは難しいとは思います。

 キーワードは、最後にまとめたように、本当に例外的な問題なのかと問いかけること、そのためにも、意思決定する立場の人間が、自ら現場に行くことではないかと思っています