居酒屋で経営知識

(72): 組織成立論

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい。いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「いやー、涼しくなって気持ちいいですね」

「ホントですねえ。少し前まで、みんなグターってしてたのに、季節が巡るっていいもんですね」

「四季のある国で良かったって思いますよ」

「はーい。ジンさん、お待ちどー様」

「亜海ちゃん、サンキュー」

 生ビールを飲みながら、去年はどうだったかなあと考えて見るが、既に、どんな天候が続いたのかわからなくなっていた。

「いらっしゃい。おや、鳶野さん、いらっしゃい。ジンさん、来てますよ」

「やっぱり居たか。まあ、探さなくていいのが助かるが」

「雄二どうした」

「いや、この近くでベンチャー企業の研修があってな。半分講師、半分研修生で参加してたんだ」

「やるな。ベンチャー企業の講師か」

「ま、一応、ベンチャーとしての実績と中小企業診断士というのが大きいな」

「ま、お疲れ様」

「うまい。最近、講師はいいんだが、研修を受ける立場になるととたんに辛くなるよ」

「批判しながら聞いているから疲れるんじゃないか」

「あれ?よくわかるな」

「そんなところだろう」

「まあ、お前の考えた通りかもな。ところで、原島さんとこの野田に講義したらしいな」

「それこそ、地獄耳だな」

「偶然、昼間の通りですれ違って、北野先生によろしくって言いながら、受験指導校へ向かって行ったよ」

「なーるほど。講義って言っても、ここで飲みながら話しただけだけどな」

「なんだ。抜け駆けかと思ったよ。しかし、2次の話は飲み屋では難しいだろうに」

「本人は、息抜きに来たんだ。そこで、1ポイントだけ、その日に勉強したことをおさらいしたくらいだよ」

「ふーん。ちなみにどんなことだったんだ」

「確か、雇用管理だったな」

「人事か。そういえば、今日の研修でも少しやったな。その人事の前の講師の話がよくわからなかったんだった。組織の基本原則の前に伝統的組織論という話をサラッとされたんだが、メモを取らなかったんで思い出せないな。分割とかなんとか言っていたが、わかるか?」

「組織の成立という考え方だと一般的には、その伝統的組織論とバーナードの成立要素になるのかなあ」

「バーナードね。それならわかるが、あいつはそれについては触れていなかったな」

「バーナードの言った組織成立の要素はわかっているわけだ」

「当たり前だ。

(1)共通目的
(2)貢献意欲
(3)コミュニケーション

の3つだろ」

「お、さすが。バーナードによると、組織というのは『2人以上の人々の意識的に調整された諸活動ないし諸力のシステム』であると言っている。その基本要素を3つ挙げているわけだ。それに対して、伝統的組織論では、個人でやっていた仕事が増えていって組織的に行うようになる過程を4つのサイクルで説明しているんだ」

「それは診断士の勉強範囲だったか?覚えていなかったんだが」

「そのはずだが。まあ、4つのサイクルというのは、確かこうだった。

(1)職能分割:一人できる仕事には限界があるので複数の人に仕事を分割して割り振るようになる(分業)

(2)職務明確化:職能分割で分割された仕事(職務)の内容を明確にする(職務記述書)

(3)部門化:分割した仕事を似たもの同士でグループ化する。これは、現在の組織の各部門に分かれた状態だ。(たとえば、経理部門、営業部門、調達部門など)

(4)階層化:部門化された組織を上下関係の階層化する

最初の2つで分化していき、次の(3)(4)で統合するという考え方だ」

「伝統的組織論というのは、まあ、こう出来上がってきたというプロセスを言っているだけのようだな。バーナードの3つの要素のように、実際の業務を分析するには役に立たんな」

「雄二にそう言われてみると、2つを対置しても仕方がないかもしれないな。なるほど」

「よっしゃ。ジンに感心させたところで、酔っ払いのサイクルに入ろうぜ」

「鳶野さん。いいサンマが入ってますよ。刺身OKです」

「大将。それを早く言ってよ。サンマの刺身頼むよ」

「はいよ!ジンさんはどうします?」

「刺身は雄二のをつまむんで、塩焼きでよろしく。もちろん、キクマサの樽酒で」

(続く)


《1Point》

  経営組織について振り返ってみたいと思いました。この数年の中では、何回か出てますが、復習のつもりでどうぞ。

 伝統的組織論のサイクルでは、職務記述書で職務を明確にするや部門が階層化して大きな組織になっていくという流れがイメージできればいいと思います。

 小説内でも雄二が言っているように、バーナードの組織成立の3要素は、組織をリードする人にとって重要な要素です。

 つまり、

(1)メンバーに共通目的が明確に認識されてますか?
(2)その目的に向かって個々のメンバーが貢献する意欲を持って取り組んでいますか?
(3)メンバー間(もちろんリーダーとの間でも)コミュニケーションがスムーズにいってますか?

という問いで組織の評価が出来ますね。

 要再確認です。