居酒屋で経営知識

(73):組織の管理原則

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

 みやびのカウンターを陣取った二人がサンマの刺身と塩焼きを肴に語り合い、そろそろ今夜の締めの時間が近づいてきている。

「大将。ようやく、心置きなくちゃんこ鍋を注文できる季節になりましたねえ」

「ジンさん。人は正直なモンですよ。今週初めから鍋の注文がうなぎ登りです」

「そうでしょうね。まさに、食の季節ですから、身体を絞っておかないといけないですね」

「ジン。そういえば、今年は天候不順でランニング頻度が落ちたよ。やっぱり、ジムだけじゃ、体重維持は無理があるな」

「雄二のように、自宅にジム機器一式あっても、やっぱり外のランニングがいいか」

「そりゃそうさ。精神的にも全く違う。まあ、夏に走るのは、ある意味、自殺行為だからトレッドミルに頼らざるをえないが」

「これからは、いい季節だな」

「今夜は遅くならないようにして、明日朝のジョギングに備えるべきだな」

「と言うわけで、ちゃんこを頼むか」

「おう、そう来なくちゃ」

「ジンさん、鳶野さん、了解!亜海。カウンター、鍋の準備よろしく」

「はーい」

 亜海ちゃんがさっそくガス台や鉄鍋の準備をするのを眺めながら、ふと思い出した。

「そういえば、野田君から組織の管理原則についての確認メールが来ていたな」

組織の管理原則?あれか。4つの原則だったか」

「あ、そうか。それだな。野田君の質問は、それぞれの原則に矛盾はないのか?というものだった。何の原則だったか、思い出せなかった」

「お。ジンが思い出さないとは、結構酔ったな」

「いやあ。そこは、この前まで受験生だった雄二の方が記憶が確かだろう」

「では、俺様が教えてやろうか。エヘン。4つだったな。

(1)専門化の原則
(2)権限・責任一致の原則
(3)命令一元化の原則
(4)統制範囲の原則

と言うことで間違いなかったよな」

「間違いないな。では、先生。中身を簡単に説明よろしく」

「よろしい。まず、

(1)『専門化の原則』だが、組織の職能を分割し、構成員は出来る限り単一の職能に従事することで効率かつレベルの高い成果をあげるべきだという原則になる。

(2)『権限・責任一致の原則』は、各構成員の権限と責任は等しくならなければいけないという、個人的には一番重要だと感じる原則だ。

(3)『命令一元化の原則』では、組織目標に集中するには命令系統が一つであることが必要だという考え方だ。

最後に、
(4)『統制範囲の原則』とは、管理(統制)する部下の範囲を限定することによって管理効率を上げるという考え方になる」

「素晴らしい。まさに優等生の回答だな」

「で、野田は、何が矛盾だって言ってるんだ」

「専門化をしていくとどんどん組織単位が小さくなってくるなかで、統制範囲の原則では部下の範囲を小さくしていくわけだから、小さな専門部門がどんどん増えていってしまうんじゃないか、と言うようなことだな。そうすると、命令一元化も困難な組織になってしまうという見方だ」

「それも正しい見方じゃないか?専門化ではなく、たとえば、工場などでは多能工化という方向も増えてきて、専門化が必ずしも効率的でレバルが高くなる訳じゃない。組織単位が小さいことで、確かにそれぞれの管理はやりやすくなるが、全体を管理するのがどんどん複雑になってしまうとも言えるよな」

「管理原則の父と言われるアンリ・フィヨールは『管理とは、計画し、組織し、指揮し、調整し、統制するプロセスである。』と定義して、14の管理原則を示しているんだが、その中には『階層組織の原則』というのがあって、これによって解決をしようとしたのかもしれない」

「まあ、いろいろな環境が変化しているから、古典的な組織論では無理があるのかもしれないな。正直言って、この4つの原則のうち、『権限・責任一致の原則』以外は、時と場合によって判断レベルが変わってくると思うんだ」

「そうだなあ。雄二の言うとおりかもしれない。グループウェアやクラウドを使った共同作業など、従来のFace to Faceしかなかった組織運営が形をなさなくなってきたのかもしれない。そういう意味で言えば、権限と責任を一致させ、本人の位置づけと役割を明確にするということを軸に、新たな原則を整理する必要があるのかもしれない」

「お話中ですが、ちゃんこの準備できましたがどうしますか?」

「もちろん、すぐやってください。我々の原則は、まずは、飲んで、食べようですからね」

「ジンも人間が柔らかくなってきたな」

(続く)


《1Point》

 4つの原則は、たぶん今でも経営組織の定番だと思いますが、鉄則ではないので、実務では注意が必要かもしれません。

 フィヨール(もしくは、ファヨール)の14の管理原則は、以下のようになっていました。(Wikipediaより抜き出し。番号は筆者)

(1)分業
(2)権威と責任:命令する権限と、それに伴う責任
(3)規律
(4)命令の統一(一元化):特定の業務の担当者は、必ず単一の管理者の指揮命令を受けるべき、とする原則。
(5)指揮の統一:目的をもった組織は、1人の管理者の下、1つの計画の下に業務遂行すべき、とする原則。
(6)個人利益の全体利益への従属
(7)公正な従業員報酬
(8)集権:環境に応じ、許される限り(程度)において管理者に権限を集中すべき、とする原則。
(9)階層組織
(10)秩序:適材適所の確保。
(11)公正
(12)従業員の安定:技能の習得には時間がかかるので、長い目で見守り、頻繁な人事異動は控えるべき、とする原則。
(13)創意(イニシアティブ):計画を立案し、実行すること。組織のすべての階層にその自由を与えることで、士気を高める。
(14)従業員の団結

 ただし、これらの原則は絶対的なものではなく、すべて程度問題であり、事態や人間、その他の変化・変動要因を考慮するべき、との注意も残している。とのことです。さすがに決めつけられなかったと言うことでしょう。