居酒屋で経営知識

(71):雇用管理

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい。いらっしゃい。ジンさん、毎度」

「はーい。ジンさーんに生一丁」

「うまい!もう、亜海ちゃんの注いだ生ビールじゃないと満足できないよ」

「うれしー。1杯サービスしちゃいます」

「いいよ、いいよ。無理しないで」

「ジンさん。大丈夫です。まだ、大森さんの顧問料でビールは無料ですから」

「あ、そうだった。忘れないうちに大森さんの店を見に行かないと顧問契約違反になってしまいますね」

「まあ、慌てなくても大丈夫だとは思いますがね。あ、いらっしゃい。えっと、野田さんでしたかね。原島さんの会社の」

「あ、はい。野田です。ご無沙汰しています。北野先生。やっぱり、いらっしゃいましたね。良かった」

「どうしたの?」

「いえ、特にはないんですが、ちょっと、今日は試験勉強を一休みしようかと思いまして」

「そうか。1次は無事通ったんだったね。あと、1ヶ月半かあ」

「北野先生から、時々はいつもの机から離れて復習することも必要だって聞いていたので、せっかくなら、先生と飲みたいなあって思ったんです。ここに居なかったら諦めようかって思ったんですが、良かったです」

「そんなことなら、電話でもメールでもくれれば良かったのに」

「ええ。ちょっと験担ぎでもないですが、北野先生に会えれば大吉かなと思っていたんでうれしいです」

「まあ、そういうことなら、ビールでいいかい?」

「はい」

「はーい。おまちどおさま」

「早いですね」

「えへへ」

「じゃあ、野田君の2次試験突破を祈って乾杯!」

「かんぱーい!」

「さすがに2次の勉強は大変だろう?」

「ええ。まずは、試験が時間との闘いですよね。先生がよく言われるように、自分のやり方をしっかり見につけないと、書く時間がまったくなくなってしまうんです」

「そこだよね。こればっかりは反復練習しかないけど。そういえば、受験指導校へ行ってるんだよね。1次が終わって、2次の予想は出ていた?」

「ええ、いろいろ出てました。今は、それに対応する予想問題に取り組んでいます」

「どんな予想が出てた?」

「実は今日やろうとしたのは人事関係の雇用管理です」

雇用管理か。まあ、人の問題は、直接のテーマじゃなくても、課題や対策として取り上げられやすいかもしれないね」

「先生だったら、どんな問題を出しますか?」

「うーん。出題者をしたことがないから予想もつかないけど、最近の雇用問題を反映すれば、

(1)雇用の複線化
(2)採用後の配置管理
(3)ジョブローテーションや社内ベンチャー制度などの諸制度
(4)自己申告制度

あたりが鉄板かな」

「え?雇用の複線化ってなんでしたか?」

「あ、これは、新卒学卒者の採用に偏っていたものを、中途採用や契約社員などさまざまな形での採用方法、契約方法を取り入れて、偏りをなくそうという考え方だね。世の中の変化が早くなってくると技術の陳腐化とか、製品自体のコモディティ化がすぐに生じてしまい、同じような環境・教育で育ってきた人員だけでは対応できなくなってしまうので取り入れられてきたものだ。まあ、外資系企業では当然の考え方だけど、終身雇用のスタイルが定着してしまった従来型の企業で特に意識的に取り組んでいると言えるだろうね」

「なるほど。確かに、課題や対応策のポイントに出そうですね。中小企業では、新卒採用自体が難しいと聞きますけど、キーマンとなる技術者の高齢化は大きな課題となっていますよね」

「そうだね。それ以上に、せっかく採用しても、不満を感じるとすぐ転職してしまうという声も多いと思うのでそのあたりも、対策を述べるということも考えておいたほうがいいね」

「その対策としては、自己申告制度などを利用して、本人の希望を勘案した配置管理、ジョブローテーションによる適性把握などが使えるということですね」

「そのとおり。割と定番の対策ばかりだから、目的とその意味するものを把握しておけば、回答としては使いやすいかもしれないね」

「はい。ちょっと、自信が出てきました」

「その調子だ。これは、個別テーマじゃなく、いつも言ってることだけど、事例文を読んだとき、まず、意識することはなんだったか覚えてる?」

「ええっと。まずは、その企業のドメインを明確にせよでしたね」

「そう。もちろん、経営者がミッションを語っていたり、創業者の思いが出てきたら、それを書き出して、ドメインとセットにすることだね」

「次は、SWOTを意識せよ、ですね」

「よっしゃ。野田君は大丈夫だ。後は、あきらめないということだ」

「はい!ありがとうございます」

(続く)


《1Point》

 予想はなんの根拠もありませんので、気にしないようにお願いします。

 ただし、雇用や人事対策については、そのものずばりの対応策につながりますので、整理しておいても損はないでしょう。

 キーポイントは、適材適所以外にないかもしれません。

 あとは、モチベーションくらいですかね。モチベーションが落ちている企業の事例だと、業務を変える配置転換が考えられます。また、責任と権限の一致という面がチェックポイントになるかもしれません。

 予想問題が的中したということは、ほとんど聞きませんので、まずは、回答方法の練習で使うならいいですが、その回答を覚えるというような勉強方法は非効率的なのでやめましょう。

 初めての企業を診断し、課題と対策をアドバイスするのが、2次試験だと考えれば、相手を理解しようとする気持ちが一番です。そのために、ミッションとドメインは忘れないようにお願いします。